■第10話『それでも、秘密はふたりのままで』
――誰にも言えない。だけど、誰よりも誇れる。
この“秘密の夫婦”こそが、私たちの愛のかたち。
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新年度の春。
佐伯瞬は社会人2年目を迎え、
慌ただしい業務に追われながらも、
日々の生活リズムを少しずつ掴みつつあった。
通勤電車。
誰もがスマホに夢中になるなか、
瞬はふとニュースアプリを開いた。
〈綾瀬ほのか、今年初の舞台主演決定〉
〈国際映画祭にもノミネートされた注目作〉
(……やっぱり、君は遠くにいる)
そう思いながらも、
その記事に映る“ほのか”の横顔を、
どこか誇らしげに見つめていた。
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夜。
瞬が帰宅すると、玄関の奥からは
子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
「パパおかえりー!」
「ひこうきー! おそらのパパー!」
双子の陽翔と紬が、瞬の足元に駆け寄る。
その後ろには、部屋着に着替えたほのかが立っていた。
「お疲れ様。今日は……早かったね」
「うん。定時ダッシュ。パパ業のほうが忙しいから」
「ふふ、ありがと」
二人は目を見合わせ、
自然な流れでキッチンへ並んだ。
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食後のひととき。
子どもたちが眠りにつき、
静けさが戻ったリビング。
ほのかが一枚のチラシを差し出す。
「……この舞台の最後、舞台挨拶で一言だけ“自由に話してください”って言われてるの」
「何か、伝えたいことある?」
ほのかは少しだけ悩んで、言った。
「“私の大切な人へ、ありがとう”――
それくらいかな」
瞬は頷く。
「……それで十分、届くと思う」
二人の間に流れる、
静かであたたかな空気。
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そして、舞台挨拶当日。
満員の劇場。
最後にマイクを握ったほのかが、
ほんの少しだけ、客席に視線を走らせた。
(そこに、あなたはいない。
でも――この言葉は、あなたに届いてほしい)
「私は、“誰か”じゃなくて、“あなただから”結婚しました。
……それが、私の人生でいちばんの、誇りです」
会場が静まりかえる。
だが誰も、“それが誰か”を知る者はいない。
それでいい。
それが、ふたりの選んだ“秘密のかたち”。
⸻
帰宅した夜。
瞬はテレビでその挨拶の一部を見ながら、
微笑んだ。
隣で眠る彼女の手をそっと握り、囁く。
「……俺も、君と結婚できたことが、人生でいちばんの奇跡だよ」
“誰にも知られない”けれど、
“誰よりも確かな”愛のかたち。
それはこれからも、
この家で静かに、あたたかく、続いていく。
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