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■第5話『心音、初主演へ。そして“心の迷い”の先で』



――憧れと現実の狭間で、自分を見失いかけたとき。

差し伸べられたその手が、“私らしさ”を思い出させてくれた。



春の風がスタジオの通路を吹き抜ける早朝――

佐伯心音は、主演ドラマのクランクインを迎えていた。


「主演・佐伯心音、入りまーす!」


初めての主演、初めてのリーダー。

現場のスタッフ、共演者たちは彼女に一斉に注目していた。


緊張で手が震える。

セリフは覚えたはずなのに、声が思ったより小さい。


カットがかかり、演出助手が近寄ってくる。


「心音ちゃん、もう少し感情を出して。今のはちょっと弱かったかも」


「……はい、すみません」


心音の表情が少しだけ曇る。


(お義姉様なら、こんなときも堂々としてた)

(自分はまだ……全然、足りてない)



夜。

現場から戻った心音は、久々に兄・瞬の家を訪れていた。


リビングでは、子どもたちが心音に飛びつき、遊びたがる。


「おかえりー! こねね、おしごとどうだったー?」

「すごく……大変だった。でも、がんばったよ」


その様子を見ていたほのかが、そっと紅茶を差し出す。


「一杯、落ち着いてから話そっか」


心音は少し黙っていたが、やがてぽつりと漏らす。


「……主演って、想像以上に孤独です」


「皆、私の一挙手一投足を見てる。

期待されてるのはわかるけど……自分にその価値があるのか、わからなくなる」


ほのかは静かに頷いた。


「うん、わかるよ。私も何度もそう思った。

でもね、“主役”って、みんなに見られるんじゃなくて、

みんなの“背中を見せる役”なんだと思うの」


「自分がどう見られるかじゃなくて――

自分が何を信じて、何を届けたいか。

それさえ見失わなければ、ちゃんと“伝わる”よ」


心音は涙ぐんでいた。


「……やっぱりお義姉様は、私の中の“憧れ”です」

「でも、私……私自身の“光”になりたい」


「なれるよ、絶対に」


ふたりは静かに笑い合い、隣の部屋から寝息が聞こえてきた。



■翌日。

再び現場に立った心音は、

一歩一歩――自分の言葉で、自分の芝居を届け始めた。


監督がモニター越しに頷く。


「……やっと、自分の芝居になってきたな」


心音はラストシーンを撮り終えたあと、スタッフに向かって深々と頭を下げた。


「ご指導、本当にありがとうございました。

……この作品、絶対に良いものにします」


拍手が起こる。

心音は、もう――“誰かの影”じゃなかった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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