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■第3話『妻の演技に嫉妬して、夫のキスが止まらない夜』



――“演技”のキスが、心をざわつかせる。

けれど、“現実”のキスは、すべてを超えていく――。



その夜――

佐伯瞬は、仕事から帰宅するなりリビングのソファに深く腰を沈めた。


スーツを脱ぎ、ネクタイを緩めながらテレビを点けると、

そこには――綾瀬ほのか主演の恋愛ドラマが映っていた。


画面の中。

柔らかい照明に包まれたセットで、

ほのか演じるヒロインが、共演俳優と――唇を重ねるシーン。


「……っ」


瞬は一瞬、リモコンを握りしめ、目を逸らした。


(……わかってる。演技だ。脚本通りのキスシーン。

でも……“俺の知らない彼女”が、そこにいる気がして)


スマホを開くと、SNSには


「綾瀬ほのか、美しすぎるキスシーン……」

「相手役との相性がやばい。リアルで付き合ってそう」

「これ、演技超えてるよね……?」


といったコメントが並び、心がざわめく。



数十分後。

シャワーを終えて出てきたほのかは、ゆるくまとめた髪にパジャマ姿。

リビングにいる瞬を見て、小さく首を傾げた。


「……どうしたの? 今日はちょっと、疲れてる?」


「……いや。疲れてるっていうか……」

言いかけて、言葉に詰まる瞬。


ほのかは静かに笑った。


「もしかして……ドラマのキス、観た?」


「……うん」


「嫉妬、した?」


「……うん」


瞬はその場から立ち上がり、彼女の前に立った。

ほんの一歩、距離を詰める。


「俺……お前が誰と演技してようと、

こうして家で待ってる“夫”でいるって決めた。

でも……どうしても、今夜は我慢できない」


ほのかが唇を開きかけた瞬――

瞬は、その柔らかな唇に――深く、熱く、濃厚なキスを落とした。


最初はそっと、

けれど次第に激しく、

彼の両腕が彼女の背中を引き寄せ、

彼女の指が彼の襟をぎゅっと掴む。


「ん……っ……」


息を吸うことさえ忘れるほど、

ただ“存在のすべて”を唇で交わし合う――

それはこれまでで一番長く、甘く、深いキスだった。


リビングの時計が静かに時を刻む中、

二人は世界に背を向けて、ただ、互いの熱だけを頼りに重なっていた。


キスのあと、

ほのかは目を伏せながら、少し赤らんだ顔で囁いた。


「ねえ……その嫉妬、もっと早く出してくれてもよかったのに」


「言ってくれたら……今夜は、もっと“本物”の演技、見せてあげたのに」


瞬は苦笑しながら、額をこつんと合わせた。


「……今ので、十分すぎたよ」



夜のベッドルーム。

子どもたちが寝静まったあと――

ふたりの“夫婦”は、再び唇を重ね合いながら、

“演技じゃない愛”を確かめ続けた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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