■第1話『就職初日、“夫であること”を隠して働く』
第5シリーズ『 社会人編 』へ
――社会人一年目。
大学を卒業したばかりの新入社員・佐伯瞬が向き合うのは、
“仕事”と“家族”と――“秘密の結婚生活”。
⸻
朝6時。
目覚ましよりも早く目が覚めた瞬は、隣で眠る妻――綾瀬ほのかと、
布団の中でそっと手を重ねていた。
「緊張してる?」
「……少し。今日から、社会人だから」
ほのかは優しく笑った。
「あなたがどんな職場に行っても、家に帰ればここが“居場所”だよ。
おかえりって、ちゃんと言うから」
瞬は頷き、双子の妹・紬と弟・蒼をちらりと見た。
陽翔と奏は、もう起きてリビングでテレビを見ている。
「……この4人を育てながら、仕事するって想像以上だよな」
「でも、二人でやってきたじゃない」
「だからこそ、今日も頑張れるよ」
⸻
午前8時半。
大手広告代理店・NEXCOM JAPAN本社ビル。
新入社員として出社した瞬は、スーツ姿で緊張した面持ちでエレベーターを上る。
「佐伯 瞬くん、ね。よろしくお願いします」
「こちらこそ……!」
同期たちに混ざりながら、自己紹介をする瞬。
だが、その頭の中では――
(誰かが“ほのかの旦那”だって気づいたら、全部終わる)
そう、誰にも「綾瀬ほのかと結婚している」とは言っていない。
公にすれば、ほのかの仕事に支障が出る。
そして何より、自分自身の社会人としての実力を“彼女の名前”に頼りたくなかった。
⸻
昼休み。
同期たちと社員食堂へ。
その中に、ちょっと派手な見た目の男性社員がひとり――
「おー、新入社員ってお前らかー。なんか真面目そうな子いるな?」
「佐伯です。よろしくお願いします」
「あっ、佐伯って……“あの”?」
瞬は一瞬、血の気が引いた。
「いやいや、まさかな~! たまたま同じ名字なだけだよな~!」
(……あぶなかった)
⸻
一方その頃、都内某所のスタジオ。
綾瀬ほのかは久々のテレビCM撮影に臨んでいた。
スタジオ入り口では、義妹・佐伯心音がスタッフとして同行していた。
「お義姉様、今日のメイク……めっちゃ映えてます!」
「ありがとう。……でも、現場では“姉妹”じゃなくて、“女優同士”だからね」
「了解です、綾瀬先輩!」
その様子を見ていたのは――心音の隣にいた、兄・佐伯光。
「お前ら……なんか“立ち位置”が逆じゃない?」
「兄ちゃん、黙ってて。今はあたしが現場の担当者!」
光は苦笑しつつ、タブレットで撮影スケジュールを確認する。
(……それにしても、“義姉弟”3人が芸能界と一般社会に分かれて、
それぞれ“バレちゃいけない秘密”を抱えてるなんて)
⸻
夜。
帰宅した瞬が玄関を開けると、ほのかがエプロン姿で待っていた。
「おかえり、社会人一年生」
「ただいま、国民的女優」
「それ、家でも言われるの?」
「……言いたくなるくらい、今日しんどかった」
瞬はソファに倒れこみ、子どもたちに次々と飛び乗られる。
「パパ、おしごとがんばった?」
「うん、頑張った……けど、疲れた……」
「じゃあ、パパだけ特別に――キス!」
子どもたちの頬にキスされている姿を見ながら、
ほのかがそっと呟いた。
「あなたが選んだ道、私は応援してるよ。
でも――忘れないでね。
あなたが“帰る場所”は、いつだってここなんだから」
瞬は微笑み、彼女の手を握った。
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