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■第6話『妹の決意と、母の想い』


ある日の午後。

収録を終えた心音は、カフェに指定された個室に入った。


そこにいたのは――義姉、綾瀬ほのか。


「ごめんね、急に呼び出しちゃって」


「ううん。ちょうど私も空いてたし。……で、どうしたの?」


心音は、深呼吸して、迷いのない瞳で見つめ返した。


「私、ちゃんと“自分の道”を歩きたいの。

……お義姉様の“妹”とか“身内”じゃなくて、

“佐伯心音”として、ちゃんと名前で呼ばれる存在になりたい」


「……うん」


「でも……現場では、どうしても“綾瀬ほのかの義妹”っていう目で見られる。

共演者にも、“いろいろ守られてるんでしょ?”って言われるのが悔しくて……」


「心音……」


「今日も、私じゃなくて“お義姉様がサプライズ登壇するらしい”ってスタッフが盛り上がってて……

私はそこに“居ない人”みたいだった」


ほのかは、言葉を選びながら静かに語り出した。


「芸能界って、“出自”や“名前”が先に語られる世界。

でも――私も最初は、“父のツテ”で小さな役をもらってた。

悔しかった。でも、その悔しさが、私を走らせてくれたの」


「……お義姉様も?」


「うん。だから心音も、自分で走って、自分の足跡を残して。

私じゃない、誰かと比べられても、あなたは“あなた”でいいんだよ」


心音の瞳に、少しだけ涙が浮かんだ。


「ありがとう……。でもね、今日ここに来たの、もう一つ理由があって――

私、ある役のオーディションに出る。

主演女優オーディション。……本気で、そこを目指すって決めたの」


ほのかは微笑む。


「いいじゃない。見せてよ、“心音の演技”を」



その夜――


ほのかの母・綾瀬貴美子が、久々に娘の家を訪れた。


「相変わらず……忙しそうね」

「うん。でも、やっと“生活”って感じがするよ。

瞬も子どもたちも、今が一番かわいい時期で」


貴美子はキッチンに並んだ双子の写真を見つめながら、ふっと言った。


「正直ね、あなたが“家庭に入る”って聞いた時、戸惑ったの。

だって、あんなに夢中で仕事してた子が、いきなり結婚なんて――」


「……分かってる。お母さんの気持ちも」


「でも今日来て、思ったの。

“綾瀬ほのか”じゃない、“あなた自身”の幸せを、ちゃんと守ってるんだって」


ほのかは微笑んだ。


「ありがとう。

私は、今も“女優”だけど、

“母親”で“妻”で、そして何より“普通の私”でいたいの。

その全部で、ちゃんと生きていたい」



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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