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■第3話『すれ違いの帰宅時間』


「お疲れ様です!」


研修先のオフィスビルを出るころには、すっかり外は夜。

大学の内定者研修とは思えないほど本格的な内容で、

瞬は覚えること、考えることの多さに圧倒されつつも、

“社会で働くという実感”に手応えを感じ始めていた。


(だけど……)


手帳のスケジュールを見返す。

帰宅予定時間は、夜9時過ぎ。


(紬も陽翔も、もう寝てる時間だ)


家族と過ごせる時間が、少しずつ削られていく焦り。

それでも瞬は、ポケットに入れた“家の鍵”を握りしめて帰路についた。



リビング。


ほのかはドラマの台本を読みながら、

子どもたちを寝かしつけ終えた静けさの中、ソファに沈んでいた。


家の空気が、“誰かの不在”を静かに告げている。


(瞬……今日も遅くなるって言ってたけど)


キッチンには瞬の好きな煮込みハンバーグが冷めぬようにラップされ、

炊飯器には“おかえり”と書かれたメモ付きのごはんが保温されている。


(慣れてるはずなのに……この時間が、少し寂しい)



深夜0時前。ようやく帰宅した瞬。


鍵を開けて、そっと玄関を閉める。

靴を脱ぎ、リビングへ――


そこには、寝落ちしていたほのかの姿。


ソファの上に丸まって、少し肌寒そうにしている。

瞬はそっと毛布をかけ、彼女の前に跪いた。


「……お疲れ様、ほのか」


するとその声に、薄く目を開けた彼女が、呟くように言った。


「……おかえり。……遅かったね」


「うん。ごめん。研修、今日もキツくてさ……」


「ううん、大丈夫。

あなたが頑張ってるの、分かってるから。

私も撮影で、少し帰り遅かったし……お互い様、ね」


瞬は笑って言った。


「……でも、やっぱりこの時間、どこか寂しいんだよ。

家に帰って、君がいて、子どもたちの寝顔がある。

それが当たり前だったからさ」


その言葉に、ほのかの瞳がゆっくりと潤んだ。


「瞬……」


「明日も早いから、今日は……ここで、君のそばで寝てもいい?」


「うん」


毛布の中で、二人は静かに寄り添い、

リビングの灯りを消す。


ただのソファでも、

そこは二人にとって“いちばん安心できる場所”だった。



翌朝。


紬が起きてきて、

「パパとママ、ここでくっついて寝てる〜!」と嬉しそうに笑い、

陽翔もつられて「ハグしてる〜!」と声を上げた。


瞬とほのかは、思わず顔を見合わせて笑い合う。


(すれ違っても、またこうして笑える)

(それが、家族なんだ)



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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