■第7話『初めての家庭教師』
大学の進路相談会で紹介された、近所の中学生の家庭教師アルバイト。
理系科目を中心に週2回。
瞬は、「育児との両立」に配慮してもらえる環境を整えたうえで、引き受けることにした。
生徒は中学3年生、澤村小春。
成績は平均以上だが、受験のプレッシャーで集中力が落ちているらしく、
「優しくて話しやすい男の先生を希望」とのことで、瞬に声がかかったのだった。
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「じゃあ、この因数分解やってみようか」
「……うーん、たすきがけって苦手なんだよなぁ」
「図にしてみると、分かりやすいよ。
このXとYの関係って、まるで“夫婦のバランス”みたいなもんなんだよね」
「ふ、夫婦!?」
「冗談、冗談」
小春は笑いながら、ノートに数式を書き込んだ。
(教えるって、思ったより楽しいかもな)
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1時間ほど経った頃、小春がふと鉛筆を止めて、瞬を見上げた。
「ねぇ先生ってさ、好きな人とかいるの?」
「えっ」
突然の質問に、瞬は鉛筆を持つ手がピクリと止まった。
「だって、なんか優しいし、ちょっとカッコいいし。
彼女とか……もしかして、結婚とかしてる?」
(うわ、どう答える……?)
――その瞬間、胸の中でふと浮かんだのは、
寝顔の子どもたちと、仕事帰りに笑って手を振るほのかの姿だった。
(……俺には“世界一大事な人”が、ちゃんといる)
だが、それをこの場所で明かすわけにはいかない。
秘密の夫婦、そして親――それは、家族で守ってきた“約束”だ。
瞬は柔らかく微笑んで、こう答えた。
「そうだね……“大切な人”は、いるよ。
でも、それを今ここで話すのはちょっと恥ずかしいかな」
小春は「えー! 気になる!」と笑って肩をすくめた。
「でもなんか……いいな。
“誰かのことを大切にしてる”人って、ちょっと素敵だと思う」
その一言に、瞬の心の奥が静かにあたたまった。
(ああ、こうやって……“教える側”になったからこそ、
“教えられること”もあるんだな)
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帰り道。
空を見上げると、星が滲む春の夜空。
家に帰れば、双子の絵が冷蔵庫に貼ってあった。
「パパとママと、おひさま!」という可愛い字で。
その前で、ほのかがエプロン姿のまま、にこりと微笑んだ。
「おかえり、先生」
「……ただいま、生徒より人生教えられた気分だよ」
「ふふ、パパも“まだまだ学び中”だもんね」
二人で笑って、食卓についた夜。
瞬はそっとつぶやいた。
「――この場所を守るためなら、どんな道でも、進んでいけそうだ」
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