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■第6話『心音、芸能界に?』


高校からの帰り道。

夕暮れのバスの中、佐伯心音はスマホを見つめていた。


画面には、ある芸能事務所からのメッセージ。


「先日のイベントでお見かけしました。

もし可能であれば、一度お話できませんか?」


何度も読み返した。

けれど、すぐには返事ができない。


(私なんかが芸能界に……?)


そんな疑問と一緒に浮かぶのは、

眩しいほどの笑顔でファンに囲まれていた“あの人”の姿――綾瀬ほのか。

心音の義姉であり、憧れの存在。


(私があの場所に立って、本当にいいの?)


悩んだ末、彼女が頼ったのは――もうひとりの芸能人。

兄・瞬の兄であり、トップ俳優でもある――佐伯ヒカルだった。



その夜、家族の許可を得て、心音はヒカルの楽屋を訪れた。


「……なんだよ、めずらしく真面目な顔して」


「光兄ちゃん……もし私が、芸能界を目指すって言ったら……笑う?」


ヒカルは、モニターの台本をぱたりと閉じた。


「……笑うかバカ、って言うと思っただろ。

でも、俺はむしろ――いいんじゃねぇの? って思う」


「……え?」


「お前さ、この前のイベントで“推され方”分かってただろ。

顔もいい、リアクションもいい、対応も礼儀正しい。

芸能界ってのは、才能だけじゃなくて“空気をつくれるかどうか”が命なんだ」


「でも……私には演技経験もないし、夢って言えるほどの自信もないし……」


「だったら、これから作ればいい。

夢ってのは“最初から持ってるもの”じゃなくて、

“見つけにいくもの”だろ」


その言葉に、心音の目が揺れた。


「……そんなふうに言ってくれると思わなかった」


「俺はな、“弟が結婚した女優”を“女として見る変態兄”じゃなくて、

“妹が飛び込む背中”としてちゃんと見てるつもりだ」


「……うわ、それなんかちょっと感動した」


「照れんな」



その帰り道、心音はもう一人――綾瀬ほのかにLINEで会いたいと連絡した。


翌日、ふたりはカフェで向き合った。


「……実は、スカウトされたんです。

でも、やっぱり私には遠い世界な気がして」


「そう……それで、どうしたいの?」


「……本当は、少し憧れてる。

ステージに立つお義姉様を見て、“かっこいいな”って思った。

私も、誰かの心に届く人になりたいって――初めて思ったんです」


ほのかは静かに微笑んだ。


「心音ちゃん。芸能界は、きれいな世界じゃない。

傷つくこともあるし、悔しさも味わう。

でも――そのすべてが“あなたらしさ”になっていく」


「……私らしさ?」


「私もね、最初は“誰かの代わり”で出ただけだった。

でも今は、“綾瀬ほのか”として立ってる。

きっと心音ちゃんも、自分の名前で立てる日が来る」


心音は、そっと頷いた。


「……分かりました。

私、芸能界に行ってみます。

“妹だから”じゃなくて、“私自身”として、立ってみたい」


ほのかは優しく、その手を握る。


「ようこそ、“表の世界”へ。心音ちゃん」



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