■第4話『夜のキャンパスと罪悪感』
夜9時。
東京・池袋。
大学近くの居酒屋には、春の講義を共にするゼミ仲間が集まっていた。
「今日の教授、テンション高すぎたよなー」
「“これ、期末に出すからな!”って、毎回言ってない!?」
「てか、あれって飲みサーじゃなくて、ほぼ修行だよな」
「瞬は? 最近ずっと忙しそうじゃね?」
笑いとジョッキのぶつかる音の中で、
佐伯瞬は笑顔を作りながらビールの泡をつついていた。
「うん、まぁ……ちょっとね。いろいろ家庭の事情とかもあって」
「え? 実家のこと?」
「うん……まぁ、そんな感じ」
――言えない。
この中の誰にも、本当のことなんて。
(女優・綾瀬ほのかと結婚してることも。
2人の子どもがいることも。
今日も、帰りを待ってる家族がいることも――)
⸻
「てかさぁ、ほのかって知ってる? 綾瀬ほのか」
別の席で誰かが名前を出した瞬、瞬の手がぴたりと止まる。
「めっちゃ綺麗だよな〜! てか、誰と付き合ってるんだろうな? 全然出ないよな」
「絶対大物と付き合ってるでしょ」
「てか結婚してたら泣くわ」
(……ごめん、それ、俺なんだ)
でも、口に出せない。
そう決めたのは、自分たちだった。
家族の未来を守るために、子どもたちの名前すら“記録に残らない”ようにしてきた。
そして今も、妻は光の当たる舞台に立ち続け、
自分は影の中で――家族を守る存在であり続けている。
⸻
「おーい、瞬、飲め飲めー!」
「彼女いないんだろ? 今日は羽伸ばそうぜ!」
(……いない、ってことになってるけどな)
苦笑いでグラスを受け取る。
口にしたのはアルコールではなく、ウーロン茶。
「なんで酒飲まねーんだよ」
「……育児中だから、万が一呼ばれたら即帰らないと」
思わず口にしてしまって、場が微妙にざわついた。
「……え、育児って? 家族って?」
「いや、妹の面倒見てるだけだよ」
(ごめん、心音)
⸻
そして、深夜0時。
飲み会を早めに抜けた瞬は、
電車に揺られながらスマホを開いた。
「つむぎ、今日も“おとこのこ座り”で寝ました笑」
「陽翔が“パパ帰ってくる?”って聞いてきました」
妻からのメッセージ。
スマホの中に広がるのは、誰も知らない“本当の自分の世界”。
(――ああ、俺は、ここに戻ってくるために生きてるんだ)
⸻
深夜0時半、帰宅。
家の扉を開けた瞬、ソファで寝落ちしていたほのかが目を覚ます。
「……おかえり」
「うん、ただいま」
「楽しかった?」
「……うん、でも、やっぱりずっと“罪悪感”だった。
俺だけあっち側にいるみたいで」
「大丈夫。
あなたがどこにいても、帰ってくる場所は――ここなんだから」
ほのかの手が、彼の頬に触れる。
そのぬくもりは、誰よりも静かで、優しかった。
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