■第3話『3つの選択肢』
授業が終わった夕方、大学構内のベンチで、佐伯瞬は1人スマホを握りしめていた。
画面に並ぶのは、就活サイトのエントリーページ。
そのタブの隣には、大学院進学説明会の要項。
そして心の片隅には、ずっと残る“もう一つの選択肢”。
――主夫。
子どもたちの成長を一番近くで見守る人生。
今は育児と家事も交代しながらしているが、
“もしも妻が本格的に女優復帰したら、自分が前線に立つべきじゃないか”
そんな思いが胸を締めつける。
けれど、まだ何一つ決断できない。
(どうすればいい……?)
迷った末、瞬はスマホを開いて電話をかけた。
相手は――兄、佐伯ヒカル。
⸻
「お前が俺に進路相談? マジで言ってんの?」
そう電話越しで笑うヒカルに、瞬は苦笑する。
「……兄貴なら、何か言ってくれる気がしてさ。
就職、大学院、主夫……どれも正解な気がして、どれも不安なんだ」
「なるほどな。
まぁ、芸能界で食ってる俺が、まっとうな答え持ってるかは知らねぇけど……」
一拍置いて、ヒカルは真剣な声で続けた。
「“今、一番捨てたくないもの”は何だ? それが、お前の答えだろ」
「……捨てたくないもの……」
「女優の妻か? 家庭か? 自由か? 育児か?
“何を守りたいか”で、お前の優先順位は勝手に決まるんだよ」
瞬は黙ったまま、スマホを握りしめた。
「ちなみに、俺は自由もプライベートも全部捨てた。
その代わり、“ステージの上だけ”が俺の場所だって決めてる。
でも、お前は“ステージ以外”も手に入れてんだろ?」
「……うん。だから、失いたくない。
全部、守りたいんだよな。ほのかも、子どもたちも、自分の未来も」
「だったら――覚悟を決めろ。
“選ばない”ことは、“何も得られない”ってことだ」
静かに電話が切れた。
⸻
その夜、自宅のリビング。
テレビでは、ほのかの新CMが流れていた。
「子どもたち寝かしつけた?」
「うん、今日も絵本3冊読んで、やっと寝た」
「……ありがとう。私、復帰してから仕事ばかりで……」
「いいんだよ。代わりに俺ができること、やるだけだし」
ふと、瞬は思う。
兄の言った言葉が、胸に静かに染みていく。
(俺が“守りたい”のは、やっぱりこの時間だ。
この、3人で過ごす家族の形だ)
でも同時に、
“社会に出ること”への責任も背負いたいと思う。
⸻
その後日。
瞬は就活イベントのエントリーを済ませ、
大学院説明会にも参加予約を入れた。
さらに、自分で家計簿アプリをダウンロードし、
育児費用・進学費用・生活設計を試算し始める。
その姿を見て、ほのかは微笑む。
「なんだか……すっかり“頼れるパパ”ね」
「いや、まだ“迷いまくりの学生パパ”だよ」
でも――心の中には、一本の光が差していた。
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