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■第1話『復帰、そして再出発』


第3シリーズへ


桜のつぼみがほころび始めた東京。

新年度、大学3年生となった佐伯瞬は、教室の一番後ろの席で静かにノートを広げていた。


講義中も、ふとした瞬間に思い出すのは、今朝の光景。


「パパ、つむちゃんがミルクこぼしたー!」

「パパ、はるとはもうオムツいらないの!」

「……そっか、でも“オムツ脱出宣言”はママに報告しよっか」


朝のバタバタとした時間を乗り越え、瞬は大学に滑り込むのが常となっていた。


だが、その日、ニュースアプリの通知が突然教室をざわつかせた。


『綾瀬ほのか、芸能活動に本格復帰』

『主演映画発表&新CM同時解禁!』


「えっ、綾瀬ほのかってまた出るんだ?」

「うわ、すっげー綺麗になってね?」

「なんか、前よりも“大人っぽく”なったよな」

「相変わらず“私生活不明”だよな。誰とも付き合ってる噂ないし」


周囲の声が耳に入るたびに、瞬は心の中で苦笑する。

(“誰とも付き合ってない”……どころか、うちにいるよ。双子の母として)


でも、それは誰にも言えない。

約束したのだ。

子どもがいること、夫婦であること――すべては“秘密”にしたままだと。



その夜、瞬が帰宅すると、ほのかがキッチンで夕食を準備していた。


「おかえり、瞬くん。疲れた?」


「うん。今日は特に“女優・綾瀬ほのか”の話題で盛り上がってた。

誰も、子どもがいるなんて想像してない」


「……それが今は、私たちにとっていちばんの“守るべき秘密”だもんね」


ほのかは穏やかな笑顔で言った。


瞬は冷蔵庫からミルクを取り出しながら、

テレビのニュースを横目に見た。

そこには、“復帰女優”として再び世間を魅了するほのかの姿。


(この人は、本当にすごい)


芸能界に戻っても、母としても、妻としても、決して揺らがない。


けれどその一方で、瞬自身の進路はまだ霧の中だった。



数日後。


サークルの先輩たちと食事をした帰り道。

先輩に言われたひと言が、胸に刺さった。


「瞬、そろそろ進路決めたか?

就職活動するなら、もう動き出さないとヤバいぞ」


「うん……まだ、考え中で」


「真面目にやれば、いいとこ行けるだろ。

……ま、恋人と子どものことがなければ、な」


(――ああ、そうだ。誰も知らないんだ、“俺には家族がいる”なんて)


ふと、LINEに「今日はミルクたくさん飲めました♡」というほのかのメッセージが届いていた。


それを見た瞬、ぽつりと独りごちた。


「俺の“秘密”は、世界一幸せなやつだよな……」



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