■第9話『ふたりで迎える、ふたりの命』
出産予定日を数日後に控えた日。
綾瀬ほのかは都内の産婦人科病院の個室で、穏やかな時間を過ごしていた。
お腹の中で動く双子の命。
目を閉じると、ふたりの泣き声がもうすぐそこまで来ているような気がした。
けれど、午前中の健診が終わってすぐ、
彼女の病室の扉が突然ノックされた。
「失礼します」
姿を現したのは――夫の瞬ではなく、彼の兄、佐伯ヒカルだった。
思わず息をのむほのか。
「えっ……お兄さん……?」
ヒカルはやや気まずそうに小声で言った。
「……ごめん、弟が今日は大学の集中講義で動けなくてさ。
“代わりに様子見に行ってくれ”って頼まれたんだ。
一応、俺も家族だから」
戸惑いつつも、ほのかは頷いた。
それにしても、あまりにも目立つ来客だった。
ヒカルが病室に入ったわずか5分後、病院の廊下には騒然とした空気が広がっていた。
「あの人……テレビで見たことある……!」
「え、え、佐伯ヒカルじゃない?」
「まさか、この病院で誰か出産……え、綾瀬ほのか⁉︎」
「え!? まさか、綾瀬ほのかと結婚!?」
看護師たちも落ち着きを失い、通りかかる妊婦たちもざわつく。
院内は一気に「芸能スクープの最前線」と化した。
ほどなくして、SNSの投稿が更新される。
【目撃情報】
佐伯ヒカルさんが都内の○○産婦人科に!
目撃情報多数!
【まさかの“極秘婚”!?】
綾瀬ほのかさんと噂の男性は、弟ではなく兄・ヒカルだった可能性も?
小声で、ヒカルがつぶやいた。
「……悪目立ちしたな、俺」
「そ、そうですね……でも、来てくれてありがとうございます」
ほのかが苦笑を浮かべると、
ヒカルも肩をすくめて言った。
「ま、SNSの誤解は放っておけ。
肝心なのは――お前が元気で、赤ん坊たちが無事に生まれてくることだろ」
ほのかはその言葉に、少しだけ目を潤ませた。
(この人、やっぱり……義兄だけど、優しいな)
しばらくして、病室のインターホンが鳴った。
『綾瀬さん、今日から個室フロアのセキュリティを強化させていただきます。
ファンの方が院内に入ってしまう恐れがあるためです』
ヒカルは困ったように額に手を当てた。
「……弟の代わりに来たはずが、逆に大迷惑をかけてるかもな」
「ううん……来てくれて、嬉しかったですよ。
“家族”だって、思えたから」
「……そう言ってもらえるなら、よかった」
その後、ヒカルは短時間だけ滞在し、丁重に病院を後にした。
セキュリティ強化のなかで移動するその後ろ姿は、
まるで映画のラストシーンのようだった。
⸻
そして夕方――
ようやく授業を終えた瞬が病院に駆けつけてくる。
「……本当に兄貴が来たの!?」
「うん。すごく優しかったよ。
でも……たぶん、病院もSNSも……今はちょっとした騒ぎになってる」
「……マジか」
瞬は頭を抱えたあと、苦笑した。
「まぁでも。
これが、“俺たちの家族”ってことだよな」
ほのかは笑ってうなずいた。
そして、その夜――
ふたりの静かな時間の中で、
小さな胎動が、確かに伝わってきた。
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