■第8話『未来のふたりを、いま抱きしめてる』
朝、ほのかはいつもより早く目覚めた。
まぶたが重い。
けれど、身体のだるさはそれだけじゃない。
目覚めと同時に、胃の奥が波打つような違和感――
そして、数秒後。
バスルームの扉が閉まる音。
吐き気に襲われた彼女は、静かに膝を抱えた。
⸻
大学では、瞬が朝一の講義を終え、友人と食堂へ向かっていた。
「お前、最近元気ねーな? 目の下、クマできてんじゃん」
「寝不足かな。夜、いろいろあってさ……」
「いろいろ? ほう、夜に“いろいろ”とな?」
「やめろ。そーいう意味じゃ……って、否定はやめとこ」
「うわっ、マジかよ!?」
そんなくだらないやり取りも、
家に戻った瞬には、すぐ忘れてしまった。
なぜなら――
玄関にいたほのかが、まっすぐな顔で言ったのだ。
「瞬くん……私、病院、行ってきた」
「えっ……体調悪いの!?」
「……ううん、そうじゃなくて……」
彼女は少しだけ笑って、
白い紙袋の中から、母子手帳を取り出した。
「できたの。赤ちゃん。……双子、だって」
時間が止まったようだった。
瞬はその場に立ち尽くし、
言葉を探すように彼女を見つめた。
「……双子? 本当に?」
「うん。男の子と女の子、だって。
……私たち、親になるんだって」
その瞬間、彼は彼女を力強く抱きしめた。
「ありがとう。ありがとう……!
君が俺の奥さんで、本当に良かった……」
ほのかの肩が、ふるふると震えていた。
それは涙でもあったけれど――それ以上に、
“母になる実感”がこみ上げてきた証だった。
⸻
その夜、リビング。
ふたりは並んで座りながら、赤ちゃんの名前候補をノートに書き出していた。
「男の子は“陽翔”とか?」
「いいね。女の子は“心愛”……とか」
「ちょっとキラキラしすぎ?」
「じゃあ、“紬”とかどう?」
「それ……いいかも」
テレビの音も、スマホの通知も止まっていた。
いまこの部屋には、“未来のふたり”だけが存在していた。
⸻
その後――
ほのかは所属事務所に、妊娠と活動休止を報告した。
「双子……なんですね」
「はい。しばらく、お休みをいただきたいと思います」
「もちろんです。お身体を第一に。
でも正直……羨ましいですよ。あなたのような女優でも、“愛されてる”って感じがします」
彼女は軽く笑って答えた。
「ええ、たしかに。
たぶん私、世界一幸せな“ママ”になります」
⸻
その夜、心音からLINEが届いた。
『え、え、ちょっと待って。
義姉様がママになるの⁉︎
てことは――私、おばさん……?
……いや、姪っ子に“義姉様の顔面”が受け継がれるとか、尊すぎて無理。
涙出る。今、泣いてる』
瞬はそのメッセージを見ながら、
吹き出しそうになりつつ、
隣で眠るほのかの手を、そっと握った。
(家族って、不思議だな)
たしかに恋から始まったふたりだけど――
もう今は、
未来を抱きしめて生きている。
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