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■第1話 『その日、ファンは神席から“未来の妻”と出会った』


春の気配が漂う、三月の午後。

都内のシネコンで行われた、国民的女優・綾瀬ほのか主演の映画試写会には、抽選で選ばれたわずか50名のファンが集まっていた。


そのうちの一人。いや、“最前列センター席”という神席にいたのが、

高校三年生・佐伯瞬さえき・しゅん、17歳。卒業式を数日後に控えた、どこにでもいる理系男子だった。


ほのかの大ファン歴は10年を超える。

小学生のときテレビで観た連ドラをきっかけに、以来、彼女の出演作はすべてチェックし、雑誌のインタビューも暗記するほど。

友人には「オタク」と茶化されることもあったが、本人にとっては誇れる“推し活”だった。


舞台挨拶が終わった後、事件は起こる。


関係者通路でスタッフが慌てて駆けていく。

「セットが崩れた!?」「綾瀬さんが巻き込まれた!?」


とっさに反応して駆け出した瞬が舞台裏へ踏み込んだそのとき――

崩れ落ちた照明機材の下、倒れ込んでいた女性が目に入った。


「……大丈夫ですかっ!?」


声をかけ、手を伸ばす。

その瞳が、まっすぐにこちらを見つめ返した――綾瀬ほのか本人だった。


かすり傷はあったが、幸い命に別状はなかった。

スタッフが遅れて駆けつけ、混乱の中で瞬はすぐにその場から離された。


それでも、ほんの十数秒。

“憧れの人”と、直接言葉を交わした。その事実だけで、胸は高鳴っていた。


――まさか、この出来事が彼の人生を根底から変えることになるとは、このときの瞬には想像もできなかった。



翌日、学校帰り。駅前のカフェでスマホを開いた瞬は、思わず息をのんだ。


【From:綾瀬ほのか official】

件名:昨日のお礼です。――あと、ひとつお願いがあります。


本文は、簡潔で、それでいて信じられない内容だった。


『昨日は助けてくれてありがとうございました。

あのとき、あなたがいてくれて本当によかった。

それと……もし、よかったら――


私と、結婚してくれませんか?』


一瞬、いたずらかと思った。けれど、差出人のドメインは公式サイトと一致していたし、内容には昨日の会話にしか出てこなかったやりとりが明記されていた。


“綾瀬ほのか”が、自分にプロポーズ?


混乱のまま返信をした瞬は、数時間後、都内の高級タワーマンションへと招かれる。

そこに現れた彼女は、薄化粧で私服姿だったが、間違いなくテレビで見てきた“本物”だった。


「ごめんね。驚かせちゃったよね」

微笑みながら、ほのかは小さな湯呑みを差し出す。


「でも、本気なの。あなたに、命を助けられたって思ってる。だから……私、この人生を、あなたに渡したい」


それはあまりにも突飛で、常識外れで、映画よりもありえない台詞だった。

けれど、瞬の心は不思議と穏やかだった。


「……俺、あと数日で18になります」

「知ってる。だから今日、プロポーズしたの」


ほのかの目は真剣だった。

そしてその場で、彼女は一枚の書類を差し出す。


「これ、婚姻届。……誕生日当日の日付、もう書いてあるから。

でも、ほんとに嫌だったら、破ってくれていい。

でも――」


「――でも?」


「君と一緒に未来を歩けるなら、私はもう“女優”じゃなくていいって思えるくらい、嬉しかったの。昨日、助けられたときに、そう思ったの」


瞬は、その日、まだ17歳だった。

けれど心だけは、確かに“未来の選択”を握っていた。



数日後。誕生日の朝。


佐伯瞬は18歳になった。そして、彼の部屋のポストには、一通の封筒が届いていた。


中には、きちんと記入された婚姻届と、手書きのメッセージ。


「これで、法的にも結婚できるね。


ふたりだけの、秘密のはじまり。

綾瀬ほのか」


彼女が用意した新居は、都心から少し離れた、静かな高台にあるプライベートマンション。

外には記者も、ファンもいない。

けれど、中には“夫婦”だけの空間が広がっていた。


「これからは、誰にも言っちゃダメだよ。SNSにも、絶対に」

「うん……約束する」


「今日から、あなたは私の“いちばんの秘密”だから」


こうして――

国民的女優と、たった一人のファンによる、交際0日婚の物語が幕を開けた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


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その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。


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