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■第7話『記者のマイクが、愛に触れた日』


春学期も中盤にさしかかった昼休み。


大学キャンパスの学食には、今日もにぎやかな声が響いていた。

瞬は、数人の友人たちといつものテーブルについている。


「おい瞬、昨日の数学の課題、マジ鬼畜じゃなかった?」


「うん、あれ教授の趣味入ってるレベルだったよね……」


「つかお前さ、最近またちょっと雰囲気変わったよな。“彼女できた説”ってほんと?」


「えっ、そ、そんなことないって」


瞬は苦笑して誤魔化す。

――けれど、頭の片隅では、ほのかの今日のイベントのことが気になって仕方がなかった。



一方その頃、都内某所の大型ホール。

綾瀬ほのかは、新作ドラマの記者向けイベントに登壇していた。


舞台中央でマイクを持ち、ファンに笑顔を見せるその姿は――

まさに“完全復活の女優・綾瀬ほのか”。


だが、イベント終了後の囲み取材で、空気が一変する。


記者:「綾瀬さん、最近話題の“一般男性との密会写真”についてお聞かせください。

あの男性とは、現在も“連絡を取って”いらっしゃいますか?」


ほのかの視線が、一瞬だけ鋭くなる。

だがすぐに、柔らかい微笑みに戻してこう言った。


「はい、イベントで“顔を合わせて”います。

……それだけです」


“言ってないけど、嘘は言っていない”


それは、真実を守るための女優の微笑みだった。



イベント終了後の控室。

マネージャーが小声で言う。


「ギリギリセーフでしたね。……うまく切り返した」


「うん。でも、いつまでもこんな風に隠し続けるのって、やっぱり、胸が苦しいね」


「……それでも、守りたい人がいるんですね?」


ほのかは黙ってうなずいた。



その夜。

新作ドラマ『星に願えば』の撮影現場――。

主演女優・綾瀬ほのかのクランクイン。


現場に着くと、スタッフから声がかかる。


「綾瀬さん、主演の佐伯ヒカルさんがもう入ってます。控室ご案内しますね」


「……え?」


一瞬、足が止まる。


その名前は、つい先日“義兄”として顔を合わせたばかりの男。


控室の扉が開いた瞬間。

中にいたのは、台本を読んでいた佐伯ヒカル――瞬の兄だった。


「よぉ、綾瀬さん。今日からよろしく」


「……兄さんが、“主演”?」


「驚いたか? そっちこそ、まさか共演するとは思わなかったよ。

ま、業界ってそういうもんだ」


そしてヒカルは、視線を鋭く細めて言った。


「――今日の囲み取材、観てたよ」


「……!」


「“顔を合わせてます”って、上手くかわしてたな。

でもあれ、弟のこと、守ったつもりか?」


「……守るっていうより、信じてるの。彼と私の“いま”を」


ヒカルはゆっくり立ち上がり、彼女の正面に立つ。


「俺は芸能界にいる以上、“嘘をつく強さ”と“真実を隠す弱さ”の両方を見てきた。

だからこそ、思うんだ。

――本当に“信じる”だけでいられるなら、それはすごく、強いことだって」


ほのかは一言も返さなかった。

けれど、その目だけは、まっすぐにヒカルを見返していた。



夜。

自宅に帰ると、ソファでうたた寝していた瞬が、ほのかの帰宅に気づく。


「……おかえり。どうだった?」


「週刊誌にはバレかけたけど、大丈夫だった。

あとね、今日からドラマで“あなたのお兄さん”と共演することになった」


「……えぇぇええぇぇぇっ!?」


ほのかは微笑んで、

彼の隣にちょこんと座りながら、こう呟いた。


「なんか、家族って、こういう形でも“縁”が繋がるんだね」


瞬は天を仰ぎながら言った。


「兄貴に“裸のほのか”の話は死んでも知られたくない……」


「もう知ってるかもよ?」


「やめてええぇええええ……」



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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