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■第4話『ふたり、裸のまま』


雨の降る夜。

講義と実験に追われた一日を終えて帰宅した瞬は、静かな疲労と共にバスルームのドアを開けた。


部屋着を脱ぎ、湯船に浸かってしばらく。

脱衣所から、控えめな足音が聞こえてきた。


「……瞬くん、入ってるの?」


声の主は、もちろん――綾瀬ほのか。

仕事の収録から帰ってきたばかりだった。


「ごめん……知らなかった、入ってるって。

タオルだけ取るね?」


「うん、大丈夫――って」


扉が少し開いた。


次の瞬間。

ふたりの目が、ぴたりと合った。


そして、お互いの“裸”を、見てしまった。



数秒間の静止。


「……っ、わっ、ご、ごめん!」


「いや、俺こそ……!」


ほのかが慌てて目をそらし、

瞬もタオルで湯船の中を反射的に隠す。


しかし、その次の言葉を交わす前に――

なぜかふたりの笑いが、同時に漏れた。


「なにこれ、まるで初めてのカップルみたいだね」


「……俺たち、結婚してるのにね」


ほのかはタオルを胸に当てたまま、

ふと、バスルームに一歩だけ足を踏み入れた。


「……ねぇ、入ってもいい?」


「えっ……」


「今夜だけ。……ちゃんと“夫婦”として、近くにいたいの」


その声に嘘はなかった。

照れでも、気まぐれでもない、真っ直ぐな感情。


瞬は頷いた。


「……うん。おいで」



湯船の中。

タオル一枚で向かい合うふたり。


視線を合わせるのが恥ずかしくて、でも逸らしたくなくて。

やがて、ほのかがそっと彼の肩に触れた。


「……ほんとに、私の旦那さんなんだよね。

なんか、時々信じられなくなるの」


「俺もだよ。

スクリーンの中で、君が誰かに恋してるのを見るたび……“夢だったのかな”って思う」


ほのかは、濡れた髪を後ろにかき上げ、瞬に向き直る。


そして――ゆっくりと、唇を重ねた。



最初はそっと、確認するように。

次第に、深く、熱く、重なる。


水音がかすかに響く中で、

ふたりの身体が自然と寄り添い、

タオルの隙間から、肌が触れ合う。


「……瞬くん、好き」


「俺も、ほのかが好き。

ずっと……こうしていたい」


言葉のあとは、音もいらない。


唇と唇、

ぬくもりとぬくもり、

愛しているという想いが、

この夜のすべてを物語っていた。



湯上がり、バスローブを羽織ったふたりは、リビングのソファに並んで腰掛けた。


テレビもつけず、ただ静かに寄り添う。


「……ねえ、今日のこと、忘れたくないな」

ほのかがつぶやく。


「俺も。一生、忘れない」


「じゃあ――この日を、ふたりの“本当の初夜”にしようか」


瞬は、微笑んだ。


「じゃあ俺、今日から本当の意味で、君の旦那さんになったんだな」


ほのかは頷き、優しく、また唇を重ねた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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