塩そば①
綺麗な月夜の街中を一人の人間の男がうなだれながらゆっくりと歩く。
彼の名前はダイ。
つい1ヶ月前に鍛冶屋の見習いとして働き始めたばかりの青年である。
「はぁ…今日も疲れた…立派な鍛冶屋にあこがれて見習いとして働き始めたけど、結構厳しいんだな…常に暑い所にいるから喉が渇くし。」
親方には見込みがあるからと言われかなり期待されている。
だからといって毎日毎日ヘロヘロになるまで鍛冶屋の技術をこれでもかと詰め込まれても、流石に始めて1ヶ月では少し真似をするのが精一杯である。
ここ2週間なんてキラキラの目をした親方が火の扱い方を教えてくれたのだが、火の扱いは一日やらないと忘れるからと休みを一日足りとも貰うことが出来なかった。
火の扱い方を一通り教わり、やっと今日の午後と明日はお休みをもらうことが出来たのである。
「あー腹減ったな。買い物してないし、家に何かあったかな…?」
そう言いながら木造の建物に入って行く。
集合住宅に住んでいる為他にも部屋が沢山並んでいる。
自分の隣の部屋からのいい匂いがダイの鼻をかすめる。
「ああーいい匂い。腹へった……」
ダイはうなだれて視線は下を向いたまま自分の部屋のドアを開ける…
いつものドアじゃないことは気がつかずに……
「あれ?」
自分の部屋じゃないことには直ぐに気がついた。
夜なのに中は明るくなっていたからだ。
そして鼻をくすぐる良い匂い。
何の匂いなのかは分からなかったのだが、それでも食べ物の良い匂いなのは分かり、お腹がなる。
「いらっしゃい!お好きなラーメンの食券を買って下さいね!」
明るい室内から元気な男性の声が聞こえてくる。
「ラーメン?食券?」
なんのことだか分からずに男性が言ったことを繰り返すように言葉に出すと、男性は一瞬だけ驚いたような顔をしたがすぐに笑顔に戻り、説明をしてくれた。
◇◇◇◇◇
こちらのお金を持っていた事にかなり驚いたが男性(店主らしい)は慣れているようで、ここは俺たちにとっては異世界であること、お金は向こうの世界で持っていたものを勝手に換金してくれていること、このお店はラーメンという食べ物を提供しているということ…などなど
なぜ自分の部屋が異世界のこの店に通じたかなどは全く分からないそうだ。
だが…今はそれはどうでも良かった。
この腹ペコのお腹にラーメンという料理を一刻も早く入れたいのだ。
ラーメンが出来上がるのをお腹のぐーという音を聞きながら今か今かと待つダイだった。