粉屋
不思議な粉を売っている人間がいるらしい。
なんでも、その粉を吸うとどんな疲れも悩みも吹き飛び、不治の病すら治すらしい。
ある兵士の男は同僚に勧められてこの粉を買うことにした。
男は噂を信じていなかった。
それでも、男はその噂に縋るほかなかった。
戦があるのだ。
男にとっては初陣である。
いくら鍛えていても、死に対する恐怖は拭えなかった。
男は戦の日が近づくにつれて、眠れなくなっていた。
眠るたびに見てしまうのだ、自分や仲間が殺される夢を。
その度に起き上がり、もはや眠るのが怖くなってしまったのだ。
このままでは戦に行っても間違いなく死ぬ。
気休めでもいい。
何か気を紛らすことができればそれでいい。
そんな気持ちで男は粉屋へ歩いていく。
粉屋は4の倍数の日に決まった所に現れるらしい。
粉屋は店舗を持っていないらしく、路地裏にひっそりと佇んでいるんだそう。
男は粉屋をつけた。
ボロい外套を被っている。
目深に被ったフードから見える長い鷲鼻は、魔女を彷彿とさせる。
「粉を買いたい」と男は言った。
「一袋で500ドルになります」
「これでいいか」
「確かに貰いました。使い方をお教えしましょうか?」
「いらん」
男は早くその粉が吸いたくて、粉屋から奪うように袋を貰い家路へ急いだ。
男は同僚に教えられたように、粉を吸った。
今までの怯えが一瞬にしてなくなった。
男には力が溢れた。
これがあれば戦場で生き残るどころか、戦果を上げることができる。
あれほど怯えた戦場に今は一刻も早く行きたかった。
二週間後、男は自室でで死んでいるのを発見された。
死体の周りには白い粉が散乱していた。
同様の死体が男のいた国で相次いで発見された。
国はこの粉が死因に関係していると判断し粉屋を追ったが見つからなかった。
粉屋が去ってすぐ、粉を買った生き残りが次々とおかしくなっていった。
粉をくれ、粉をくれと懇願しながら泣き叫ぶ者、お前が奪ったのかと手当たり次第に人を襲って行く者、何かに怯えながら必死に逃げる者等が目撃された。
国は狂った全員を牢屋に入れた。
だが、数日後には全員死体となった。
今後このようなことがないようにと国は粉を売る者には国の許可状が必要という法律を出した。
数年後、国王が死んだ。
王は激務に追われて、病となり死んだと国は公表した。
しかし、国民達は元気な姿をつい最近まで見ていた。
死ぬ三日前に行われた戦勝記念パレードで見た国王はとても病になっているとは思えないほど元気な姿だった。
ただ、おかしなことが一つだけあった。
普段感情を国民に見せない国王がとてつもなく笑顔だったことだ。
まるで、何かから解放されたような笑みだったとパレードを見た者達は語る。
きっと長期に及ぶ争いが終わったから国王も嬉しかったのだろうとあまり疑問視するものはいなかったが。




