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第十一話 大満月の夜④

              ◇


 時は遡ること魔族掃討作戦会議終了後、会議室。


「……はい、ーーーーーの予想通り、ルナマリア王女様達は私の提案を拒否しました」


 会議室の背もたれが体をスッポリ隠すほどの大きな椅子に腰掛け、背筋をピンっと伸ばしたナターシャは誰かと通話していた。

 ナターシャの表情は固く緊張した声を発していた。


「しかし、よろしいのですか?今回は間違いなく上級魔人(ディアボロス)が発現するのは明らかです、そのような場所に王女様達を行かせるのは自殺行為でしかありませんが………」

『ーーーーーーーーーーー』

「………なるほど、そういうことですか……了解しました」

『ーーーーーー』

「はい、全てはあの方の悲願のために!」


 通話を終了したナターシャは、余程緊張していたのか全身の力が抜け座っている椅子の背もたれに全身を預け沈み込んだ。椅子はギシギシと音を立て、誰もいない会議室中にナターシャの疲労感を響かせていた。


「………はぁ〜、あの方のことだから大丈夫だと思うけど………、魔族の狙いはおそらくルナマリア王女の………」

「あ〜!ナーちゃん、いた!みんな集まってるよ!」


 ナターシャが大きくため息を吐きながら小さく独り言を呟いていると、美春がノックもせずに勢い良く扉を開け会議室に入ってきた。ナターシャを探し回っていたのか、美春の右頬には一筋の汗が流れていた。少し息も切れていた。


「美春、もうそんな時間?ごめん、今行く!」

「もう、ナーちゃんがいないと今日の作戦成功しないんだからね!」

「はいはい、アンタのその期待に応えられるよう頑張るわよ……」


 ナターシャは美春に急かされると、全身を預けていた椅子から重い腰を上げ降りる準備をした。ナターシャの背丈では地に足が届かないため、椅子からピョンと飛び降り地に足をつけた。飛び降りる際、背丈に合わないダボダボの白い白衣がふわっと宙で膨らんだ。


 ナターシャは大きな白衣を引きずりながら、美春の後ろを歩き会議室を後にした。



              ◇



 身体中が痛い……息苦しい………どうして真っ暗なの…………身体が動かない………ジェイク……美春。


 魔人の目にも止まらない攻撃を受け後方に吹き飛ばされ、衝突した建物の瓦礫と共に地面に落ち気を失っていたルナマリアは、瓦礫の中で意識を取り戻した。うつ伏せで倒れているルナマリアの上には、無数の大きな瓦礫が乗っかり動きを封じていた。


「こ……こんなところで死ぬわけにはいかない………私には………守らなければならない人達がいるんだから………!」


 瓦礫の下で、決意の言葉を呟くとルナマリアは周囲に漂うマナを身体に吸収し始めた。マナが少しずつ吸収されていくと、ルナマリアの身体が光出しマナが吸収されるたびに身体の明度を高くしていった。


「……ハイ……ヒール……!」


 ルナマリアが治癒魔術を唱えると光っている身体の明度が更に強くなり、瓦礫の隙間から外に向かって放出された。ルナマリアの上に積み上がり動きを封じている瓦礫が眩しく光を帯びて発光し、ガラガラと瓦礫が震え出し崩れていった。


 治癒魔術を唱えたルナマリアの身体の傷はみるみる内に消えていき、頭や腕から出ていた血はあっという間に止まった。魔人の攻撃で肋骨が何本も折れていたが、世界的にも治癒魔術の使い手として右に出る者がいないルナマリアに掛かれば造作もないことだった。


「……これで……動けるわ………」


 上に乗っかっていた瓦礫が崩れ落ちたおかげで、少し動けるようになったルナマリアは更に周囲のマナを吸収し身体の表面に光の層を作り出した。光の層は次第にその厚みを増し、ルナマリアに密着していた瓦礫が身体から離れていく。数分の後、ルナマリアと密着していた瓦礫の間には30センチもの空間が生まれていた。ルナマリアはうつ伏せで寝ていた身体を両膝と両肘をつき起きあがった。ルナマリアが動いた影響で乗っかっていた瓦礫が更に崩れ落ち、左頬が瓦礫の隙間から差し込んだ鮮血に染められた大満月の光に照らされた。


 ルナマリアは外の状況がわからず、気になっていた。意識を取り戻してから今現在まで瓦礫の外から戦闘らしい音が聞こえてこない。全くと言ってほどの無音だった。その無音がルナマリアを焦らせた。


「……早く、ジェイクと美春のところに戻らないと」


 ルナマリアは二人の心配をしながら、両膝と両肘をついた身体を更に起き上がらせた。光の層の上に乗っかっていた瓦礫が起き上がったことで一気に崩れ落ち、ルナマリアは瓦礫の外に出て立ち上がった。やっと出られた……そう思った瞬間、


「ぐわああああああぁぁぁ」


 遠くで魔人に頭を鷲掴みにされ痛みで悲鳴を上げているジェイクがルナマリアの目に飛び込んできた。


「……ジェ……ジェイク!」


 ルナマリアはジェイクの名前を呼ぶと、魔人に向かって走り出していた。考える間もなく身体がジェイク救出に動き出していた。走り出したと同時にルナマリアの所々血に染まった腰まであるピンク色の髪は光り輝く白髪に染められた。身体は光り輝き周囲のマナを吸収していく。吸収されたマナはルナマリアの右手に集中し出し、剣の型へと変化していった。


 右手には目を覆いたくなるほどの明度で光り輝く剣が形成された。刀身からは小さい(マナ)がキラキラとこぼれ落ちている。


「このままじゃ、間に合わない……あれを使うしかない………」


 魔人に向け運んでいた足の踵を地面につけ、急ブレーキをかける。砂埃を撒きながら立ち止まったルナマリアは、砂埃が周囲を漂う中目を瞑り詠唱を始める。


「光の神ランスロットよ、我を光の粒に変え敵の元へ誘え!」


 ルナマリアの身体が明度を強め次第に外から内に向かって小さい(マナ)へと、変化していった。


「シャイニングループ!」


 ルナマリアの身体は無数の小さな(マナ)に変化し、空中に飛翔しながらパンパンと弾け消えていった。


(…………ジェイク!)




 ジェイクの頭を鷲掴みにして立ち尽くす魔人は、退屈そうにため息を吐いた。ジェイクはすでに気を失っている。


「脆い……弱い……人間とはこれほどまで愚かな存在だったとはのぉ……ルシファー様が失望してしまうわい」


 魔人は落胆した声で、鷲掴みにされ全身の力が抜けぶら下がっているだけのジェイクを見ながら呟いた。


「その発言は私を倒してからにしなさい!」


 どこからともなく聞こえてくる声に、魔人は周囲を見回して警戒する。しかし、周りには誰もいなかった。魔人は頭を左右に二、三回振り耳に入ってきた幻聴を振り払った。


「我も歳かのぉ、幻聴が聞こえてくるわい」


 魔人は身体の衰えに失望していると、頭上が明るくなっているのに気づき上を見上げた。頭上には無数の小さい粒が発現し、次第に渦を巻きながら収束していく。収束する小さい粒は人の形を形成し、目を覆いたくなるほどの明度を空間中に解き放った。


「ぬうぉ!」


 魔人の視界は凄まじい明度によって真っ白になり、すかさず顔を下に背けた。光に視界を封じられ後ろに二、三歩バランスを崩してたじろぐ魔人は、左手で両目を押さえた。


「………おのれ……小賢しい真似をしよるわぁ……」


 完全に油断していた魔人は、腹を立てながらも身体に起きている違和感に気づいた。ジェイクの頭を鷲掴みにしていた右腕が異様に軽い………魔人は徐々に回復してきた視界を自分の右腕に向け違和感の原因を確認した。


「……な……んだ……と……」


 魔人は自分の身体に起きている違和感に目を見開き驚愕の表情をし固まった。魔人の頬からは黒い皮膚で染められた灰色の汗が滴り落ちた。


 魔人の右腕はジェイクと共に肘から先が無くなっていた。無くなった右腕の切断部分は鋭利なもので切られたのか綺麗に切断されていた。切断された傷口からはドス黒い液体がドバドバと流れ落ち、落ちた先の白いタイルを黒く侵食しグツグツと瘴気を撒き散らしていた。


 魔人は前方に光輝く気配に気づき目を凝らした。そこには先程魔人の頭上に現れた光輝く小さい粒と同じもので形作られた剣が、タイルに刺さり立っていた。その傍らにジェイクの頭を鷲掴みにしていた魔人の右手が横たわり、切断部分から瘴気が立ち昇っている。瘴気は光輝く剣の周りに漂うと、シュッと跡形も無く消えていった。


「我の腕を切り落とすとは………あの娘………そうか、ククク……浄化の力か………」


 魔人は切り落とされた右腕を見ながら不敵に笑っていた。魔人の周囲は地面のタイルに落ちた黒い液体から発生した瘴気で空間を薄暗く暗度を強めていた。


「………二千年ぶりかのぉ、我の身体を傷つけられたのは………浄化の力………恐ろしい力じゃ」


 魔人は切り離された自身の右腕が瘴気となって消えていく姿を見届けたあと、さらに奥にいるルナマリアとジェイクに視線を合わせた。


「……ルミナスヒール!」


 ルナマリアは正座をして座り、意識を失い横たわるジェイクの上半身を抱き寄せ、最上位の治癒魔術を唱えジェイクを治療していた。ジェイクとルナマリアの身体が眩しく光り輝き、輝きが天高く昇り夜空を照らした。


「………ジェイク……お願い………目を覚まして!」


 ルナマリアは、両目から涙を流しジェイクの意識を呼び戻そうとしていた。流した涙がルナマリアの頬を伝い顎から落ち光の粒となりジェイクの頬を強く叩いた。頬を叩いた光の粒は放射線状に弾け、温かい光となってジェイクを包んだ。


「………ル………ル……ナ………」


 ジェイクは弱々しく返事をする。ルナマリアはジェイクの意識が戻ったことを確認すると、さらに治癒魔術を唱えジェイクを治療する。


「……ジェ……ジェイク、良かった……」


 ルナマリアはジェイクをさらに抱き寄せ、ギュッと抱きしめた。ジェイクはルナマリアの豊満な胸に顔が埋もれた。数秒の間、ジェイクはじっとしていたがルナマリアの胸に顔が埋もれていたからか、次第に苦しみ出しモゾモゾと顔を動かし出した。


「……ル、ルナ………苦しい………」

「はっ!……ご、ごめん……ジェイク!」


 ルナマリアはジェイクの訴えに、すかさず抱きしめていた力を緩め胸元からジェイクを引き離した。引き離したジェイクの頭を再び太ももに戻すルナマリア。ルナマリアは頬を赤らめながら、自分の太ももに頭を乗せているジェイクを見つめた。ジェイクは目を瞑ったまま、大きく息を吐いた。


「……ふぅ……危うくルナの胸の中で天に召されるところだったよ……それも悪くないかもな」

「ちょ、ちょっとジェイク……こんな時に何言ってるのよ!」

「いや、だって柔らかくてすごく暖かくて幸せな気持ちになったからさ」

「この変態ジェイク……心配して損したわ、バカ!」

「いてっ!」


 ルナマリアは太ももの上に頭を乗せ見上げながら冗談を口にするジェイクの頭にゲンコツを一発落とした。


「……ごめん、ルナ、冗談が過ぎたよ……」


 ジェイクはゲンコツが落ちた頭を押さえながら、顔を真っ赤にして怒っているルナマリアに謝った。押さえた頭はそこまで痛くはなく、本気で殴ったわけではないことがすぐにわかった。ルナマリアの怒る感情の中にも優しさが含まれていたことにジェイクは、嬉しさと同時に自分の弱さを恥じた。


「……ルナが助けてくれたのか?」

「うん、私の攻撃は通じるみたいなの……」


 ジェイクが見上げながら聞くと、ゲンコツを落とした頭を優しく撫でながらルナマリアは答えた。


「ちょ、ちょっと、ジェイク!まだ治療の途中よ!」

「……くっ……大分良くなったよ、ありがとな、ルナ……」


 ジェイクはまだ痛む頭を押さえながら、頭を乗せているルナマリアの太ももから離れ上半身を起こした。治療をしている途中だったルナマリアはビックリしてジェイクの頭を太ももに戻そうとした。


「俺は大丈夫だから………それよりもあの魔人をなんとかしないと……」

「う、うん………そうだね……」


 ジェイクは戻そうとしたルナマリアの右腕を掴み、本来の目的を思い出させた。二人はお互いを見合い、そして同時に魔人の方に顔を向けた。


 魔人はルナマリアによって斬り落とされ、タイルに突き刺さっている光の剣の浄化の力により徐々に消え進んでいる自身の右腕をじっと見つめていた。魔人は微動だにせず、不気味な静けさが空間を支配していた。


 あまりの静けさに緊張が高まる二人。次第に早まる鼓動が重低音を成して振動し、ドクンドクンと静まり返った空間に鳴り響いて聞こえてきた。


「……我が、ここまでの屈辱を味わったことは一度もなかった。ルシファー様には申し訳ないが、あの娘は塵も残さず消し去ることにしよう」


 そう呟いた瞬間、静まり返った空間に意識をしっかり保っていなければ狂気してしまうほどの殺気が支配し、二人の身体をその場に縛りつけた。


「……なんて殺気なの……でも、私の浄化の力なら……………やれる!」


 ルナマリアは魔人の殺気で押さえつけられた身体を起こし立ち上がった。ジェイクは意識は保っていたが体力を消耗しすぎていた為、立ち上がることが出来ずにいた。


「ルナ……気をつけるんだ、奴は魔人の中でも上級………まだ本気を出していない気がする………」


 ジェイクは両膝立ちしたまま隣に立っているルナマリアに警戒するよう助言した。

 

 すると、ルナマリアは横目でジェイクを見てフッと笑った。


「ジェイク……心配しなくても大丈夫よ!私の浄化の力が通じるんだからなんとかなるわ!」


 ルナマリアは過信していた、自分の力に……。


 


 


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