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異世界転移で持病が治ったし、彼氏もできたし、友達もできました。

 突然ですが、道を歩いていたら地面に光る穴(?)があった。

 そして私はそれに落ちた。

 そしたら、草原に立っていた。


 目の前には人が立っている。

 うす茶色の髪にうす茶色の目の綺麗な顔だけども、耳が長細く横に立っている。

 映画で見たエルフみたいな人だ。


「すみません。薬草踏みつけてるんでどいて貰えます?」


 エルフはちょっと目を見開いた。

 驚いたようだが、私に静かに声をかけてきた。


「あ、はい。すみません。横にどけばいいですかね?」

「はい。大丈夫です。空間移動で迷われたんですか? ここは都市リリスの近くのドレイン町ですよ」

「そうなんですね。御心配ありがとうございます」


 そうなんですね、リリス? ドレイン?

 全然聞き覚えないし、知らない。


 私はどうしたらいいか分からなかった。

 ぼんやりとしていると頭が痛くなってきた。

 持病の偏頭痛だ。

 落ちる前との気温差で鼻も詰まってくる。

 いつもの寒暖差アレルギーだ。

 少し肌寒い。


 エルフの人は薬草(?)を平たいカゴにまあまあ取るとちょっとずつ離れていった。


 どのくらい立っていただろう。

 私はどうしたらいいのか分からなかった。

 鼻が詰まってボーッとしてくる。


 そして、私は普通にトイレに行きたくなってきた。

 私、桃原絵里ももはらえりは20代前半にしてトイレが近い。


 泣きたい、近くの草でしゃがんでするかな?

 でも、さっきの人この辺で薬草取ってたしな。


 ……やばい、漏れそうだ。


「ちょ! バッドステータスいくつついてるんですか?! 失礼します! リフレッシュ! ヒーリング!」

「えっ?」


 突然、さっきのエルフの声がして振り返った。


 トイレ行きたい感が消えていた。

 何それ怖い。

 私の中の尿はどこに行ったのか。


「あ、ありがとうございます?」


 焦った顔をしているエルフにお礼を言う。

 私の無くなった尿とエルフは多分関係があるだろう。

 しかし、まだ頭は痛いし鼻も詰まっている。

 喉も乾いてきた。

 死にたい。


「どういたしまして。失礼ですが、珍しいバッドステータスが付いてるみたいなんで、ウチに来ませんか? そしてアナライズさせてくれませんか?」


 知らない場所で知らない人についていくのは得策ではない。

 が、頭が痛すぎて考えるのがめんどくさ過ぎた。


「はい。う、おぇぇぇぇえぇ………」


 頭痛が酷くて何も吐かないけど吐き気がする。

 でも、なんも出ない。


「え、大丈夫ですか? ヒーリング! え、効かない?」


 エルフ(もう面倒だからエルフにする)が初対面で手を引っ張って来る。

 首を傾げながらゲームみたいな呪文を唱えるけれど、尿意が無くなった以外には全然何も起こらない。

 私はもう死んでるのか夢の中なのかもしれないけれど、どちらも頭が痛いのは勘弁してほしい。



 ……この持病の頭痛がなくなるなら何でもするのに……。



 ………しばらく草原を歩くと、周りには草原以外に何にもなかったはずなのにいつの間にか街(?)の中に居た。

 そして、またちょっと歩くと大きな白壁の建物に入った。一階がガラスの自動ドアを抜けて、カーテンの奥の小さいベッドに寝かされた。


 ふーっ、と長い息を吐く。

 ようやっと横になれた。

 横になると、とりあえず立つ事に力を割かなくてもいいから楽だわ。


「ちょっとこれ飲んでください。あ、薬で今まで拒否反応は?」

「無いです」


 本当にない。いつもアレルギーの薬とか頭痛薬とか飲みまくりだ。


「本来なら傷に効くものですが、とりあえず痛みを感じてるみたいなのを止めないと」

「ありがとうございます」


 私の言葉に何故かエルフが少し驚いた後、ちょっと笑顔になった。

 私は頭が痛すぎて、エルフが差し出してくる水と丸い薬を飲み込んだ。

 何故言ってないのに、頭が痛い事が分かるのだろうと思ったが、さっきから頭を押さえてうめいてたらそりゃそうか。


 しばらく無言の時間が過ぎた。


 が、段々痛みが和らいできて驚いた。

 偏頭痛が起きたら頭痛薬をがばがば飲んでもなかなか痛みが治まらないし、しばらく行動不能になるのに。

 マッサージとか針とか試しても寝方を変えてみたりとかしてもダメだったのに。

 この痛みをとる鍵はエルフ(?)が出す薬にあったのか。

 素直に嬉しい。感激で涙出そう。


「どうやら痛みは和らいできたようですね」

「え、わかるんですか?」

「え、もちろん」


 エルフは私の問いに首を傾げた。


「さあ、嫌かもしれませんが。アナライズをさせて下さい」

「え。はい」


『アナライズ』とは何か分からなかったが、頭痛をとった恩人の言葉だ。

 即刻頷くと、エルフが、


「アナライズ!」


 と唱えて私の体の周りが光った。


 何か振動みたいなものが体の中を駆け抜けた後、エルフが、


「おおっ……」


 と小さく歓声を上げる。

 近くにあった小さい机のメモに何かを書きつけ始める。


桃原絵里ももはらえり。21歳。異世界人。鼻炎。虫歯。生理不順。偏頭痛。過活動膀胱。こんな色々初めて見た!」

「ええっ、虫歯? この前治療したばかりなのに?」


 エルフが「異世界人」と言ったことよりも、また虫歯ができてしまっていることがショックだった。

 歯医者さんには私は虫歯ができやすいので人一倍気をつけるようにと言われていたのに。

 一生懸命磨いて3ヶ月ごとに歯医者さんに通っていたのに、また虫歯。


「虫歯を治療? どう治療されたんですか? 魔法で? それとも薬で? 他のバッドステータスはどうやってつけたんですか? それぞれ本でしか見たことない珍しいステータスですよね? 異世界ではそれって普通なんですか?」

「え? あ? う?」


 横たわったままの私にエルフが詰め寄ってくる。薄い茶色の大きい目が至近距離だと地味に怖い。


「あ……申し遅れました。僕はエルフの治癒士25歳で、レオナルド・イワノワです。レオと呼んでください。すみません。突然、僕の医院に連れてきてしまって」


 私が引いているのがレオにも伝わったのか、しょぼんとした様子で自己紹介をしてくる。


「いや、頭痛をとってくれてありがとうございます。レオさんは知っているっぽいけど、私は桃原絵里ももはらえりです。絵里エリと呼んでください。あのっ、エルフとかってさっき光ったりとかしたって、ここは一体どこですか? 夢の中?」


「異世界人の方から見てここは違う世界です。多分、あなたの世界から落ちてきました」

「えっ、違う?!」


 事態がまるで受け止められなくて、ぼんやりする。


 違う世界。


 そんな私にレオが申し訳ない顔をする。


「すみません、菌やウィルスが無事な内に色々とあなたからとっていいですか? その後、クリーンの魔法かけます」

「それ、痛かったりしますか?」

「いえ、大丈夫です」

「じゃ、じゃあわかりました。どうぞ」


 なんと言っても私の偏頭痛を抑えてくれたのだ。恩人に否やはない。

 レオはそう聞くと部屋の奥に行き、四角い継ぎ目のない透明な箱を山ほど抱えてきた。


「成功してくれ、転移!」


 レオはそう唱えた後、私と四角い箱を見てガッツポーズをした。私は何も起こった感じはしない。


「やった! 成功だ。これが虫歯を引き起こす菌、これが目に居た異世界の発熱を引き起こすウィルス、これが、顔にいる小さい……なんだろうアナライズ! あ、そうなんだ? へぇー! 色々ある! うわぁ、動いてる。ふふっ………」


 レオが四角い箱を見ながら盛り上がっていて、私はそんなレオさんを和みながら見ていた。

 まあ、見ているのは菌とかなんだけどね。


 綺麗な男の人がはしゃいでいるのを見るのは楽しい。

 正直異世界だなんだと言われても、現実味が湧かない。


 それに、あれだけ苦しめられていた片頭痛も尿意もない。


 異世界というけれど、なんだか私は天国に辿りついたのかもしれなかった。

 私はそんなふわふわした気持ちで、ベッドに腰かけていた。


 それから、少し経って、はしゃぎ終わったレオが、クリーンの魔法を私にかけてくれた。

 その後は流れるように、晩御飯を食べながら話そうという事になった。


「エリーは良い人だね。礼儀正しくて大人しくて、僕の作った料理も食べてくれるし」

「そうかな? あ、これとっても美味しい」


 目の前には、レオがさっと作ってくれた料理が並んでいる。


 さっき、下の医院みたいなところから上がって、2階に来た。

 2階は一部住居スペースになっていて、リビングダイニングキッチンや寝室があるようだった。

 場所としては、ダイニングの大きなテーブルとイスに落ち着いて、2人でご飯を食べている。


「あ、それはね僕の得意な鳥のスパイス焼きだよ。これは朝に焼いたミルクパン」

「え、すごすぎる。天才かな」

「そ、そんな僕、照れるな」


 天国に来たようなふわふわ感のまま椅子に座り、添えられていたフォークとナイフとスプーンで目の前のものを食べると、正直天国に来た感が加速した。


 鶏肉のスパイス焼きと紹介されたものを食べると、皮がパリッと焼かれて香ばしい。味わったことのない旨味のあるスパイシーさで感動する。

 じゅわわっ、と鶏肉の油が舌に馴染んだ。


 パンもちぎって食べると、牛乳の優しい甘さが染みる味わいだ。美味しい。


「褒める言葉が少なくてごめん。本当に美味しいとしか言えなくて」

「異世界人だからなのかなエリーって素晴らしいね。なんかエリーと出会ったのが運命な気がしてきた」


 食事しながらお互いの事を存分に話すと、とりあえずこれからの方針は固まった。


 異世界人は大切に保護すると法律で決まっており、見つけた人は届け出る事が決まっている。

 明日、届け出と役所で面談する事にして、今日はレオの家にお世話になる。


 そういう事になった。


 レオの家は鍵のかかる客室兼簡易入院施設があり、そこを使わせてもらえるそうだ。


「エリー、色々急で不自由な事もあると思うけど、僕が精一杯お世話するからよろしく」

「いや、なんか夢の中にいるみたいでそんな不自由は感じないです。ふわふわして。ありがとうございます」


 お世話……、このエルフ良い人だなぁ。

 私は改まってお礼を言い、頭を下げた。


 レオから使わせてもらう部屋の鍵を受け取る。

 簡易入院施設も兼ねてるだけあって、部屋にはシャワー室とお手洗いがついていた。

 元居た世界と変わらない使い勝手みたいだ。


「部屋の掃除は週二回通ってくる掃除業者がいるからね。洗濯物は毎日玄関先の袋に入れて出しとくと、次の日の朝、綺麗になって返ってくる。急に入院する人用に、ベッドの下に全ての人にフィットする下着とパジャマがある。着替えはとりあえずそれ使って。着替えたらすぐ袋に入れてくるといいよ。クリーンの魔法よりシワなくなってピシッとするし。あ、色々言ってごめんね。ベッドのサイドテーブルの冊子に細々した事は書いてあるけど……」


 部屋を見て振り返った私にレオが微笑んだ。

 エルフの笑顔の超絶破壊力よ……。


「夜に痛くなってしまった時用に痛み止め置いとくよ」

「なにから何まで本当にありがとうっ」


 私はまたまた頭を下げた。


 次の日は、朝ごはんにレオの作ってくれた卵サンドとトマトスープを飲んだ。

 レオは医院に臨時休業の看板をぶら下げる。


「さあ、行こうか」

「いや、うん。ありがとう」


 光り輝く笑顔でレオが手を差し出してくる。

「危ないから手を繋ごう」との事だ。


 まあ、確かに異世界は何が安全で何が危ないのか私には分からない。

 レオの手は温かくてもちもちしていた。

 照れる。


 道中では様々な人にレオが声をかけられていた。

 町のお医者さん、といった所なのかな。

 後、綺麗な町娘風の女の人からの視線が刺さった。


 あー、うん。まあ、レオはエルフでかっこいいものね。

 私みたいな平々凡々な女が隣にいるなって事かな。


 ちょっと歩くと、大きなコンクリ色の四角い建物に着いた。

 それが役所だそうだ。


「エリーさん、一番の面談室にお入りください。あ、付き添いの方は扉の前の椅子で待っていてください」

「はい」


 いきなりレオ以外と面談は怖くて振り向くと、レオがギュッと手を握ってくれた。


「エリー頑張って! 役所の人との面談が終わったら秘蔵のタルト生地でフルーツタルト作るから。好きな果物は?」

「イチゴ!」

「オッケーだよ!」


 一気にテンションが上がって、私はそのテンションのまま面談室に入った。


 ……中には優しそうな黒髪黒目の同じ女性が居た。


「初めまして。リリーと申します。今回は異世界からお越しになったとの事、誠にありがとうございます」


 にっこり、とリリーはほほ笑んだ。

 ん、この世界の人ってレオもリリーもそうだけど見知らぬ私によく微笑むな。

 向かい合ったテーブルの椅子を勧められて腰を下ろす。


 部屋は緑が程よく配置され、壁紙はベージュ色で圧迫感はなかった。


「突然に違う世界にいらっしゃって、心細いお気持ちだと存じます。本日はこの面談でそんなエリー様のお気持ちを少しでも和らげることができたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします」

「あ、こちらこそよろしくお願いします。あ、名前は様をつけないで大丈夫です、はい」

「じゃあ、エリーさんとお呼びしますね」


 黒髪黒目のなじみのある色彩の女の人に丁寧な言葉で微笑まれると、今までの緊張が解れる気がした。

 そう、レオにお世話されて気づいてなかったけど、私、ちょっと緊張していた。

 そうだよね、昨日からなんだかさっぱり分からないし、夢の中で活動してるみたいだった。


 そうしてリリーさんとの面談が始まった。

 その結果、色々な事が分かった。


 地球から時々穴が開いて、下の世界であるこの「パンドラボックス」の世界に落ちてしまう人が時々居る事。


「エリーさんが日本人でしたら、ちょっと遠くの街になりますが男性の方が一人いらっしゃいます。50代でもしかしたらお話は合わないかもしれないですが……」


 少ないけれど、同じ日本人もこの世界に何人かいる事。

 地球人なら結構な数が居る事。


「……お気の毒ですが、元の世界に戻ることは不可能とされています。ですが、寂しくないように、「デーモティアス王国」の民が全力で異世界人様をサポートさせて頂きますので、なんなりとお申し付けください」


 未だに信じられないけれど、私は異世界にきて、そこから戻れない事。

 だけど、リリーさんが言うようには寂しくなかった。

 気が抜けていた。


「あまり今まで要望されたことはないのですが、定期的に元の世界の様子をこの鏡で見ることもできます。この鏡は限られたものしか操作できないので貸し出すことはできないのですが……ご覧になりますか?」


 そういわれて、元の世界を見せてもらった。

 私が居なくなって元居た所がどうなっているか。


「一緒にこのしるべの鏡の柄を握ってくださいませ。エリーさんの元の世界は…………見えました」

「あー……、家族……」


 しるべの鏡に、元の世界の家族が映った。


『絵里はどこだ。お昼ご飯もくれないなんておばあちゃんの事嫌いになったのか』

『絵里、私は病気なのよ。なんで家の事やってくれないの? 病気の親が居たらもっとやるはずでしょ?』

『おい姉貴! 小遣い。小遣い寄越せ! どこ行った! 大学なんて行ってねえで、金稼げや。俺は長男様だぞ! スロは出る時にいかねぇとダメなんだよ!』

『酒だ! 酒を持ってこい! 俺のおかげで国から貰ってる金があるだろうが!』


 ちょうど私の家族は特徴的な言葉を喋っていた。タイミングが良すぎる。


「もういいです!」


 私は叫んで鏡を伏せた。

 ちょっとボケてきたおばあちゃん、病気のお母さん、ギャンブルにハマり始めてしまった弟、仕事の人間関係で失敗して失業した父親。

 見たくなかった。


「……エリーさん、大丈夫です。エリーさんの落ちてきた地点からはしばらく別の人は落ちてきません。今までの異世界人の方々もそうでした。皆さま、元の世界で苦労されていた方が多いです。でももう大丈夫です。デーモティアス王国では、異世界人であるエリーさんにもう絶対に苦労はさせません。居てくれるだけで嬉しいしありがたいのです」

「な、なんで……」


 ショックで涙が出てきた私の目を、リリーさんが良いにおいのするハンカチで優しく抑えてくれた。

 そんな無条件に違う世界の人に優しくしてくれるとか、意味が分からない。

 何か裏があるのだろう。

 元の世界を見たショックで、私は優しい対応しかしていないリリーさんを疑った。


「それがですね。もちろん下心はあります。異世界人の方々は、この世界の神から遣わされる天の使いとお告げがあるのです。事実今まで異世界の方が来ると周りの魔物は少なくなり、居る所が栄えて、豊かになるのです」

「で、でも、じゃあ私は例外でそんな良い効果がなかったら……? 捨てられる?」


 私の言葉に、リリーさんが驚いた顔をして首を振った。

 そして気づいたように頷いた。


「ああ、そうですね。地球には神がいないのでしたね。こちらには神は実在していて絶対に嘘を吐いた事はありません。安心してください」

「そう、そうなんですね」


 衝撃的な事柄にどもってしまう。

 いつの間にか、私は異世界の天の使いになってた……。


「もちろん、不安もあるかと思います。どうでしょうか? デーモティアス王国とエリーさんで契約を結ばれては? 今までの異世界人の方も不安がある方がいらっしゃいました。ですから、神の名において、契約するのです」


 リリーさんが白い紙に簡潔な言葉が書かれているものを出してきた。

 その上の読めない文字は神様の名前なのだろうか。


『神の名においてデーモティアス王国の王国民はいつまでも____をこの国で大切にし幸せにする努力をする』


「ここにエリーさんの名前を書いて頂ければ契約は完了です。神を信仰し、実在する神の名において私たちはエリーさんを大切にし幸せにする努力を怠りません。もちろん不安があれば契約しなくても問題ござません。その場合もエリーさんを大切にすることをお約束します。あ、先ほどまで一緒に居たレオナルド・イワノワはエリーさんの保護を申し出ております。どちらでも大丈夫です」


 リリーさんは柔らかく微笑んだ。


「エリーさんとちゃんとした約束ができれば、私は嬉しいですけどね」と小さな声で付け加えられる。

 リリーさんの頬が少し赤くなっていて、私は心がじんわりした。


「今、サインします。デーモティアス王国にお世話になります」

「ありがとうございます! 嬉しいです!}


 書類にサインすると、リリーさんが最大限の笑顔になってギュッと手を握られた。

 美人の笑顔にドキドキする。


「私もエリーさんを大事にします。お友達になって下さい!」

「喜んで」


 面談が終わると、レオが扉の前で立って待ってくれていた。


「エリー……っ!!」


 まるで長い間離れてたみたいに、切ない顔をして手を広げるから少し笑った。

 すると、「かわいいっ」とレオにギュッと抱きしめられた。

 汗の匂いとフルーツみたいな甘い爽やかな匂いがして、全然嫌じゃなかった。


「甘い良い匂いがするね」


 と告げるとレオは真っ赤になって、


「エルフは……好きな人には自然と良い匂いの体臭が出て……」


 とかごにょごにょ言った。

 それから、


「僕と結婚してください!」


 とはっきりと言われた。

 私も反射的に顔が熱くなる。

 いつの間にか近くに立っていたリリーさんが、


「ここは役所ですよ? もっとロマンチックな場所がいいのでは?」


 と告げた。


「お友達からお願いします」


 とレオに告げると、周りから拍手された。


 その後はレオと手を繋いで帰って、またレオの家に泊めてもらった。


 それからレオと私は順調に交際を進めた。

 途中、レオが好きな人に色々言われる事もあったけど、レオとリリーさんが守ってくれた。

 そして、半年後にできちゃったのをきっかけにレオと結婚した。

 エルフに子供は出来づらいそうだから、レオは奇跡だと喜んでくれて、私も嬉しかった。


 レオと私は協力して、治癒魔法では治りにくい体の不調を治す研究を進めて、この世界でもそこそこの人が苦しんでいる不調から救うことができた。


 特に偏頭痛のメカニズムを解明して貴族の人の頭痛を治したりした時はレオが勲章を受け取るほどだった。


 私としては、生理不順にはどうしていったらいいのかが治療法を確立できたのが心に残っているけれど。

 生理激重族だったもので。

 女性から感謝されたのも嬉しかった。


 あ、虫歯はこの世界の人はなかなか患者がいないので役に立たなかった。皆、汚れるとクリーンとかリフレッシュの魔法を唱えて綺麗だから。


 もちろん、私だけが色々と協力していた訳ではなく……、


「リリーディア! 今日と明日はパパと居ようねー」

「明日までありがとう。いってきます!」

「いってらっしゃい。楽しんでくるんだよー」


 レオが娘のリリーディア(リリーさんの事が好きすぎて名前をもらった。もちろん許可はとった)と手を振った。


 今日は仲良くなったリリーさんに誘われて、デーモティアス王国で有名な温泉に行ってくる事になっている。

 友達になったリリーさんは子育てのリフレッシュと称して、王国の観光名所にあちこち連れ出してくれる。


 その間、レオが娘のリリーディアの面倒を見てくれるのだ。

 もちろん通いのお手伝いさんや前々からの掃除の人はいるけれど。


 たまにふと元の世界の事を思い出して心が痛くなる時はある。

 だけど、レオとリリーディアとリリーさんがいるから、私は幸せです!


読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価かいいねを押してくださると、読んでくれた人がいるんだなぁ、って幸せになります。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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