91話 勝てばいい
ガラスをまとめて十数枚割ったような、そんな音が響いた。
それでもルルは視線はマリアから外さない。
「でいりゃぁあああ!」
さらに左拳を撃つ。
ガンッ! と岩を叩くような音。
マリアはロンギヌスでルルの拳を受け止めていたものの、その衝撃を完全に逃すことはできず、体勢を崩してしまう。
その隙は見逃さない。
ボクとララはすでに追撃の体勢に移っている。
ルルならこうしてくれると信じて、あらかじめ駆けていたのだ。
「風牙!」
「食らいなさい!」
僕とララの攻撃がピタリと重なる。
相乗効果で威力が増して……
マリアは勢いよく吹き飛び、壁に叩きつけられた。
それで終わらない。
「祝福を」
「光よ、飲み込め!」
ウルルが強化魔法をかけて、ミリーが特大の魔法を放つ。
壁に叩きつけられたマリアが光に包まれた。
そして……爆砕。
炎が荒れ狂い、土煙と衝撃波が飛んできた。
しっかりと足に力を入れておかないと吹き飛ばされてしまいそうだ。
「マリアは……!?」
「待つのだ、旦那様。これは……」
彼女の生死を確かめようとしたら、ルルに制止された。
ルルの視線を追いかけて天井を見る。
壁から亀裂が伝い、それは天井にまで伸びていた。
さらに拡大して、あちらこちらにヒビが広がる。
それと同時に鈍い音が始まり、ゴゴゴという鳴動も始まる。
「これ、やばたん?」
「崩れるわよ!?」
「い、いくらわたし達でも、これだけの瓦礫に落ち潰されたらひとたまりもありません!」
「くっ……一度、撤退します!」
マリアの生死を確認しておきたい。
ゴルドールも回収しておきたい。
でも、それだけのことをしている時間はない。
すぐに逃げないと崩落に巻き込まれてしまう。
そう判断した僕達は、慌てて地下から脱出した。
ゴゴゴゴゴッ……ゴガァッ!!!!!
地上に出た直後。
街全体に響き渡るような轟音を立てて、ゴルドールの屋敷が根本から崩壊した。
地下が崩れたため、地上の建物も耐えられなかったのだろう。
地震が起きたかのように地面が揺れる。
盛大な土煙が舞い上がる。
ビリビリと空気が震える。
災厄が起きたかのようなひどい有様だ。
「……やりすぎたんじゃね?」
「……そ、そうですよね」
「……あたしは知らないわ」
「……我も知らぬ」
みんな、現実逃避をしていた。
悪魔なのに、妙なところで小心者だなあ。
「いいんじゃない?」
「……旦那様は、どうしてそこまで大胆なのだ?」
「領主の屋敷を崩壊させるとか、私達、マジやばじゃない?」
「まあ……やってしまったものは仕方ないです。マリアはよくわかりませんが、ゴルドールは間違いなく死んだでしょう」
ゴルドールは普通の人間だ。
この崩落に巻き込まれて生きていられるわけがない。
奥さんと一緒に眠ることができたのだから、まあ、本望だろう。
強制的に眠らせた?
知らない。
気にしない。
あんなやつ、生きている方が迷惑だ。
ここで消えてくれた方が世界のためになるというもの。
うん。
かなり自分勝手な意見だけど、でも、それを押し通すことにしよう。
なにしろ、僕は悪魔を花嫁にするような人間なのだから。
そして、その悪魔を良しとするのだから。
「間違いなく問題になりますけど、捕まる前に逃げれば問題ないかと」
「……カイルって、こんなに大胆だったの?」
「大胆というか、ちょっと無鉄砲な気がしますけど……」
「ま、カイ君らしいかもね。これはこれで」
「うむ。今まで自分を押し殺していたのだから、その分、好き勝手していいと思うのだ」
ものすごく悪役らしい考えだ。
でも、それでいい。
僕は、僕のやりたいようになる。
もう我慢することはない。
そう決めたのだ。
「ふふ、そこまで開き直られると、いっそ感心してしまいますね」
「やっぱりか」
瓦礫を押しのけてマリアが現れた。
あちらこちらから出血しているものの、致命傷は負っていない様子だ。
まだまだ戦えるというようにロンギヌスを手放していない。
「ちょっとしつこくないですか?」
「それだけ、あなた達のことを気に入っているのですよ?」
「ぜんぜん嬉しくないです」
「あら、つれない」
マリアはロンギヌスを構えて……
しかし、少しして構えを解いた。
「本当なら、まだまだこれから、と言いたいのですが……さすがに、数トンに及ぶ瓦礫に押しつぶされるのは堪えましたね。骨もいくらか折れているようですし、これでは思い切り戦うことができません。それはつまらないので、今日はここまでにしましょうか」
「逃がすとでも?」
僕は前に出る。
ルル達も前に出る。
そうして睨み合い……




