83話 なにか違う
数日後。
宿の部屋。
「「「おぉ」」」
ルル達は感心するような声を出して。
「わぁ」
シュカは、目をキラキラと輝かせた。
それぞれの視線は僕に向いている。
そして、その僕は……
「どうして、こんなことに……」
脱力。
少しでも気を抜いたら、膝から力が抜けて、そのまま崩れ落ちてしまいそうだ。
でも、そんなことはできない。
そんなことをしたら借りた服が汚れてしまう。
「……」
ちらりと姿見を見る。
そこに映っているのは……
腰まで届く長いサラサラの髪。
フリルがついたかわいい服。
そして、嫌味にならない程度の指輪などのアクセサリー。
可憐な美少女がいるのだけど……
それは僕だ。
「まさか、ここまで似合うとは……うーむ。我、女としての自信をなくしてしまいそうなのだ」
「やば。マジやばたん。めっちゃいい……あー、好きすぎてヤバイ」
「本当、すごいわね……カイルって、生まれてくる性別を間違えたんじゃない?」
「お、お姉ちゃん、画家さんとかいないかな? ぜひ、このカイルさんを絵に保存しておきたくて……!」
「みんな、その反応はやめて……」
なぜ女装をしているのか?
それは、領主の屋敷に潜入するためだ。
理由はわからないけど、領主は人身売買に関わっている。
そして、若い女性を主に集めている、という情報を得た。
警備は厳重なので、こっそり忍び込むことは難しい。
なので、わざと誘拐されることで向こうの懐に運んでもらおう、という作戦だ。
ルル達だけに任せるわけにはいかないと、僕も女装をしたのだけど……
みんなの反応がガチすぎて、ちょっと怖い。
あと、自分が自分じゃなくなるみたいで、なんだかとても複雑な気分。
「なにをするかよくわからないけど……がんばってね、お姉ちゃん!」
「シュカ、お姉ちゃんって呼ぶのはやめてください……」
心の底からのお願いだった。
――――――――――
その日の夜。
僕達は、街から逃げる家族を装い、夜の街に出た。
事前の調査によると、こういう人達が狙われやすいようだ。
夜なので人目につくことはない。
さらわれたとしても、街を出て行ったと誤認されて事件になることはない。
……そんな理由。
そして……
「うまくいったみたいですね」
見事に……と言うとおかしいかもしれないけど、僕達は襲われて、誘拐された。
目隠しをされて、さらに両手足を縛られた状態で、樽のようなものに入れられた。
このまま依頼主のところまで運ぶのだろう。
「……狭いのだ。なんか嫌な匂いがして、イライラするのだ」
「やっぱ、薙ぎ払った方が早い?」
「いたっ、お尻打った」
「うぅ、暗いです……」
みんなの声がうっすらと聞こえてくる。
やられるがままおとなしく、というスタイルなので、けっこう不満やストレスが溜まっているみたいだ。
うーん。
ミリー辺りが心配だ。
突然、暴れたりしないよね?
お願いだからおとなしくしててくださいね?
そう祈りつつ、流れに身を任せることしばらく……
ガコッ、という音に淡い光が差し込んできた。
「出ろ」
「うわっ」
突然、樽が逆さまになった。
慌てて体勢を整えて、頭から落ちることは避ける。
いかつい男は僕の枷を外してくれるものの、しかし、厳しい表情で釘を刺してくる。
「ここでおとなしくしてろ。いいな? 逃げようとか、つまらないことは考えるなよ」
僕をさらったであろう男はそう言い残すと、部屋の外に出る。
その際、ガチャっと鍵のかかる音が聞こえた。
「えっと、ここは……」
窓は一つもなくて、ランタンが一つ、壁にかけられているだけ。
薄暗いだけじゃなくて、ちょっと匂う。
よく見ると、部屋の隅に埃が溜まっていた。
「湿気っぽいし……窓もないところを見ると、地下室かな? 扉は……けっこう頑丈ですね。普通は開けられないかも」
扉は鋼鉄製。
鍵も複雑なもので、簡単に突破することは難しいだろう。
「それで……ルル達は、なにをしているんですか?」
「「「え」」」
ルル達も同じ部屋に閉じ込められていた。
なにやらうっとりした様子でこちらを見ている。
「旦那様みたいな美少女が地下室に閉じ込められて、憂い顔……ちょっとドキドキするのだ」
「私の手で淫らに退廃的に染めたい、みたいな?」
「わかります、ものすごくわかります、それ!」
「こういう地下室が似合う美少女とか、他にいないわよね。才能?」
「ほんと、やめてください……」
僕のお嫁さん達が変な趣向に目覚めようとしていた。




