73話 今なんて?
「うーん」
できるのなら穏便に済ませたかったのだけど、そういうわけにはいかないようだ。
これからどうなるのか、とても心配だ。
……主に盗賊達が。
「ほう……我らの金品を寄越せと言うか、こやつらは」
「あはは、マジうけるー」
あ。
ルルとミリーが狩りをするライオンのような目に。
このままだと惨劇が繰り広げられてしまう。
いくら盗賊とはいえ、あまりひどいことは……うーん。
どうしよう?
「おい、聞いてるのか? 早く金を出せ。手間をかけさせるな」
「逃げようとか考えてるのか? 無理だ無理、諦めろ。お前の人生ここで終わりだよ」
「ま、安心しろ。奴隷として売るから、命は助かるさ。女は女で、俺達がたっぷり可愛がってやるよ」
「……今、なんて?」
心がスゥっと冷えていく。
「俺達が朝まで可愛がってやるよ。もちろん、性的な意味でな」
「お前にはもったいないくらいの上玉だからな。へへ、楽しみだぜ」
「とことん楽しませてもらおうか。ま、恨むなら女に生まれてきた自分を恨むんだな」
「へぇ……ルル達に手を出すつもりなんですね」
盗賊達に対する同情が消えていく。
欠片もなくなり、変わりに怒りがこみ上げてくる。
僕の大事な人に手を出そうとした。
想像とはいえ、彼女達を汚した。
絶対に許せない。
「お、おおぅ……? なんか、旦那様がものすごいプレッシャーを放っているのだ」
「マジやばたん……カイ君怒らせるとか、あいつら終わったわー」
「え、えと……カイルさん、大丈夫でしょうか? この前みたいなことに……」
「大丈夫よ。怒っているみたいだけど、今回はちゃんとコントロールできているみたいだから……たぶん」
「お姉ちゃん!?」
振り返り、ルル達を見る。
「ルル、お願いしてもいいですか?」
「う、うむ」
キスをして祝福を授けてもらう。
「カイ君、私はいい?」
「大丈夫です」
「む、残念」
ミリーがしょんぼりしてしまう。
後でなにかしら埋め合わせを考えよう。
「ルル達はここで待っていてくださいね?」
「う、うむ」
「が、がんばー」
「ありがとうございます」
みんなの声援があれば百人力だ。
よし、やろう。
一歩、前に出る。
「すぅ……」
呼吸を整えて、
「ふっ!」
地面を蹴る。
一気に距離を詰めて、盗賊の懐に潜り込んだ。
「あ?」
なにが起きたか理解していない、間の抜けた盗賊の顔。
そこに拳を叩き込む。
「がぁ!?」
右から左に殴り抜けると、盗賊の体がくるくるっと横に回転した。
そのまま地面に倒れる。
指先がわずかに動いていて、意識はないけど死んではいないみたいだ。
「……て、てめえ!?」
「俺達に逆らうつもりか!?」
「いいか、俺達は泣く子も黙る最強の盗賊団、くれなぐはぁ!?」
名乗りを聞く必要なんてないので、二人目を殴り飛ばした。
「ルル、ミリー、ララ、ウルル……みんなにひどいことを言いましたね? ひどいことをしようとしましたね? 絶対に許せません」
「な、なんだよこいつ……動きが全然見えぎゃあ!?」
「おい、魔法で吹き飛ばひぃ!?」
「誰かどうにかうああああ!?」
――――――――――
盗賊を殴り飛ばして、蹴り伏せて。
あるいは投げ飛ばして、関節を極めて。
カイルが獅子奮迅の活躍を見せる。
まるで嵐だ。
彼の攻撃圏内に入ったら最後、痛烈な一撃を浴びて地面に沈む。
避けることも防ぐこともできない。
待ち受けているのは、決定的な敗北だ。
「むう……我の祝福があるとはいえ、旦那様はすさまじいな」
「でもでも、そこがいいっしょ。カイ君、かっこいい♪」
「ルシファル様もミカエル様も、お、落ち着いていますね……」
「あれ、止めなくていいの……? 堕ちることはないと思うけど、やりすぎるような気も……」
ウリエルとラファエルは気が気でない様子だ。
一方、ルシファルとミカエルは落ち着いている。
カイルの暴れっぷりに惚れ直しているらしく、黄色い声援を送りそうな雰囲気だ。
そんな二人を見て、ラファエルが呆れた様子で言う。
「二人共、よく落ち着いていられますね……」
「旦那様のことを信じているからな」
「もしもまた、堕ちそうになったら?」
「その時は我らが止めればいい。そのために、我らがいるのだろう?」
「まあ……カイルが困ったことになったら、どうにかするつもりだけどさ」
「私達は、カイルさんのお嫁さんですからね」
ウリエルは嬉しそうに言う。
「それに、あんなカイ君を見るのは、それはそれでいいっしょ」
ミカエルがにかっと笑いつつ言う。
「私達のために怒ってくれているんだよ? 普段、あんなに落ち着いていておとなしいカイ君が、こんなになるくらい怒っているんだよ? めっちゃ嬉しいっしょ」
「それは……」
「まあ……」
ウリエルとラファエルは、ミカエルの言葉に頬を染める。
そして、熱っぽい視線をカイルに向けた。
「我らのために怒ってくれているのだ。女として、とても誇らしいことではないか」
ルシファルはにっこりと笑い、愛する人の活躍をしっかりと目に焼きつけるのだった。
次回更新は16日(金)になります。
詳細は活動報告にて。




