7話 名前で
「さて」
気を取り直すように、ルシファルが軽く咳払いをした。
そして、頬を染めて……
恥ずかしそうにしつつも、にっこりとうれしそうに言う。
「では、初夜といくか」
「ごほっ」
思い切りむせてしまう。
「な、なにを……」
「わ、我とお前は、その……結婚したのだぞ? ならば、次にするべきことは初夜だろう?」
「色々と飛ばしすぎています!」
悪魔流ではあったものの、確かに僕達は結婚した。
でも、僕は恋愛初心者で……
知識はあっても、どうしていいかわからないことがたくさんある。
初夜とか、えっと……
さすがに早すぎると思うわけです、はい。
「むう……まあ、仕方ないか。我は寛容だからな。旦那さまのわがままを受け入れるのも、妻の仕事であろう」
「わがままなのかどうか……って、旦那さま?」
「うむ。我、婚約者。つまり、カイルのことを旦那さまと呼んでも問題はあるまい」
「ない……のかな?」
僕達は夫婦になった。
結婚した。
なら、そう呼んでも問題ないような気がしてきた。
というか、旦那さま、って言われるのは嬉しいかも。
「そうだ、それで思い出したぞ」
「え?」
「旦那さまは、どうして私のことを名前で呼んでくれないのだ?」
「えっと……」
そういえば名前で呼んでいない。
「なんていうか、恐れ多い気がしまして」
「我らは夫婦なのだ。遠慮することはないぞ。というか、ガシガシ来て、いっそのこと愛称で呼ぶくらいがいいのだ」
「愛称……ですか」
「うむ! さあ、我に愛称をつける栄誉を授けてやろう!」
ルシファルは、とてもワクワクとした様子だった。
犬の尻尾が生えていたら、ブンブンと勢いよく横に振られていただろう。
「愛称……愛称……」
せっかくなので考えてみる。
「……ルル、なんてどうですか?」
ルシファルだから、最初と最後をとってルル。
安直かもしれないけど、でも、わりと良い感じはした。
「……ルル……」
「やっぱり、安直ですか?」
「いや、そんなことはないのだ! いい、我はいいと思うぞ。うむ。気に入ったのだ!」
ルシファル……もとい、ルルは目をキラキラと輝かせて喜んでいた。
まるで子供みたいだ。
そこまで喜んでもらえると、考えた方としてもうれしい。
「はっ」
威厳のことを思い出したのか、ルルは笑顔を消した。
でも、すぐに頬がニヤニヤとしてしまう。
「我は、よ、喜んでなんかいないのだ! いや、やっぱり喜んでいるのだ!」
「どっちなんですか?」
「ちょっと意地を張りたい気分ではあるが、素直にならず、怒らせてしまってはまずいと思ったのだ」
とても素直だった。
「……あはは」
「む、どうして笑うのだ?」
「いえ、すみません。ただ……生きていてよかったな、楽しいな……って、初めてそう思うことができまして」
僕の心を救ってくれたのは、ルルの笑顔だ。
彼女の存在が、人生に温かさを取り戻してくれている。
一人の女性の笑顔。
それだけで人生が変わる。
そのことが驚きで……
それと、とても新鮮だった。
まだまだ知らないことがたくさんあるんだな。
「それは、我のおかげか?」
「そうですね、ルルのおかげです」
「ふむ、ふむ。そうか! ふはははっ、ならば我を崇めるがいい! 称えるがいい!」
ルルが調子に乗った。
でも、本気で崇めたいくらいの気持ちだった。
「ただ……」
「?」
「なでなでしてくれたり抱きしめてくれたり、愛してくれる方が我はうれしいぞ……?」
「……」
「あっ、いや! 今のはなしだ! 自分で言っていて、ものすごく恥ずかしくなってきたのだ! ふ、ふんっ。旦那さまのことなんか、どうでもいいのだ!?」
下手なツンデレさんだった。
でも、そんなわかりやすいところが彼女の魅力なのかもしれない。
「ところで、そのぉ……」
なぜかルルが赤くなる。
もじもじとする。
「どうしたんですか? もしかして……」
「うっ」
「トイレを我慢しているんですか?」
「違うわ、アホっ!」
頭を叩かれた、痛い。
確かに、デリカシーのない発言だったと思うけど……
でも、それならどうして恥ずかしそうにしているのだろう?
「むう……我も女だ! 女は度胸! うむ、いいぞ」
「えっと?」
「そのぉ……さっそくというか、旦那さまに甘えてもよいか?」
じっとこちらを見つめるルル。
ちょっと上目遣いで、男心をくすぐるポイントを理解しているというか……
これ、素でやっているんだよね?
この先、とんでもない魔性の女性になるような気がした。
「えっと……」
甘やかすのは、どうすればいいのだろう?
考えて……
なんとなく、ルルの頭を撫でた。
「はぅんっ」
ルルはビクンと震えて、妙に艶めかしい声をこぼした。
こんなことでうれしいのだろうか?
不思議に思いつつ、さらに頭を撫でる。
「んっ……ふぅ、うぅん……おぉ、頭を撫でられているだけなのに、我、恍惚としてしまうのだ」
ルルの唇から湿った吐息がこぼれて、それが僕に触れた。
なんていうか、こう……
とてもいけないことをしているような気分になって、すごくドキドキしてきた。
「ふぁっ……あっ……ふぅ……んっ!」
ルルがビクビクと震えて……
「んっ……!!!」
ルシファルがへにゃへにゃとその場に崩れ落ちる。
腰が抜けたみたいだ。
その瞳はとろんとしていて。
頬は桜色の紅潮していて。
「な、なでなでは素晴らしいのだ……でも、やりすぎなのだ、アホぉ……」
抗議をするかのように、ルルは唇を尖らせるのだった。
今日は3回更新します。次は19時です。
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