6話 悪魔と結婚しました
「んっ」
「!?!?!?」
突然、ルシファルが唇を重ねてきた。
なんで? と疑問で頭がいっぱいになるのだけど……
口先に広がる柔らかくて甘い感触に酔い、疑問は溶けて消えてしまう。
温かい。
気持ちいい。
心が満たされる。
不思議な感覚で、ルシファルと溶けて一つになってしまいそうだった。
「ふぅ」
ややあって、ルシファルが離れた。
その顔は、やはりというか、とても赤い。
「……えっ!?」
たっぷり一分くらい硬直して、我に返った。
「今……あれ!? え!?」
「か、勘違いするでないぞ!?」
「え?」
「今のは、き、ききき……キスだ! 本気のキスだからな!? 気まぐれとか、そういうわけじゃなくて、本気のキスだからな!?」
そういう意味で勘違いするな、ということなの?
「えっと……血を唇に塗ったのは?」
「我ら悪魔の間では、そうすることが結婚の証となるのだ。お主の願いを叶えるには、その、あの……け、結婚するのが一番良いかと思い、こうしたのだ」
「なるほど、そうだったんですね」
人間と悪魔。
文化の違いがあって当然だ、納得。
「……」
「……」
二人で赤くなる。
「ちょっと照れますね」
「う、うむ」
「でも、幸せですね」
「……うむ」
ルシファルがにっこりと笑う。
かわいい。
本当にかわいい。
こんな人が僕のお嫁さんになったなんて……
もしかしたら、僕は今、夢を見ているのかもしれない。
そんなことを真剣に考えるくらい、現実味がなかった。
「その……正直なところ、とても嬉しかったぞ。我も幸せなのだ」
「ありがとうございます」
「我が礼を言いたいくらいだ。我の手を取ってくれて、ありがとう」
ルシファルは、どこか感慨深い様子で、そう言う。
「我は悪魔だ。世界を滅ぼすほどの力を持つ。そんな存在に手を差し伸べてくれる者なんて、誰もいない。千年以上を生きてきたが、カイル、お前が初めてなのだ」
「でも……僕は、そういうのはあまり気にしなくて、気軽にしただけで」
「それでも、だ」
ルシファルは、じっとこちらを見つめてきた。
その瞳には、確かな愛情が宿っている。
「それでも、我はとてもうれしかったのだ。偶然でも、知らなかったとしても。我に人の温もりを教えてくれたお前が、とても愛しく思う」
「それは……」
「その……我も、お主のことが……す、すすす……好き、なのだ」
消えてしまいそうなほどか細い声だけど、でも、しっかりと聞き取ることができた。
ルシファルは耳を赤くしつつ、もじもじとして言う。
「我も……一目惚れなのだ」
「……」
「我が相手では……イヤか?」
期待を込めて……
そして、どこか不安そうにしつつ、ルシファルがこちらを見つめてきた。
僕は人間。
彼女は悪魔。
普通に考えて、彼女の想いを受け入れるなんてありえない。
出会ったばかりというのもあるのだけど……
それ以上に、種族の差が違いすぎる。
どこかで破綻を迎えてしまう、それが当たり前の結論。
だけど。
僕は、やっぱり彼女のことが好きだ。
彼女と一緒にいたいと思う。
生きる意味なんてなくて、死ぬことを考えていて……
そんな中、ルシファルだけが優しくしてくれた。
彼女だけが、僕を一人の人間として扱ってくれた。
僕と彼女。
ある意味で、似たもの同士なのかもしれない。
「もちろん、大歓迎です」
「ほ、本当か!?」
「はい、大好きです」
「ひぁ!?」
毎回、照れるルシファルがかわいい。
「不安はあるし、戸惑いもあります。ただ……それ以上に、あなたと一緒にいたい、っていう気持ちがあって……」
うん。
この温かい気持ちは、一時の気の迷いとか、そういうものじゃない。
確かなものだ。
「だから、お願いします」
「ふぁ」
「ふぁ?」
「まさか、受けてくれるとは思っていなかったから……うれしい悲鳴というヤツなのだ」
今の、悲鳴なんだ。
「その、あの……で、では、今から我らは夫婦ということで……いいか?」
「はい」
「我は、お前の花嫁ということで……いいか?」
「はい」
「……えへへぇ」
最初に出会った時の威厳はどこへやら、ルシファルはだらしのない笑顔に。
でも、そんな彼女はかわいいと思う。
というか、僕から望んだことなのに……
いつの間にか、彼女から望んだような形になっていた。
どっちでもいいか。
ルシファルと一緒にいられるのなら、なんでもいいや。
「はっ」
威厳を思い出した様子で、キリッとした顔に。
でも、もう遅い。
ルシファルは、人々に恐れられている悪魔だけど……
でも、彼女は本当はとてもかわいい。
そのことを知ることができて、僕だけが知っていて……
少し得した気分だった。
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