52話 噂
「悪魔?」
翌朝。
宿で朝食を食べていると、女将さんからそんな噂を聞いた。
もう一ヶ月以上泊まっているので、女将さんともすっかり仲良しだ。
「ここから三日くらい歩いたところに、小さな村があるんだけどね? なんでも、そこに悪魔がやってきたらしいよ」
「それって……村は大丈夫なんですか?」
ガブリエルを連想した。
彼女のような凶悪な悪魔だとしたら、村は……
「なにも問題ないそうよ」
「あれ、そうなんですか?」
「詳しくは知らないけどね。でも、なにか問題が起きた、っていう話は聞いてないからね。うまくやっているんじゃないかい? まあ、そもそも悪魔なんていないさ」
あははは、と笑う女将さんを見て、ルルとミリーがサッと目を逸らす。
悪魔、ここにいます。
しかも、大悪魔が二人。
「ちなみに、その悪魔の名前って聞いていたりしません?」
「確か……ラファエル、だったわね」
――――――――――
僕の目的は、亡くなった母の代わりに世界を旅すること。
ただ、悪魔のことは放っておけない。
ガブリエルのような悪魔がいるから、早め早めに対処をしておきたい。
でないと、どうなることか。
予知夢で見たルルとミリーの死。
あんなことは、二度と起きないようにしないと。
そんなわけで、悪魔の様子を見に行くことにしたんだけど……
「この村みたいだけど……」
「ものすごく平和そうなのだ」
噂の元となっている村にやってきたけど、平和という言葉を体現したかのような村だ。
ちらほらと見える村人は、みんな健康そうで、笑顔を浮かべている。
村の中で放し飼いにされている家畜もまた、元気そうだ。
「おや? 君達はどなたかな?」
村人の一人が僕達に気がついて、声をかけてきた。
若い男性で、この人もとても元気そうだ。
「あ、はい。僕達は、この村に……」
「我らは旅人なのだ。たまたま、この近くに寄ってな」
「宿とかある?」
「ああ、それなら案内するよ」
男の人についていく。
その後ろで、こっそりと話をする。
「……なんで、僕の話、遮られたんですか?」
「……旦那様は素直すぎるのだ」
「……悪魔の噂を聞いてやってきましたー、とか、警戒されるかもだし」
そういうものなのだろうか?
ほどなくして宿について、男の人と別れた。
宿は二階建てで、それほど大きくない。
ただ、僕達以外の客はいないらしく、貸し切り状態だ。
簡単にチェックインすることができて、とりあえず部屋に移動した。
「村の雰囲気は……見た感じだけですけど、すごく良いですね」
「うむ。特にこれといって特徴があるわけではないがな。のどかで平和そうで、良いところだと思うのだ」
「ってか、村の人達、めっちゃ元気そう。夜とか大変な感じ?」
「えっと……」
コメントに困ることを言わないでほしい。
「噂の悪魔が悪さをしている感じはないですね」
もっとも、ガブリエルの件があるから、すぐに判断はできないけど。
「ルルとミリーは、どう思いました? 悪魔はいると思います?」
「いるな」
「いるよん」
即答だった。
「え、いるんですか?」
「なにを驚いているのだ? そういう噂があっただろう」
「いや、そうなんですけど……まさか、こうも簡単に断言されるなんて」
「ま、私ら大悪魔だし? 仲間の気配には敏感っていうか、そんな感じ?」
「というか……この気配、覚えがあるな」
「私もめっちゃある」
ルルとミリーは難しい顔を見せた。
その反応で、なんとなく次の言葉を察してしまう。
もしかして……
「その悪魔って、二人と同じ……」
「うむ」
「大悪魔っしょ」
「マジですか」
旅に出てから、出会うのは全て大悪魔。
なんだろう?
僕、妙な縁に恵まれているのかな?
「あはは、カイ君、私みたいな口調になってるし」
「うつったのかもしれないですね。でも、ミリーと一緒なら嬉しいです」
「ま? そんなこと言われると、照れるし」
「むう……」
ルルが拗ねていた。
話を元に戻そう。
「その大悪魔って、どんな人かわかります?」
「ラファエルって、ツンツン悪魔だよねー」
「ツンツン?」
「マジ怒りっぽいの。私がラファエルのケーキ勝手に食べたら、めっちゃ怒られたし」
それは怒られて当然では……?
「でも、嫌なヤツではないな。ツンツンしているが、なんだかんだ思いやりがあって優しい悪魔なのだ。悪魔なのに、という話ではあるが」
「そそ。良い子だよん♪」
「あと、ミカエルと同じ四大悪魔の一人なのだ」
「それと、シスコン」
「え」
シスコン、っていうことは……姉妹?
ということは、この村にいる悪魔は一人じゃなくて二人?
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