5話 一緒に歩いていきたいから
「……は?」
しばらくの間があって、ルシファルは間の抜けた声をこぼした。
目を大きくして驚いている。
「……今、なんて?」
「あなたが欲しいです」
「えっと……それは、どういう意味なのだ? ああ、そうか。この我の力を欲する、ということだな? その力を使い、破壊と混沌を撒き散らして……」
「いえ、力とかはどうでもいいです。あなた、そのものが欲しいです」
「つまり……?」
「僕、あなたに一目惚れしたみたいです」
「ひにょれもれ!?」
ボンッ、とルシファルの顔が真っ赤になる。
ものすごく動揺していた。
思い切り噛んでいた。
「なっ、ななな、なにをふざけたことを言っているのだ!? わ、我にそのようなことを求めるなど……!!!」
「でも、どんな願いも叶えてくれる……って」
「う……た、確かにそうは言ったけれど、しかしだな」
「ダメ……ですか?」
「ダメというか、その、あの……本気なのか?」
「はい」
少しでも僕の気持ちが伝わればいいと思い、即答した。
ルシファルがさらに赤くなる。
「む、むう……」
「僕、正直、恋とかよくわからないんですけど……でも、あなたが欲しいって、そう思いました。嘘じゃないんです」
「お主は、今時、珍しい馬鹿正直な人間だ。疑ってはおらぬが……しかし、気の迷いということもあるだろう? 勘違いしているとか、そういうことは?」
「ないと思います」
首を横に振り、その根拠を言葉にして並べていく。
「あなたを見ていると、すごくドキドキします。勝手に目で追ってしまいます。それと、こうして話をしていると、それだけで胸が温かい気持ちになります。自然と笑顔になってしまいます。とにかく嬉しくて、幸せなんです」
「う……」
「あなたは綺麗です。すごく綺麗です。サラサラの髪は光を反射して輝いていて、悪魔というよりは女神だと思います。くりっとした瞳は愛らしくて、いつまで見ていても飽きないと思います。唇は柔らかそうで、ほっぺも柔らかそうで……あと、白い肌も素敵です。全体が完璧に整っていて、芸術品……というか、その枠をあっさりと超えていて、もう国宝のような感じで……」
「待て待て待てぇ!!!」
ルシファルは、とても慌てた様子で止めてきた。
「そ、それ以上言うでない! その、あの……恥ずか死、してしまうだろうが!」
「すみません……」
「うぅ……まさか、ここまで強烈に口説かれてしまうなんて……ど、ドキドキしてしまうのだ」
ルシファルはすごく恥ずかしそうにしていた。
顔は赤く、吐息も荒い。
必死に落ち着こうとしているみたいだけど、なかなかうまくいかない。
「む、むう……? なぜ、この我がここまで動揺する? 崇め讃えられることなんて、今まで、幾度となくあったことなのに。なぜ、こやつと一緒にいるだけで、ここまで……まさか、我も……そういうこと、なのか?」
「えっと……?」
「……」
ルシファルは深く考え込んでしまう。
邪魔をしてはいけないと思い、しばらく様子を見守る。
「……お主の願いだが」
「はい」
「その内容で契約しても構わん」
「本当ですか?」
「うむ。今まで聞いたことのない願いだが、問題ない。我も、その……お主のことが気に入ったのだ」
「わぁ……」
すごく嬉しい。
幸せすぎて、このまま死んでしまいそうだ。
「死ぬな! 我をいきなり未亡人にするつもりか!?」
「あ、すみません。って、未亡人?」
「我が、ほ、欲しいということは……そ、そういうことなのだろう? 結婚、ということなのだろう?」
普通のお付き合いとか。
その後に婚約をするとか。
色々と段階を飛ばしているような気がする。
でも……どうなんだろう?
僕も世間の常識に詳しいわけじゃない。
ずっと監禁に近い状態だったから、よくわからないことが多い。
すぐに結婚……が、今は正しいのかな?
「我は、お主の魂をもらう。そして、お主は我を手に入れる。そういう契約で問題ないな?」
「はい。あ、でも……魂をあげると、僕は死んじゃいますよね?」
「それは大丈夫だ。我がお主のものになる、というのがお主の願いじゃからな。死んではそれを叶えることができん。魂をいただくのは、願いを叶えた後なのだ。我がお主のものになっても、それは願いを叶えている途中だから、いただくようなことはない」
「そうですか、良かったです」
「ただ……本当によいのか? 悪魔を伴侶に選ぶなど、正気の沙汰ではないぞ? 教会から狙われるかもしれん。間違いなく茨の道となるだろう。後悔と苦悩で過ごすことになるぞ? まだやり直すことは……」
「よろしくお願いします」
「はぇ?」
わりと簡単に手を取ったからなのか、ルシファルは目を丸くした。
それから顔を赤くする。
「にゃ、にゃんで手を……!?」
「よろしくお願いします、っていう挨拶の時は、握手が普通かな……って」
「そ、そうかもしれんが、しかしだな!? というか、あっさりオッケーしたな!?」
「僕は、あなたと一緒にいられるのなら、後はなんでもいいので。どうも……それくらい好きになってしまったみたいです」
「ひぁ!?」
何度も顔を赤くするルシファルだった。
かわいい。
「わ、わかった。わかったから手を離せ! 乙女の手を簡単に握ってはいけないのだぞ。デリカシーがないのだぞ。その辺り、わかっているのか?」
「あ……そうですね、ごめんなさい。あなたはとても綺麗でかわいい人なのに、気軽に手なんて握ったら失礼ですね」
「ほ、褒められているような……って、そこまでしょんぼりするでない。別に我は怒ってないし、その……まあ、うれしいというか、悪い気分ではなかった。気にするな」
「ありがとうございます。気にかけてくれるなんて、優しいですね」
「そ、そのようなことは……あーうー。は、話が進まないではないか! とにかく、我と契約していいのだな」
「はい」
目的を見つけられない人生。
流されるままに生きてきた。
なら、この出会いは偶然じゃなくて運命かもしれない。
僕は、彼女と一緒に歩いていきたいと思った。
「よし、では儀式をするぞ」
そう言うルシファルは、少し緊張しているみたいだった。
それと、なぜか顔が赤い。
恥じらっているみたいだけど……僕、なにも言っていないよね?
「あむ」
ルシファルは親指を噛むと、流れた血を自分の唇に塗る。
なんだろう? と不思議に思っていると……
「……んっ」
そっと唇を重ねられた。
次は21時に更新します
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