41話 あえて繰り返す
裏路地に移動すると、二人組の男が見えた。
その奥に少女が追い立てられている。
間違いない、ガブリエルだ。
彼女は弱者に見えるものの、しかし、とても余裕がある態度と表情だ。
今にして思えば、彼女は狩る側なのだから、獲物に怯えるなんてことはありえないのだろう。
このまま放置すれば、僕とガブリエルの接点は生まれない。
彼女に目をつけられることもない。
でも……
「待ってください」
僕は、あえてガブリエルに接触することにした。
――――――――――
「改めて……この度は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
ガブリエルを助けた後、彼女の屋敷に招かれた。
……正確に言うと、ガブリエルの屋敷じゃなくて、本物の第三王女の屋敷なのだけど。
「どうぞ、私のことはニアと」
「えっと……」
「ダメですか?」
「……わかりました、ニア」
「ふふ、ありがとうございます♪」
彼女の正体は、表も裏も全部知っているけれど、僕はなにも知らないフリをする。
これは作戦の一つだ。
もしも彼女の正体を知っているような素振りを見せれば、ガブリエルは警戒するだろう。
でも、なにも知らない顔をすれば?
ガブリエルは警戒することはない。
また一人、おいしい獲物がやってきたと無邪気に笑うだけ。
余裕と隙ができる。
そこに付け入る。
「それにしても、カイル様はとても強いのですね。大きな男性を二人も相手にしていたのに、子供をあしらうかのようでした」
「ルルとミリーに稽古をつけてもらっているので、多少はがんばれます」
「まあ。では、お二人の方がもっと強いと?」
「そうですね」
「ふふ、とても興味深い話ですわ」
一瞬。
本当に一瞬だけど、ガブリエルはルルとミリーに鋭い視線を送った。
警戒するような、牽制するような。
王女では決してありえないような目をした。
予知夢の信憑性がまた一つ、増した。
こうして予知夢通りの行動を取っているのは、ガブリエルの油断を誘うだけじゃない。
予知夢の通り、彼女が本当に敵なのか確かめるためだ。
予知夢らしいものを見たものの、それが確実に正しいという保証はない。
根拠もない。
なので、ひとまずは様子を見て探ろう、ということになった。
もちろん、ただ様子を見るだけじゃない。
いつでも反撃に出れるように警戒しつつ……
後々、どんな状況からも逆転して、追い詰めることができるように種をばらまいていく。
そのために必要なこと、やっておくことは色々とある。
そのうちの一つが、もうそろそろやってくるのだけど……
「姫!」
扉が強く開いて騎士が姿を見せた。
うん、ピッタリだ。
僕達は彼を待っていた。
王国に仕えていて、今は王女の護衛を務める騎士長。
その力は一騎当千なのだとか。
まずは彼を味方にする。
「どうか、考え直してください! 得体の知れぬ輩を屋敷に招き入れるなど、絶対にありえないことです」
「さきほど、説明をしましたが……?」
「姫を助けたということですか? どこまで信じていいか。姫に取り入るため、この者達の自作自演という可能性もあります。というか……」
騎士長がこちらを見る。
「その可能性しかありえないと思いますな。このようなひ弱な子供が暴漢を退けた? ありえない、ありえないですな。吹けば飛びそうなほど貧弱で、拳を振れば己の骨が砕ける……そのような者でしょう、こやつは」
「「……」」
ルルとミリーが急に無言になった。
いや……
「……こうなるって聞かされてたけど、マジむかつくんですけど」
「……うむ、頭に来るのだ」
「……ヤッちゃう?」
「……ヤるか」
今回もすごい物騒な会話をしている!?
「私が大丈夫と言っているのですが……それでも、騎士長は信じられないと?」
一瞬、ガブリエルが氷のような冷たいプレッシャーを放つ。
それは、彼女が悪魔だからなのだろう。
「信じるに足る証拠がなければ、引き下がるわけにはいきません」
「私の言葉では証拠にならないと?」
「あと一つ、なにかが欲しいです。でなければ認められません。我ら親衛隊、姫の身を守るため、どのようなこともしなければなりません」
騎士長に聞こえないように見えないように、ガブリエルが舌打ちをする。
せっかくの獲物を逃がすような真似をするな、と言いたいのかな?
予知夢を見ていたせいか、この時、ガブリエルが本当はなにを考えていたのかすごくよく理解できた。
「では、こうしたらいかがでしょう?」
先程の表情はどこへやら、ガブリエルはにっこり笑顔で言う。
「カイル様と騎士長が……」
「すみません。その方と二人で話をさせてくれませんか?」
本来なら、僕と騎士長が決闘をする流れだ。
ただ、あえてそこは逆らい、対話を望んだ。
ガブリエルの隙を突くため見極めるため、ある程度は予知夢の通りに動くことにしたけれど……
全てをなぞっていたらバッドエンドを迎えてしまう。
ところどころで、予知夢にはない行動を取る必要がある。
「対話……ですか?」
決闘をさせたいと思っていたであろうガブリエルは、ちょっと驚いた顔に。
「その……どうも誤解をされているみたいなので。まずは、きちんと話をしたいと思いました」
「む?」
「たぶん、が……ニア様を守る護衛の方なんですよね? なら、僕達のことを警戒して当然です。右から左へ流れていく旅人なので、身を示す者はなにもありませんからね。悪意ある人の刺客と思われても仕方ありません」
「ほう、認めるのか?」
「怪しいという点は。ですが、害を成す可能性は否定します」
「……」
「……」
騎士長がまっすぐにこちらを見る。
ここで視線を逸らしては、やましいことがあると言っているようなもの。
目を逸らすことなく、でも、穏やかに見返した。
「……ふむ、いいだろう。話くらいは聞こう」
「ありがとうございます」
第一関門は突破、というところかな?
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