4話 あなたをください
「ありがとうございました」
「果物のことか? なに、気にすることはない。あれは、近くの村人が我に対する供物として持ってきたもの。我のものだから、どうしようと自由なのだ」
「でも、どうして僕に? 僕は生贄なのに……」
あれかな?
ぱくりとおいしくいただくのなら、まるまると太らせた方がいいと思ったのかな?
「その生贄のことだが……」
「はい」
「……ぶっちゃけてしまうと、あれ、冗談なのだ」
「はい?」
冗談?
どういうことだろう?
「我が封印されていたことは確かだ。その封印が長い年月で弱体化して、最近になって、我が復活したことも事実だ。そうしたら、さっきも言ったが、近くの村人が我を神と勘違いしてな……供物を捧げるようになったのだ」
「はあ……」
「いらんと突っぱねると、怒らせたと勘違いさせるかもしれんだろう? だから、素直に受け取っていたのだが……やがて話が大きくなり、領主の使いがやってきてな。配下に加われ、とたわけたことをぬかしてきてな。そこで話がこじれて、ならばまずは誠意として生贄をよこせ、と勢いで言ってしまったのだ」
「そうだったんですか……」
父親の話とずいぶん違う。
どちらを信じるか?
ルシファルかな。
彼女は悪魔だけど、でも、とても誠実な人だ。
こんなつまらないウソはつかないと思う。
そうなると、父親の愚行が明らかになってくる。
力を手に入れるために悪魔を従えようとしたものの、失敗して、逆に怒りを買う。
ならば討伐してやろうと、生贄を差し出して時間稼ぎ。
……どうしようもない人だ。
「ふむ、我を討伐するか」
僕の心を読んだらしく、ルシファルが険しい表情に。
「愚かな。我にケンカを売るだけではなくて、息子の命を利用しようとするとは……本当に愚かな人間だな」
「……」
「どうした、妙な顔をして? まさか、父親のことを気遣っているのか?」
「あ、ううん。そんなことはないんだけど……どちらかというと、あなたの言葉に驚いて」
「我が?」
「僕のために怒ってくれるなんて、優しいんですね」
「や、優しくなんてないわ! ただの気まぐれだ、アホっ!」
突然、罵倒された……
「まあ、それはいい。お前、えっと……そういえば名前を聞いていないな」
「カイルです」
「では、カイルよ。愚かな父親と兄弟に一泡吹かせてやりたいと思わぬか?」
「え?」
「カイルの話だと、我を討伐するために、しばらくしたらやってくるのだろう? その時に、カイルが戦い、見返してやるのだ。お前らは自分から宝を捨てたんだ、ざまあみろ……とな」
それは……
「っ」
正直、ワクワクした。
なにもかも諦めていたけど……でも、僕は人間だ。
悔しいと思うことはあるし、見返してやりたいと思う時もある。
それが叶うというのなら、素直にうれしいと思う。
「でも、そんなこと、どうやって……僕はなんの力もないですから」
「力がないのなら、力を得ればいい。そのための方法は目の前にあるぞ」
「え?」
「よくある話であろう。悪魔に魂を捧げてでも、なにかを成し遂げたい……という話は」
確かに、よくある話だ。
古来からその手の話題はたくさんあふれていて……
でも、実際に悪魔に魂を捧げたという例は見つからない。
「僕は、あなたに魂を捧げるんですか?」
「うむ、それが悪魔との契約だ」
「……契約……」
「魂を捧げてもらう代わりに、我は、お主の願いを一つ、なんでも叶えよう」
「……なんでも……」
「復讐を望むのなら、それを達するだけの力を与えてやろう。あるいは、一生かかっても使い切れないほどの金銀財宝でも構わぬぞ? それとも、永遠の命を求めるか?」
「……」
強大な力。
莫大な富。
老いを知らない体。
とんでもない話を切り出されたのだけど……
でも、どれもピンと来ない。
「さあ、どうする? 我と契約をするか?」
「えっと……」
考えるけど、欲しいものが思い浮かばない。
「なんだ、なにもないのか?」
「はい……すみません」
「謝るな。しかし、悪魔を前にして、ここまで無欲でいられるとは……ふむ、おもしろいな。ますます契約を結び、お主を我のものにしたくなってきたぞ」
「そう言われても、願いが……」
「なにかないか? 本当になんでもいいぞ?」
「えっと……」
考える。
考える。
考える。
「……あ」
「なんだ!? なにか思いついたか!?」
「はい、一応」
「言ってみるがいい。どのような願いであろうと、我が叶えてやろう!」
「じゃあ……」
願いを言おうとして……
そこで、僕は、とてもドキドキしていることに気がついた。
胸が締めつけられるように痛い。
ルシファルから目を離すことができない。
顔が熱くなる。
ああ……そうか。
僕にこんなことが訪れるなんて、夢にも思わなかったけど……
たぶん、そういうことなのだろう。
「僕の願いは……」
「うむ。願いは?」
「あなたが欲しいです」
僕は、この大悪魔に恋をしたのだった。
今日は3回更新します。次は19時です。
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