39話 そんなことになるくらいなら……
ややあってガブリエルが離れる。
「ふふ。祝福を授けることはできませんが、思い出くらいは差し上げようと」
「……それはどうも」
ぜんぜん嬉しくない。
「では……そろそろ始めましょうか」
ガブリエルがパチンと指を鳴らした。
その音に反応して、ルルとミリーが動く。
虚ろな目をしたまま、ゆっくりと動いて、それぞれ拷問器具を手にする。
そして、静かに近づいてきた。
「……っ……」
正直に言うと、怖い。
どれくらい耐えられるかどうか……
もちろん、諦めるつもりはない。
どうにかこうにか耐えて、最後まで反撃のチャンスを伺うつもりだ。
でも……
もしもダメだった時は。
その時は、どうか、ルルとミリーだけは無事でありますように。
「では……そうですね。ルシファル様は、まずは爪を剥いでください。ミカエル様は、皮を少しずつ切り取りましょう。危ないと思った時は、私がストップをかけて治癒魔法をかけますね♪」
「……」
「……」
ルルとミリーは声を出さず、コクリと頷いてみせた。
そのまま僕の目の前までやってきて、拷問器具を……
「……ぅ……」
「……ぁ……」
ルルとミリーの動きがピタリと止まる。
それと同時に、小さなうめき声。
「? どうしたのですか。さあ、早く」
「……ぅ……」
「……ぁ……」
ガブリエルが命令をするが、二人は動かない。
わずかに震えているものの、それ以上の動きはない。
もしかして……
「ルル、ミリー……僕のために?」
二人は魅了されている状態で、それはまだ解けていない。
それでも。
僕を傷つけてたまるものかと、そんな声が聞こえてきそうだった。
魂が逆らい、必死に抵抗する姿が見えるかのようだった。
「ふぅ……」
ガブリエルがとても冷めたため息をこぼす。
「そのような人情劇はまったく望んでいませんわ。あぁ、つまらないつまらない。とても期待外れですわ」
ガブリエルは、再び指をパチンと鳴らした。
支配を強化するものだったらしく、ルルとミリーが苦しそうにする。
「……っ……」
「……ぁぅ……」
ぎこちない様子でルルとミリーが動く。
短剣に持ち替えて、その刃を僕に向ける。
ただ、とても苦しそうで……
痛みも感じている様子で、顔を歪めていた。
「やめてください! 二人に手は出さない約束でしょう!?」
「ですね」
「なら……!」
「ただ……悪魔って嘘つきなのですよ? ふふ」
「このっ……!!!」
カッと頭に血が上るものの、しかし、拘束されているせいでなにもできない。
ガチャガチャと鎖を鳴らすだけだ。
その間に、ルルとミリーが迫り……
「ルル! ミリー!」
「……ぅ……」
「……ぁ……」
「僕のことはいいですから! 無理をしないでください、二人が苦しそうにするところは……大事な人が、そんなことに……そんなのはもう!!!」
母さんの最期を思い出してしまう。
優しくて。
僕の前ではいつも笑顔でいて。
裏では泣いていたはずなのに、でも、そんなことは我慢して……
それなのに僕は……!!!
「……旦那、様……」
「……カイ、君……」
とても苦しそうにしているものの、二人の目に正気の色がわずかに戻る。
「まさか、意識が戻るなんて……」
「ふん……お主の魅了など、我には……きかぬ」
「ちょー……意地っ張り、だし……やば、気が遠くなる……」
正気に戻ったものの、それも長く続きそうにない。
少しでも気を抜けば元に戻ってしまうのだろう。
「ルル! ミリー!」
「旦那様、よ……我は……旦那、様を……傷つけるくらい、ならば……」
「そんな、の……絶対、無理っしょ……だから……」
二人は目で語り合い、
「「そんなことになるくらいなら死ぬ!!!」」
ルルとミリーはニヤリと笑う。
そして、強く叫んで……
自らの胸に短剣を突き刺した。
「ルル!!! ミリー!!!?」
今すぐ二人のところに駆け寄りたいのに、でも、動くことができない。
なんで、
僕は、
「……すまぬ、旦那様……」
「……ごめんね……ばいばい……」
二人がゆっくりと倒れた。
そのまま動くことはなくて……
血溜まりが広がっていく。
「ルル!!! ミリー!!!」
全身が熱くなって。
燃えるように熱くて。
妙な力が湧いてきて、鎖を引きちぎる。
慌てて二人を抱き起こすのだけど……
「ルル……? ミリー……?」
軽く揺さぶるものの反応はない。
二人が目を開けることは……もう、ない。
「そんな……まさか、こんなことが……」
手が震える。
がくがくと震えて、二人を支えることができない。
ルルとミリーが僕の手から落ちる。
二人の命がこぼれ落ちる。
それを拾うことはできなくて……
「うぁああああああああああぁぁぁ!!!」
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