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32話 裏路地の少女

 宿でごはんを食べた後、僕達は街に出た。


 今いるところは、大きな街と街の間にある宿場街だ。

 たくさんの宿と色々な店が並んでいる。


 店が並ぶ区画に移動すると、たくさんの露店が見えた。

 その奥に店舗が連なっている。


「わぁ……たくさんありますね」

「そんなに驚くようなことか?」

「僕、宿場街に来たのは初めてなので。こんなに多くの店、たくさんの人……物語の中でしか知りません。僕が知っている光景は、小さな小屋だけだったので」

「「くっ」」


 ルルとミリーが明後日の方向を見て、なにかを耐えるような仕草をした。


 なんだろう?


「護符、売ってるでしょうか?」

「なんとも言えぬが……ここは、比較的大きな宿場街のようだからな。期待はできるぞ思うぞ」

「私、服も見たい感じ?」

「ミカエル、お主は……」

「ついでだから、ついで。それに……」


 ミリーがニヤリと笑う。


「かわいい服を買って、カイ君に褒められたくない?」

「……アリだな」

「でしょ?」

「うむ!」


 妙なところで意気投合していた。

 やっぱり、女の子はおしゃれが好きみたいだ。


「なら、服も一緒に見ましょうか」

「よいのか?」

「それくらいの心のゆとりは欲しいので」


 無理をしても意味はないと思う。

 ある程度、心に余裕はあった方がいい。


 そんなわけで、護符を探しつつ服も見て回ることにした。


 色々な店を見て。

 護符を探して。

 ついでに、ルルとミリーの服も見て。


 楽しい時間を過ごすのだけど……


「……はぐれてしまった」


 気がつけば、僕一人という状況に。

 店を見て回るなんて初めての経験で、はしゃいでしまったせいかもしれない。


 最悪、宿に戻って待てば合流できるけど……

 でも、時間を無駄にしてしまうし、その前に合流したい。


 二人を探して街中を歩いて回る。


「あれ?」


 ふと、裏路地の方から争うような声が聞こえてきた……ような気がした。


 見たところ、なにもないけど……

 でも、聞こえたような気がする。


「僕、そんなに耳はよくないんですけど……」


 どこか気になり、裏路地を進む。


「なあ、嬢ちゃん、こんなところでなにをしているんだ?」

「ここは危ないからな、おじさん達が家まで連れて行ってあげよう」


 10歳くらいの小さな女の子が、大人の男性、二人に囲まれていた。

 行き止まりに追いつめられている。


「……」


 ただ、女の子の表情に怯えの色はない。

 無表情に男二人を見上げていた。


 女の子の様子がちょっと不思議だけど……


 それはそれとして、どう考えても見過ごすことができない事件だ。

 慌てて二人の男に声をかける。


「なにをしているんですか!?」

「……なに、お前?」

「ガキは家に帰れ。失せろ」


 殺気すらぶつけてくる。

 これ、一般人がちょっとヤンチャをした、っていう状況じゃないな。

 たぶん、奴隷商に通じている人だ。

 いたずら目的じゃなくて、さらにその延長線上……人身売買を目的としているのだろう。


 なおさら見過ごせない。


「今すぐ、その子から離れてください。人を呼びますよ」

「……うぜえな、死ねよ」


 片方の男がいきなり短剣を抜いて、こちらに切りかかってきた。


 沸点低すぎでは!?


「そういうことをするのなら……」

「なっ!?」

「容赦はしません!」


 必要最小限の動きで短剣を避けた。

 そのまま、突き出してきた男の腕を脇で挟み、全身を捻る。


 鈍い音と共に男の骨が折れる音が響いた。


「てめえ!?」


 もう片方の男が殴りかかってくるのだけど……

 でも、遅い。


 逆に彼の懐に潜り込み、下から上に顎を蹴り上げる。

 男はぐらりとよろめいて、そのまま気絶した。


「ふう……よかった、ルルとミリーに稽古をつけてもらっておいて」


 ルルとミリーとキスすれば、とんでもない力を得ることができる。

 でも、逆を言うと、二人がいないと僕はなにもできない。

 いざという時、自分の身を守ることも、大事な人を守ることもできない。


 それは嫌だ。

 なので、旅をしつつ、二人に徹底的に稽古をつけてもらったのだ。


 悪魔による訓練。

 悪魔を対象としてものなので、訓練メニューは人間を想定していない。

 だから、過酷も過酷。

 何度、死ぬと思ったことか……


 でも、どうにかこうにか乗り越えることができて、ほどほどの力を手に入れることができた。

 ただのチンピラに負けることはない。


「大丈夫ですか?」

「……」


 女の子に声をかけると、視線がこちらに向いた。


「……はい! ありがとうございます」


 さきほどまでの無表情が一転して、にっこりと笑う。

 明るくて優しくて、とても良い笑顔なのだけど……


 なんだろう?

 うまくいえないのだけど、妙な違和感を覚えた。


「って……もしかし私、危ないところでした?」


 女の子は疑問顔で、こてんと小首を傾げた。


 自覚がなかったみたいだ。

 本当に危ない。


「はい、けっこう」

「そうでしたか……では、改めて、助けていただきありがとうございますわ」


 女の子はスカートの端を摘み、丁寧にお辞儀をした。


 よく見てみれば、とても綺麗な女の子だ。

 人形のよう、という言葉がぴったりと似合う、とても淡麗な容姿をしている。


 背は低い方で小柄。

 亜麻色の髪。

 そして、フリルのついたきらびやかな服。


 本当に人形のようだ。


「……ふふ、これも運命かもしれませんね」

「え?」

「いえ、なんでもありません。私、ニアと申しますわ。お兄様のお名前は?」

「僕は、カイルです。カイル・バーンクレッド」

「……そうですか」


 一瞬、女の子がニヤリと笑ったような気がした。


「カイル様とお名前で呼んでも?」

「はい、どうぞ」

「では、カイル様。危ないところを助けていただき、そのお礼をさせていただけませんか? ぜひ、私の家にいらしてくださいな」

「えっと……」


 気にしないで、と思うのだけど……

 見た感じ、ニアは貴族なのかもしれない。

 そうなると、お礼を断るのは失礼になってしまう。


「なら、お邪魔になりますね」

「嬉しいですわ♪」

「ただ、連れがいて、一緒でもいいですか?」

「えっと……?」


 ニアが不思議そうな顔に。

 連れがいると言いつつ、僕一人なのを疑問に思っているのだろう。


「今、はぐれちゃってて……あはは」

「あら、それは困りましたわね。私も探すのをお手伝いいたしましょうか?」

「え、いいんですか?」

「はい。もちろん、お連れの方も一緒に……」

「あっ、いたのだ!」

「もー、カイ君心配したよー」


 ふと、聞き慣れた二人の声が。

 振り返ると、ルルとミリーの姿が。


 二人は駆け寄ってきて、そのままの勢いで抱きついてきた。


「むう、私を心配させるとは悪い旦那様なのだ」

「マジそれ」

「ごめんなさい。それと、心配してくれてありがとうございます。家族以外に心配されるなんて初めてのことで……迷惑かけておいて申しわけないんですけど、嬉しいです」

「「くっ」」


 二人が泣きそうな顔に。


 なぜだろう?


「そちらがカイル様のお連れの方ですか?」

「うん、そうだよ」

「む? 旦那様、この娘は……」

「おー、人形みたい」

「えっと……」


 ひとまず、ニアのことを説明して……

 二人が了承してくれたので、僕達はニアの家に招かれることになったのだった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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◆ お知らせ ◆
新作を書いてみました。
【天災賢者と無能王女と魔法の作り方】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
ふたりが何も言わないという事は悪魔ではない? てっきり残り三人のうちのひとりかと思ったんだが。
[気になる点] ニアちゃんも悪魔かな…? でも二人と違って天使の名前ないですよね? 悪魔なら偽名か? [一言] 〉二人が泣きそうな顔に。 多分、萌えに耐えている姿だと思います。 二人にはカイル君が悲し…
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