3話 大悪魔はかわいい
「き、ききき、綺麗とか……お、お前、なにを言っているのだ!」
ものすごく慌てていた。
なんでだろう?
「な、なるほど。そういうことか。我に媚を売り、なんとか助けてもらおうと考えたのだな? そのために、心にもないことを口にしたのだな?」
「え? 本心から綺麗だと思っているけど……」
「はぅ!? ま、また綺麗って……」
さきほどよりも赤くなる。
とても器用だ。
悪魔だからなのかな?
「だ、騙されぬぞ! 人間はずる賢い。思ってもいないことを口にするのは日常茶飯事であろう!」
「それは否定しないけど……でも僕は、あなたのことをとても綺麗だと思っているよ」
金色の髪はサラサラで、風に揺れると景色が輝いて見える。
その瞳は宝石のよう。
温かい光を宿していて、ずっとずっと見ていたい。
スマートな体で、やや小柄。
でも、全体的にバランスがとれていて、全女性の理想が体現されていると思う。
なによりも、その表情。
自信に満ちあふれていて、とても生き生きとしている。
強い生命力を感じられる力強さがあって、惹きつけられずにはいられない。
「はわ、あわわわっ……!?」
僕はなにも口にしていないのだけど、なぜか悪魔が慌てた。
限界に挑戦するような感じで顔を赤くして、目をぐるぐるさせている。
なんで……あ、そうか。
たぶん、僕の心を読んだのだろう。
何度も使えないとは言っていたけど、僕が嘘をついている可能性を考えて、力を使ったのだと思う。
勘違いでなければ、照れているんだよね?
さっきまでは威厳があったんだけど、今は、普通の女の子という感じだ。
その姿は……
「かわいいですね」
「きゃわっ!?」
さらに照れた。
そんな意図はなかったんだけど……
困った。
「えっと……すみません、話を逸らしてしまいました」
「む?」
「僕は、特に抵抗するつもりはなくて……どうぞ、好きにしてください」
「ふむ」
おとなしくすると、悪魔は考えるような仕草を取る。
それから、鋭い視線をこちらに飛ばしてきた。
「お前、なぜそこまでおとなしい? 普通、抵抗するものではないか」
「そうかもしれないですけど……ただ、僕は別に、生きたいと思っているわけじゃないので。ここで死ぬのなら、死ぬだけです」
「む」
なぜか悪魔が不機嫌そうな顔に。
バカにするようなことは言っていないはずなのだけど……
なんだろう?
……まあいいや。
どうせ生贄なのだから、今更機嫌を損ねたとしても、大して意味はない。
気にせず、思ったことを話していこう。
「良いことなんて一つもなくて、悪いことしかない人生。生きる目的なんてないし、意味も見つけられていない。なら、死んでいるのと変わりないですよね?」
「……お前、なにがあった?」
「いや、大したことじゃないですよ」
「大したことあるかないかは、我が決める。いいから話してみろ」
「えっと……」
戸惑いはあるものの、逆らうつもりはないので、素直に僕の人生を語る。
お母さんが妾で、僕はその子供。
一人になって居場所がなかったこと。
虐げられてきて、最終的に生贄として厄介払いされたこと。
そんな話をしたら……
「うぅ……ぐすっ、ひっく……な、なんていうひどいことを……うううぅ」
ものすごく泣いていた。
涙と鼻水で顔をグチャグチャにして、ちょっと女性としてはアウトな顔をしている。
「そ、そんなに泣かないでください。せっかく綺麗な顔をしているのに」
「ば、ばかものぉ……このような時に、ひっく、世辞などいらぬ……ぐすっ」
「世辞じゃなくて、本気で綺麗だと思っているんですけど」
「恥ずかしいのだ……うぅ、でもでも、今はダメなのだぁ……びえええぇんっ」
本気で泣いてくれているみたいだけど……
もしかして、この悪魔、良い人なのかな?
「あっ」
場の雰囲気を壊すようで申しわけないのだけど、お腹が鳴ってしまった。
「む……ぐすっ。お前、腹が減っているのか?」
「えっと……うん。もうすぐ死ぬんだからごはんはいらないだろう、って、なにも食べていなくて」
「うぅ、そんなことをされて、平然としていられるなんて……くっ、仕方ないな。こっちへ来い」
「はい」
いよいよ食べられるのかな?
なんて思っていたら……
「ほれ、これを食べるといい」
たくさんの果物が乗せられたテーブルの前に連れて行かれた。
「……え?」
「どうした? 遠慮はいらぬぞ。全部、食べてよいぞ」
「本当に……食べていいんですか?」
生きるなんてどうでもいいと考えていたのだけど……
でも、体は現金だ。
おいしそうな果物を前にしたら、欲しい欲しい欲しいと、お腹がさらに元気よく鳴ってしまう。
「うむ、食べていいぞ」
「……いただきます!」
我慢できず、両手で食べた。
おもいきり食べた。
お腹いっぱいになるまで食べた。
「……はぁ、この満たされた感覚が幸せなのかな」
「お前、今までまともに食べていなかったのか?」
「えっと……普段の一日の食事は、泥水が一杯と、カビたパンが二つでした」
「うっ……」
「果物なんて何年ぶりだろう……こんなにおいしいなんて、すごいですね。これが幸せなんですね」
「くっ……こ、このようなことで幸せを感じるとは。なんて不憫な……うぅ、いかん。また涙が……」
「泣いていたら、美人が台無しですよ?」
「だ、だきゃらそういうきょとを言うでない!!!」
噛むほど恥ずかしいらしい。
父親は、恐ろしい悪魔だと言っていたのだけど……
ルシファルは、とてもかわいい悪魔だった。
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