11話 広がる世界
ルルと一緒におしゃべりをして。
時に、肩を寄せ合い眠り。
そんな旅をすること数日、街に辿り着いた。
「わぁ」
たぶん、規模としてはそこまで大きな街じゃないのだろう。
でも、たくさんの人がいた。
活気のある声を出していて、笑顔の人が多い。
バーンクレッド家が治める街とは大違いだ。
あっちは暗い顔をした人がたくさんいた。
「ふむ、ここは宿場街のようだな」
ルルがそうつぶやいた。
角と羽は収納自在らしく、人目につくため、今はしまってもらっている。
「宿場街?」
「なんだ、我が旦那さまはそのようなことも知らぬのか」
「ごめん……生まれてから離れの小屋でずっと暮らしていたから、世の中には疎いんです」
「うぐ」
「あ、でも、読み書きは母さんが教えてくれてから、そこはなんとかなりますよ」
「うぅ……我が悪かった。考えなしの発言だった。だから、そんな胸がぎゅーっとなるような話をあっけらかんとしないでくれ」
「え? はい」
ルルはなにを気にしているんだろう?
不思議に思うのだけど、ひとまず、彼女の言う通り、この話は終わりにした。
「宿場街というのは、旅人達が羽根を休めるところだな。主に、街と街の間にある。長旅で疲れた体を癒やすために、たくさんの宿があるのだ」
「なるほど」
「どれ。我らも宿を使うとするか。草や土のベッドばかりというのは、さすがに飽きたからな」
「僕は草や土のベッドでも、十分すぎるほどですけど……」
「……だから、そういう泣かせる話をあっけらかんとするでない」
なぜかジト目で睨まれてしまう。
「とにかく、宿に泊まるぞ。ずっと洞窟に封印されていたせいか、我も、ふかふかのベッドが恋しいのだ」
「はい、そうですね。でも、お金はあるんですか?」
「安心するのだ。旦那さまの馬鹿兄妹の財布をパクっておいた」
「……犯罪ですよ?」
「イチャモンつけられて、武器を向けられたことに対する慰謝料なのだ。問題ない!」
ルルは胸を張り、完璧な自信を表情に浮かべて、そう言い切った。
そんな姿を見ていると、彼女が正しいように思えてくる。
いや、本当は正しくないんだけどね?
でも、まあ……
「慰謝料ならいいですね」
自由に生きる。
そう決めたのだから、細かいことは気にしないことにした。
まあ、自由すぎて、本当に悪いことはしないように気をつけないといけないけど。
「ふむ……旦那さまよ。この宿なんてどうかのう?」
ルルが見つけたのは、『三日月亭』という宿だった。
一階が食事スペース、二階が宿泊スペースになっているらしい。
パッと見た感じ、とても綺麗だ。
それに賑わっている。
「うん、いいんじゃないんですか」
「よし。では、ここにするか。たのもーう!」
道場破りのような掛け声と共に、店内へ。
扉をくぐると、賑やかな声が一気にあふれてきた。
端から端までお客さんで埋まっていて、空いている席を探すのが難しいくらいだ。
「いらっしゃいませー! お食事でしょうか? ご宿泊でしょうか?」
「うむ、両方なのだが……空いておるかのう?」
「はい、二名さまなら問題ありません。部屋は一つになってしまいますが……」
「うむ、かまわん」
「かしこまりました」
え、かまわないの?
「なにを驚いた顔をしているのだ、旦那さまよ」
「えっと……同じ部屋っていうのは、いいんですか?」
「くふふ、なんだ、照れておるのか?」
「出会ったばかりなのに、同じ部屋というのはどうかと思いますよ?」
「真面目か!」
ぺこーん、と軽く叩かれた。
「ふふ、仲が良いんですね」
「うむ、そうだろうそうだろう。我と旦那さまは、ふ、ふふふ、夫婦だからな!」
「素敵ですね」
「うむ!」
「では、こちらへどうぞ」
店員さんの案内で、まずは店の奥にあるカウンターへ。
そこで部屋を取り、ひとまず一週間の契約をした。
それから手前に戻り、空いている席に座る。
「こちらメニューになります。ご注文、お決まりになりましたらお呼びください」
店員さんはにっこり笑うと、奥に消えた。
これだけ賑わっているのだから、休む間もないくらい忙しいのだろう。
「ふむ、なにを食べようかのう?」
「ところで、お金はどれくらいあるんですか?」
「大丈夫だ。金貨が山程入っていたから、詳しくは知らんが、たくさん食べても問題はあるまい」
「なるほど」
なら、遠慮なく。
ルルと一緒にメニューを見て、ちょっと食べるのが大変かな? なんて思うくらいの量を注文した。
「……」
「どうしたのだ、旦那さまよ? 変な顔をしているが」
「その……こんなにおいしそうな料理を食べるの、生まれて初めてなので……なんていうか、うれしいって思うよりも先に緊張してきました」
「くうっ、また泣かせる話を……!」
泣けるのだろうか?
「今日は我のおごりじゃ。旦那さまよ、腹いっぱいになるまで食べるがよい」
「ありがとうございます」
ルルと一緒にいると楽しいな。
できることなら、いつまでも一緒にいたいと思う。
と、その時。
「なあ、嬢ちゃん」
近くの席に座る大男が、ルルに声をかけた。
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