1話 カイルという少年
まだまだ暑いので、新作を始めてみました。
「あら? なにか臭いと思ったら、カイルじゃない。いやだわ、鼻が曲がりそうなほど臭いじゃない」
「おいおい、ドロッセル。そう言ってやるな。カイルは、所詮、半端者だからな。貧民街の臭いがついて離れないのだろうさ」
そうやって僕を笑うのは、義理の姉のドロッセルと、義理の兄のドロイドだ。
二人はきらびやかな服を着て、良い匂いがする香水をつけている。
一方の僕は、ボロ布と言う以外にないものを身につけている。
香水なんて上等なものはありえなくて、土と埃の臭いしかしない。
「……」
空が見えるボロ小屋の壁に寄りかかっていた僕は、ゆっくりと顔を上げて、ドロッセルとドロイドを見た。
「がっ!?」
瞬間、顔を思い切り蹴られた。
たまらずに悲鳴をあげて……
抵抗することはできず、そのまま倒れてしまう。
「おい、こっちを見るな。薄汚い血がうつったらどうする?」
「そうよ、ドロイドお兄さまの言う通りよ。あなたは、所詮、妾の子。薄汚い貧民の血が半分も入っているの。そんなあなたが私達を見たら、変な病気にかかってしまうかもしれないでしょう?」
「……ごめんなさい」
ものすごく理不尽なことを言われている。
でも、僕はそれに抗うことはできなくて、素直に頭を下げた。
そして……再び顔を蹴り上げられる。
「うぐっ!?」
「ごめんなさい、じゃなくて、すみませんだろう? ちっ、これだから学のない貧民出身は」
「さあ、ちゃんと間違いを正してみせなさい。どうしようもない貧民だとしても、間違いを修正する程度の頭はあるでしょう?」
「すみません……でした……」
「両手をついて頭を下げろ。それが礼儀だ」
「……すみませんでした……」
言われた通り土下座すると、頭を踏まれた。
「あうっ……!?」
「まったく。無能な者が近くにいると、本当にイライラするな」
「本当ですわ」
「なあ、ドロッセル。このまま、この無能の頭を踏み潰すというのはどうだろう?」
「あら、それは素晴らしいアイディアですわ」
「馬車でカエルが潰れる時みたいに、無様な悲鳴を上げてくれるかもしれないな。そうしたら、少しは楽しめそうだ」
「ねえ、どうかしら? カイルががんばれば、少し私達を楽しませてくれるかもしれないの。がんばれる?」
「……お二人が、そう望むのなら……」
「「あはははははっ!!!」」
二人は爆笑した。
なにが面白いのだろう?
……まあ、いいか。
蔑まれようと。
暴力を振るわれようと。
バカにされようと。
それは、いつものこと。
僕……カイル・バーンクレッドの日常だ。
今更、なにか特別に思うことはない。
どうでもいい。
「……なにもかも、どうでもいい……」
――――――――――
僕の名前は、カイル・バーンクレッド。
数百年続く、由緒正しいバーンクレッド家の一員だ。
ただ、それはあくまでも書類上のもの。
ドロイドとドロッセルを始め、他の家族は僕の存在を認めていない。
父親も僕のことを認めていない。
それはなぜか?
お母さんが妾だからだ。
お母さんは、元々、バーンクレッド家で働くメイドだったらしい。
ある日、父親に夜の相手を命じられて……
そして、僕が産まれることになった。
以来、お母さんは父親の妾になった。
でも……
僕は、お母さんが笑ったところを見たことがない。
いつも暗い顔をして、死人のような表情をしていた。
いつか消えてしまいそうで、不安で……
その嫌な予感は的中した。
お母さんは、自ら命を絶ったのだ。
正直なところ、僕はお母さんに愛されていなかったのだと思う。
ちゃんと面倒を見てもらったけど、必要最低限のことだけで、笑顔を向けてくれたことはない。
それはそうだ。
僕のせいで、お母さんは妾という、つまらない立場に囚われることになった。
僕を恨んでいても仕方ないと思う。
愛さなくても仕方ないと思う。
それでも。
僕にとって、お母さんはお母さんで……
一人になった日、僕は思い切り泣いた。
それから、僕の日常は無色になった。
罵声を浴びせられても、なにも感じない。
暴力を振るわれても、どうでもいい。
うん。
もう、どうでもいい。
なにもかもが、どうでもいい。
「僕、なんで生きているんだろう……?」
神様。
いるのなら教えてください。
僕は、なんで生きているんですか?
神様は……なにも答えてくれない。
今日は3回更新します。次は19時です。
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