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第5話『愛実とのいつもの時間』

 3月31日、木曜日。

 あおいの引っ越し作業を手伝ったから、昨日はよく眠れた。今朝はいつも以上にスッキリとした目覚めだった。

 あおいが10年ぶりに調津に戻ってきて、しかも隣の家に住み始めたんだよな。今でも夢を見ているんじゃないかと思うほどだ。舌を軽く噛むと……確かな痛みが感じられる。


「……現実なんだな」


 それが分かって、頬が緩んでいった。




「リョウ君。来たよ」

「いらっしゃい、愛実。ご希望のホットコーヒーを淹れておいたよ」

「ありがとう」

「じゃあ、さっそく観るか」

「うんっ。最終回、ずっと楽しみにしていたんだ」


 午前10時過ぎ。

 俺の家に遊びに来た愛実と一緒に、昨日の深夜に放送されたラブコメアニメの最終回を観始める。隣同士に並べたクッションに座って。

 以前から、2人とも好きなアニメが放送されると、こうして録画したものを翌日に愛実と一緒に観ることが多い。ただし、放送時間があまり遅くないアニメだとリアルタイムで一緒に観ることも。俺の家が多いけど、愛実の家で観るときもある。

 今観ているアニメはラノベが原作で、既に最後まで読んでいる。愛実もラブコメ好きなので、俺から借りて読んだ。

 原作を読んでいるから、告白してキスしてハッピーエンドになることも分かっている。それでも、こうしてアニメーションで観ると結構ドキドキするな。キャラクターが動くこと、キャストの声、音楽の力が凄いと改めて思う。

 あとは……原作ラノベを読んだときとは違い、隣に愛実がいるのもある。愛実はヒロインの女子と雰囲気が似ているし。そんな愛実をチラッと見ると……クライマックスのシーンなので見入っている様子。頬をほんのり赤くしているのがとても可愛らしかった。


「これで終わったか」

「終わったね。いいアニメ化だったよ」


 アニメが終了し、愛実はパチパチと拍手する。愛実に倣って俺も拍手。


「原作も良かったけど、アニメも最高だったな」

「そうだね。告白してからのキスシーンは凄くキュンとなったよ!」

「そのシーンは本当に良かったよな」

「だよね。とてもいいアニメだったから、終わると結構寂しいね」

「そうだな。原作ラストまでアニメ化したから、続きが制作される可能性もないだろうし」


 ただ、原作と同様に綺麗に完結した。だから、作品としてはこれで良かったのかもしれない。


「1月から毎週1話ずつ観てきたけど、いつか全13話を一気に観てみたいな」

「それ面白そうかも。一気に観ると感じ方が違うかもしれないし。そのときも一緒に観ようね」

「ああ、そうしよう」


 もし、あおいも知っている作品なら、あおいと3人で観るのも楽しそうだ。


「さてと、アニメは見終わったし……何をしようか。あおいは午前中の間には来ないし……」


 あおい曰く、家族3人で調津高校に挨拶しに行って制服を受け取ったり、市役所に行って転入届を提出したり、駅前のショッピングセンターで食料品を買い物したりするらしい。外で昼食を食べるため、家に遊びに来るのはお昼過ぎになる予定とのこと。

 そうだね……と、愛実は呟きながら、ローテーブルに置いてある愛実専用のピンクのマグカップに右手を伸ばす。もう少しでカップの取っ手に手が届こうかというところで、


「痛っ」


 愛実は声を漏らして、カップを掴むことなく、ローテーブルの上に右手を置いた。そんな愛実の表情はちょっと辛そうなもので。


「大丈夫か、愛実」

「……肩が痛くて。一昨日は単発のバイトをして、昨日はあおいちゃんの引っ越し作業を手伝ったからかな。いつもより肩凝りが酷いかも」

「そうなのか。よし、まずは肩のマッサージをするか」

「ありがとう。お願いします」


 そう言うと、愛実は俺に微笑みかけて軽く頭を下げる。

 俺は愛実の後ろに膝立ちして、両手を愛実の両肩に乗せる。その瞬間、愛実が着ている桃色の縦ニット越しに温もりが伝わってきて。


「それじゃ、マッサージ始めるぞ」

「うんっ」


 いつもより肩凝りが酷いって言っていたから、まずは普段より弱い力で揉んでいくか。そう考えて、俺は愛実の肩のマッサージを始める。


「あぁっ……」


 揉まれて気持ちいいのか。それとも、痛いのか。揉み始めた瞬間から愛実はそんな甘い声を漏らす。


「愛実、どうだ? いつもより弱めの力で揉んでいるけど」

「……気持ちいいよ。リョウ君は本当にマッサージが上手だよね」

「これまでたくさん揉んできているからな。じゃあ、とりあえずはこのくらいの強さで揉んでいくよ」

「うんっ」


 愛実が気持ちいいと思える力加減になっていて良かった。

 成長期が始まった小学校の高学年頃から、愛実は肩凝りに悩まされるようになった。愛実の胸が大きくなり始めた時期でもあるので、おそらく大きな胸が肩凝りの原因と思われる。

 母親の真衣さんにも揉んでもらうことがあるけど、本人曰く俺のマッサージの方が気持ちいいとのこと。それもあって、こうして定期的に愛実の肩のマッサージをしているのだ。また、真衣さんも肩凝りに悩んでいるので、真衣さんにも肩揉みすることもある。


「自己申告しているだけあって、いつも以上に肩凝ってるな」

「やっぱり」

「ああ。ガチガチになってる。これも、バイトと引っ越し作業の手伝いを頑張った証拠だな」

「……そうかな」


 そう言いながらも、愛実は「えへへっ」と可愛らしい笑い声。バイトと手伝いを頑張ったご褒美の意味でも、愛実には気持ち良くなってもらおう。


「話は変わるけど……昨日から何だか不思議な気分だよ」

「不思議? 昨日からってことは……あおいのことか?」

「うん。私にとって、あおいちゃんはリョウ君のアルバムやホームビデオ、思い出話に出てくる小さな女の子で。だから昨日、あおいちゃんに会ったときは『実在したんだ!』って思っちゃって。しかも、スタイルのいい美人さんに成長して」

「昨日まで、愛実はあおいと一度も会ったことがなかったし、アルバムやホームビデオに出てくるあおいは小さい頃のあおいだもんな」


 だから、あおいが実在したんだと思ってしまうことも理解できる。有名人を街で見かけたり、少し話したりした感覚に似ているのかもしれない。


「俺は……あおいと再会したのが夢なんじゃないかって思うことがあるよ。小学校に入学する直前に引っ越していってから、あおいとは一度も会わなかったし」

「そうなんだ」


 ふふっ、と愛実は可愛らしくも上品さも感じられる笑い声を出す。


「ただ、そんなあおいちゃんと出会えて、お友達になれたのが嬉しいな」

「良かったな。あおいもきっと、愛実と友達になれたのを嬉しく思っているんじゃないかな。愛実と話しているときはとても楽しそうだったし」

「そうだといいな」

「きっとそうさ。あと、幼馴染としては、10年ぶりに調津に戻ってきて、さっそく友達ができたことに安心してる」

「そっか。ただ、あおいちゃんなら、どこでもすぐにお友達をたくさん作れそうな気がする」

「……それは言えてるな」


 あおいは明るい笑顔の持ち主だし、積極的に話しかけるタイプ。しかも、整った容姿でスタイルも結構いい。きっと、調津高校に通い始めたらすぐに友達ができるんじゃないだろうか。4月の間に学校で指折りの人気の生徒になっている可能性もある。

 そういえば、幼稚園のとき、あおいは男女問わず友達が結構いたな。俺達のいた星組の中心の一人にだったっけ。

 愛実と話しながらマッサージしていたので、気付けば愛実の肩の凝りがほぐれてきていた。


「愛実。凝りがほぐれてきたけど、どうだろう」


 そう問いかけて、俺は一旦、愛実の両肩から手を離す。

 どれどれ……と愛実は両肩をゆっくりと回す。さあ、どうかな。


「……うん。痛みもないし軽くなってる。ありがとう、リョウ君」


 愛実はそうお礼を言うと、こちらに振り向いてニッコリと笑う。この笑顔を見ると、肩のマッサージをして良かったと思える。そして、次に頼まれたときもしっかりとマッサージしようと思えるのだ。だからこそ、数年ほど定期的にマッサージするのを続けてこられた。


「いえいえ。これからも肩が凝ったり、どこか筋肉痛になったりしたときは言ってくれ」

「ありがとう。これからもずっと……リョウ君にマッサージしてほしいな。……な、なんてね」


 えへへっ、と頬をほんのりと赤くしながら笑う愛実。何歳になっても俺のマッサージを受けたいと思うほどに気に入ってくれているのか。これまで何度もマッサージしている人間としてはもちろんのこと、幼馴染としても凄く嬉しい。


「マッサージしてほしいときはいつでも言ってくれよ。……じゃあ、これでマッサージは終わりだな。次は何しようか」

「……クリスのアニメを観たいな。昨日のお手伝いのとき、クリスのことで話が盛り上がったから」

「盛り上がったよな。じゃあ、クリスのアニメを観るか。ここ何年かの間に放送されたTVアニメと劇場版はBlu-rayに録画してあるよ。愛実の観たいものを観たいな」

「分かった」


 愛実は楽しそうに返事してくれた。

 テレビ台の中にあるBlu-rayケースを取り出し、クリスが録画されているBlu-rayディスクの盤面を見ていく。

 お昼頃までも時間があるため、TVアニメよりもボリュームのある劇場版を観ることに。その中でも、5年ほど前に劇場公開された恋愛要素の強い作品を観始める。ここいいよね、などと愛実と楽しく語らいながら。

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