後編『球技大会の終わり』
全ての種目の全試合が終わった後、校庭で閉会式が行なわれる。
閉会式では各種目の1位から3位まで賞状が授与される。ドッジボールとバスケットボールについては各順位のクラスの代表者1名、卓球については生徒が賞状を受け取っていく。
うちのクラスが第3位になった男子ドッジボールは、鈴木が代表者として賞状を受け取ることに。鈴木は対戦相手を何人もアウトにしたり、積極的に声かけをしてうちのクラスを盛り上げたりと大活躍だったので、彼が賞状を受け取ることにすんなりと決まった。
「続いて、男子ドッジボールです。第3位、2年2組」
「はいっ!」
うちのクラスが呼ばれると、鈴木は元気良く返事をして、校長先生から賞状を受け取った。受け取った際、鈴木は元気良く、
「ありがとうございますっ!」
とお礼を言っていた。あまりの元気の良さに笑いも起こった。
鈴木が賞状を受け取る姿を見て、今年は第3位になれたのだと改めて実感し、嬉しい気持ちになる。そう思いながら、俺は拍手した。
閉会式が終わり、俺達生徒は教室に戻った。
「みんな、頼みがあるんだ」
教室に戻ってすぐ、鈴木が俺達5人に向かってそんなことを言ってくる。俺達に何をしてほしいんだろう?
「賞状を持ったオレをスマホで撮ってほしいんだ。ドッジボールで3位になって賞状をもらえたから、美里に写真を送りたいんだ」
鈴木は嬉しそうな笑顔でそう言ってくる。
確か、鈴木は昨日、須藤さんに「球技大会頑張って」って応援のキスされたんだっけ。3位になれたし、賞状ももらえたからその写真を送りたい気持ちは分かる。それに、須藤さんもどんな結果か気になっているだろうし。
「分かった。じゃあ、俺が撮るよ」
「ありがとな、麻丘!」
鈴木は嬉しそうにお礼を言うと、自分のスマホを操作して俺に渡してくる。カメラアプリが開いており、今は画面に鈴木が映っている。
「カメラのマークが撮影ボタンだから、そこを押せば撮れるぞ」
「了解。……じゃあ、賞状を持ってそこに立ってくれ。須藤さんに見せるからいい笑顔になってー」
「おう!」
鈴木はそう返事をすると、ニカッと白い歯を見せて笑う。両手で賞状を持っているけど、右手は賞状を持ちながら器用にピースしている。これならいい写真が撮れそうだ。
「はーい。じゃあ、撮るぞ」
――カシャ。
撮影ボタンを押して、賞状を持つ鈴木を撮影した。……いい笑顔で写っているな。賞状に書かれた文字もちゃんと写っている。
「鈴木、撮れたぞ。これでいいか?」
そう言い、鈴木にスマホの画面を見せる。
「おう! これでOKだぜ! ありがとな! さっそく美里に送るぜ!」
「それがいい」
俺は鈴木にスマホを返した。
今、俺が撮った写真に写る鈴木を見たら、きっと須藤さんは喜ぶんじゃないだろうか。須藤さんの嬉しそうな笑顔が目に浮かぶよ。
「……よし、これでOKだな。あと……3位になれたし、記念に男子ドッジボールのみんなとも一緒に撮りたいぜ!」
「おっ、いいじゃないか。……男子ドッジボールに出たみんな、3位になった記念に撮影するのはどうだ?」
道本が大きめの声で教室にいる男子ドッジボールのメンバーに問いかける。
すると、男子ドッジボールのメンバーはみんな「いいぞ!」「撮ろうぜ!」と賛成した。もちろん、俺も賛成した。また、ドッジボール以外に出たクラスメイト達も「いいね」と言って。
「みんな賛成か。ありがとう」
「ありがとな!」
「じゃあ、写真を撮ろう。……黒板の前で集まって撮るのが良さそうかな。みんなどうだ?」
道本は再度、大きめの声で男子ドッジボールのメンバーに問いかける。
鈴木や俺はもちろん、ドッジボールのメンバーみんな黒板の前で撮影することに賛成した。
「OK。じゃあ、黒板の前に立って撮影しよう」
「あたしが撮影するわ、道本君」
「ありがとう、海老名」
「黒板の前で撮影しますから、『男子ドッジボール3位!』とか黒板に書くのはどうでしょうか?」
「それ良さそうだね、あおいちゃん」
「確かにそういうのを書くと、写真を見返したときに3位になった記念に撮ったって分かりやすくて良さそうだな」
俺がそう言うと、発案者のあおいは嬉しそうな笑顔になった。
「では、発案したので書きますね。愛実ちゃん、一緒に書きますか?」
「うん、書こう!」
あおいと愛実は黒板に行き、黒板の上の方に『2年2組 男子ドッジボール3位!』と大きな文字で書いた。
また、愛実とあおいが書いている間に、鈴木は須藤さんから『3位おめでとう!』とメッセージが届き、
「嬉しいぜ!」
と大喜びしていた。良かったな、鈴木。その気持ち、凄く分かるよ。
男子ドッジボールに出場したメンバーは黒板の前に立つ。賞状を持っている鈴木を真ん中にして。ちなみに、俺と道本は鈴木の両隣に立った。
海老名さんは教室の真ん中あたりに立って、自分のスマホを俺達の方に向ける。
「はい、撮るよー!」
海老名さんは大きな声でそう言った直後、
――カシャッ。
というシャッター音が聞こえた。いい感じに撮れたかな?
「うん、結構いい感じに撮れたけど、どう?」
海老名さんはそう言うと、今撮影した写真を画面に表示させて俺達に見せてくる。
画面には男子ドッジボールに出場したメンバー達が笑顔で写っている。愛実とあおいが書いた『2年2組 男子ドッジボール3位!』の文字もしっかりと写っていて。
「結構いい感じで撮れてるな」
「麻丘の言う通りだな」
「いいじゃないか、海老名!」
道本と鈴木はもちろん、他のメンバー達も「いい写真だ」と褒めていた。
「OK。じゃあ、LIMEのうちのクラスのグループに写真をアップしておくね」
海老名さんは嬉しそうな笑顔でそう言った。あとでさっそく保存しよう。
「写真撮影が終わったみたいだね。……よいしょ」
佐藤先生は両手でカゴを持った状態で教室に入ってくる。先生が持っているカゴには……紙パックの飲み物と思われるものが入っている。
よいしょ、佐藤先生は再び言って、カゴを教卓に置いた。
「あと、鈴木君。君が持っている賞状を預かるよ。額縁に入れて教室に飾るよ」
「いいっすね! 了解っす!」
鈴木は明るくそう言うと、佐藤先生に賞状を渡した。
鈴木の言うように、賞状を額縁に入れて教室に飾るのはいいなって思う。参加したクラスメイト達はもちろん、みんなの応援もあって勝ち取れた結果だと思っているし。それに、賞状を見れば今日のことを思い出せそうだから。
「では、終礼の前に……球技大会を頑張ったみんなに、先生から飲み物の差し入れだよ」
佐藤先生がそう言うと、「おおっ!」と盛り上がる。
飲み物の差し入れか。嬉しいなぁ。
佐藤先生は学校行事が終わったときに飲み物やお菓子の差し入れをしてくれる。去年の球技大会でも飲み物を差し入れしてくれたっけ。
「ラインナップはコーヒー、ストレートティー、ピーチティー、マスカットティーの4種類だよ。みんな、1人1本ずつ好きなものを取ってね。いいかい、1本ずつだよ。先生も飲みたいからね。みんなの応援をたくさんしたから喉を潤したいんだ」
笑いながら佐藤先生がそう言うと、笑いが起こりつつもクラスメイト達は『はーい!』と元気良く返事した。俺、愛実、あおいも返事した。
そういえば、体育祭が終わったときに飲み物を差し入れしてくれたときも、先生は「自分も飲みたい」みたいなことを言っていたな。
「それじゃ、決まった人から取りに来てね。ここで飲んでも、家に持ち帰ってから飲んでもいいからね」
『はーい!』
返事をしてすぐ、3分の2ほどのクラスメイト達が席から立ち上がり、教卓にあるカゴに向かっていく。その中には道本、鈴木、海老名さんの姿もある。
紅茶も好きだけど、コーヒーはもっと好きなのでコーヒーにしようかな。そう決めて、俺は席から立ち上がる。その直後に愛実とあおいも席から立ち上がる。
「リョウ君、何にする?」
「ああ。コーヒーに決めた」
「そうなんだ。リョウ君はコーヒー大好きだもんね。コーヒーかなぁって思ってた」
「そうか。愛実とあおいは何にするんだ?」
「ピーチティーだよ」
「私はマスカットティーです」
「おぉ、2人は紅茶か。……取りに行くか」
俺達はカゴが置いてある教卓に向かう。
カゴの中を見てみると、結構数は少なくなっていたものの、俺が希望するコーヒー、愛実が希望するピーチティー、あおいが希望するマスカットティーも残っていた。
俺達はそれぞれ自分が希望する飲み物を手に取って、自分の席に戻った。
俺達はさっそく飲むことに。コーヒーを一口飲むと……コーヒーの苦味がしっかりしつつも、砂糖やミルクの甘味も感じられて美味しい。
あと、去年の球技大会の後にも先生の差し入れの飲み物を飲んだけど、それよりもこのコーヒーの方が美味しいな。去年と違って今年は第3位になれたし、愛実っていう恋人ができたからかな。あと、あおいと10年ぶりに再会できて、一緒に球技大会に参加したのもあるかな。
「あぁ、コーヒー美味しい」
「ピーチティー美味しい!」
「マスカットティーも美味しいです!」
愛実とあおいは笑顔でそう言い、自分の飲み物をもう一口飲む。笑顔なので、ストローで飲む姿がとても可愛らしい。
俺ももう一口飲む。一口目よりも味わい深くて美味しく感じられた。
道本達はどうしているか見ていると……3人とも美味しそうに飲んでいる。道本はコーヒー、鈴木はストレートティー、海老名さんはピーチティーかな。
「全員取ったみたいだね。じゃあ、先生も一つ。……マスカットティーが多く残っているから、これを飲もうかな」
佐藤先生はカゴから紙パックのマスカットティーを取り出し、ストローを飲み口に挿す。一口飲むと、先生はニコッとした笑顔になり、
「甘くて美味しいねぇ」
と呟いていた。
「じゃあ、終礼をやるよ。飲みながらでいいからね。今日はみんな球技大会お疲れ様。そして、男子ドッジボールのみんなは第3位おめでとう! 先生はとても嬉しいよ!」
佐藤先生は嬉しそうな様子でそう言い、拍手を送る。それもあってか、クラスメイト達も「おめでとう」と言いながら拍手してくれる。3位決定戦が終わった後や閉会式で鈴木が賞状をもらったときも称賛の言葉や拍手を送ってもらったけど、こういうのは何度送られてもいいものだ。
「今日は普段よりも教室にいる時間は短かったから、教室の掃除はなしで」
佐藤先生がそう言うと、掃除当番のクラスメイト達が「やった!」と言っていた。
「明日は秋分の日でお休みだよ。だから、次の登校日は月曜日ね。みんな、よい3連休を過ごしてね。……コーヒーとストレートティー、マスカットティーが1本ずつ残ってるね。ほしい人は教卓の前に来て。複数人いたらジャンケンね」
その後、残っている飲み物を欲しいクラスメイト達が教卓に集まった。その中には道本と鈴木がいた。俺はコーヒーで十分なので行かなかった。
どの飲み物も希望者が複数人いたのでジャンケン大会に。ストレートティーを道本が、マスカットティーを勝ち取っていた。ドッジボールで3位になった勢いが残っていたのかな。凄い。
ジャンケン大会が終わったので、終礼が終わって放課後になった。
今日はバイトはないし、教室掃除もないので、先生からの差し入れのコーヒーを飲みながら教室でゆっくりすることに。愛実とあおいも放課後は特に用事はないのでゆっくりするとのこと。
また、道本、鈴木、海老名さんが飲み物を持ってやってきた。3人が所属している陸上部は今日は練習がないので、教室でゆっくりするという。
「今年の球技大会は去年以上に楽しかったぜ! ドッジボールは3位になったし、女バスとかクラスの応援もいっぱいできたからな!」
「充実してたよな、鈴木。ドッジボールでは去年よりもいい3位になれて嬉しかった。俺も去年以上に楽しかったなぁ」
道本が爽やかな笑顔で言うと、鈴木は「楽しかったよな!」と明るい笑顔で道本の背中をバシンと叩いた。鈴木と道本は楽しかったか。
「俺も楽しかったよ。去年は1勝もできなかったから、今年はまず1勝って思っていたら、3位まで行けたからな。愛実達やクラスの応援もできたし。今年は去年と違ってあおいもいたし。あと……おまじないとかお礼とかで、愛実と何度もキスしたし。本当に楽しかった」
俺が出場した男子ドッジボールの試合のことや、愛実達が出場した女子バスケットボールを応援したこと、愛実と勝利のおなじないやそのお礼としてキスしたことなど色々と思い出す。キスも思い出したので、頬がちょっと熱くなったのが分かった。
愛実のことを見ると……愛実もキスのことを思い出しているのか、頬がほんのりと赤くなっていた。
「私も楽しかったよ。今年は2勝できたし、リョウ君達をいっぱい応援できたし、リョウ君のかっこいいプレーを何度も見られたし、リョウ君とおまじないのキスやお礼のキスを何度もできたしね」
愛実はニッコリと笑いながらそう言った。愛実にとっても楽しい球技大会になったのはもちろん、その理由に俺が絡んでいるのも嬉しい。あと、愛実は「今年は1勝はしたい」と言っていたから、2勝できたことも嬉しく思う。
「私も楽しかったです! 愛実ちゃんや理沙ちゃん達と一緒にバスケするのが楽しかったですし、調津高校の球技大会でも勝利できましたから。それに、凉我君達のドッジボールやクラスメイト達の応援もいっぱいできましたからね!」
「あたしも楽しかったわ。去年は初戦敗退だったから、愛実やあおい達と一緒にプレーして2勝できて嬉しかった。クラスのみんなの応援もたくさんできたしね」
あおいと海老名さんは嬉しそうに言った。2人も球技大会が楽しかったか。あおいも海老名さんも勝利したいと言っていたから、2勝できたのは嬉しいよな。
「みんな楽しい球技大会になったんだね、良かったよ」
気付けば、佐藤先生が俺達のところに来ていた。先生も終礼前に手に取っていたマスカットティーを持っている。
「先生も楽しかったよ。みんなの活躍をたくさん見て、みんなのことをいっぱい応援できたからね」
佐藤先生はそう言ってニコッと笑うと、マスカットティーを飲んだ。笑顔で飲んでいるのもあって、いつもよりも幼い感じがして可愛らしい。
佐藤先生にとっても楽しい球技大会になったか。先生……大きな声で応援したり、称賛の言葉を送ったりしていたもんな。
その後は7人で佐藤先生の差し入れの飲み物を飲みながら談笑した。その中で、俺は愛実と飲み物を一口交換した。
男子ドッジボールで第3位になったり、愛実とあおいと海老名さん達が出場した女子バスケットボールなどクラスの応援をしたり、愛実とキスし合ったり。それに、去年とは違って、愛実とは恋人になったし、10年ぶりに再会したあおいもいて。だから、今年の球技大会はとても盛りだくさんで、楽しかったな。高校2年生の忘れられない思い出の一つになった。
特別編5 おわり
これにて、この特別編は終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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