中編2『球技大会-女子バスケットボール-』
男子ドッジボールの初戦が終わって少しゆっくりした後、俺達はバスケットボールの会場である体育館へと向かう。
体育館に到着すると、コートでは男女ともにバスケの試合をしている。
コートの入口側には試合結果が書き込まれたトーナメント表が貼られている。それを見に行くと、男女ともに1回戦の第3試合まで試合結果が書かれている。なので、今は第4試合が行なわれているのか。
うちのクラスの女子バスケットボールは第5試合なので、女子バスケットボールに出場する愛実、あおい、海老名さんとはここで一旦別れることに。
「愛実、あおい、海老名さん、チームメイトと一緒に頑張って」
「みんな頑張れよ」
「頑張れよ! 応援してるぜ!」
「男子ドッジボールに続いて勝利できるように、先生も応援するよ。頑張って!」
俺、道本、鈴木、佐藤先生は愛実達に向けてエールを送る。
「ありがとう、頑張るよ」
「頑張りますね!」
「頑張るわ」
愛実、あおい、海老名さんは笑顔でそう答えた。特にあおいはやる気いっぱいの様子で。勝利して3人がもっと笑顔になれるように、俺は道本達と一緒に応援しよう。……ただ、その前に俺は愛実におまじないをかけないとな。
「愛実。勝利のおまじないをかけていいか?」
「うん、お願いします」
「ああ。……頑張って、愛実」
俺は愛実の両肩にそっと手を置き、目を瞑ってキス待ちをしている愛実にキスをする。
今日は何度もキスしているけど、愛実とのキスはいいな。このキスが愛実の力になったら幸いだ。
少しして俺の方から唇を離した。すると、目の前にはニッコリとした笑顔を見せる愛実がいた。
「ありがとう、リョウ君。もっと頑張れそうだよ」
「そうか。頑張れよ」
俺は愛実の頭をポンポンと優しく叩いた。
その後、俺は愛実から水筒やタオルが入ったバッグを預かった。また、道本はあおいから、鈴木は海老名さんから荷物を預かった。
俺、道本、鈴木、佐藤先生は愛実、あおい、海老名さんにグータッチをして、2階のギャラリーへと向かう。
今も試合中だからか、ギャラリーにはそれなりに人がいる。応援の声が飛び交い、シュートが入ると盛り上がって。いい雰囲気だなぁ。
女子の試合が行なわれているコートがよく見える場所まで移動する。佐藤先生、俺、道本、鈴木の形で並び、コートを見る。
そういえば、去年も道本と鈴木と佐藤先生と一緒に、愛実と海老名さんが出場した女バスの試合を見たな。去年は道本と鈴木は違うクラスだったけど応援してくれたっけ。今と同じく休み時間に一緒にいることが多かったからな。それに、海老名さんは陸上部のマネージャーだし、道本にとっては愛実と海老名さんは同中出身でもあるから。
去年は初戦で敗退したので、今年は勝利するところを見たい。
そういったことを考えていたら、第4試合が終了した。
第4試合を戦ったクラスがコートを去ってすぐ、女子バスケットボ―ルに参加するうちのクラスの生徒達がコートに入ってきた。メンバーは愛実、あおい、海老名さんの他に渡辺旭さんと高橋奏音さんだ。渡辺さんは女子バスケ部の部員、高橋さんは吹奏楽部部員でクラスの女子の中で一番背が高い。
うちのクラスのメンバーはピンク色のゼッケンを身に付ける。愛実が5番、あおいが6番、海老名さんが7番、渡辺さんが4番、高橋さんが8番だ。
「愛実! みんな! 頑張って!」
「頑張れよ!」
「応援してるぜ! 頑張れー!」
「2年2組頑張って!」
俺達4人がエールを送ると、コートにいる愛実達5人はこちらに向けて笑顔で手を振ってきた。みんないい笑顔だ。試合前の緊張とかが少しでも取れていたら幸いだ。そう思いつつ、俺は愛実達に手を振った。
相手の2年8組の生徒達もコートに入ってきた。相手は水色のゼッケンを身に付けている。
「2年2組と2年8組、女子バスケットボールに出場するみなさんはセンターライン付近で並んでください」
ジャージ姿の女性教師がそう呼びかける。
すると、ゼッケンを身に付けた2年2組、2年8組の生徒それぞれがセンターライン付近に集まり、向かい合う形で整列した。
「これより、女子バスケットボ―ル1回戦の第5試合、2年2組対2年8組の試合を始めます」
女性教師がそう言うと、両クラスの生徒達がコートに散らばっていく。
ただし、両クラス1人ずつセンターサークルに入り、センターラインを挟んで向かい合って立っている。ジャンプボールで試合を始めるからだろう。ちなみに、うちのクラスは高橋さんだ。5人で一番背が高いので選ばれたのだろう。相手チームも背が高めの生徒だけど、高橋さんよりは低い。
「それでは、試合開始!」
――ピーッ!
女性教師はホイッスルを鳴らすと、ボールを真上へと投げた。2年2組の女子バスケットボールの初戦が始まった。2組のみんな、頑張れ!
両チームの生徒達は女性教師が投げたボールに向かってジャンプする。ジャンプボールを制したのは――。
「あおいちゃん!」
うちのクラスの高橋さんだった。
高橋さんはボールに触れると、あおいにいる方向に向かってボールを弾き飛ばした。
「了解です!」
あおいは高橋さんが弾いたボールをしっかりと掴み、相手のゴールに向かってドリブルしていく。その速度はかなり速い。さすがの運動神経だ。
スリーポイントラインの内側まで行くと、あおいはゴールに向かってシュートを放つ。
綺麗なフォームで放たれたボールは綺麗な放物線を描き、ゴールのネットに吸い込まれていった。
――ピーッ!
2対0。
2年2組が先制点を挙げた!
いきなりシュートを決めたのもあり、ギャラリーから歓声がどっと上がる。パチパチと拍手も聞こえて。
コートを見ると、シュートを決めたあおいが愛実や海老名さん達と笑顔でハイタッチを交わしている。
「あおい、凄いぞ!」
「桐山凄いな!」
「いきなり決めたな! 凄えな!」
「あおいちゃんかっこいいよ! 幸先いいね!」
俺達4人はあおいに向かってそんなことを言う。それが聞こえたのか、あおいはこちらに向いて「ありがとうございまーす!」と持ち前の明るい笑顔を見せた。
「それにしても、高橋が桐山に向けてボールを弾くとは思わなかった」
「あれは意外だったな。オレはてっきりバスケ部の渡辺に渡すかと思ってたぜ」
「ただ、渡辺さんはバスケ部だから、相手はそれを知っていて警戒するかもしれない。だから、相手の意表を突くのを狙って、あおいにボールを渡したのかもな。あおいはかなり運動神経がいいし」
「凉我君の推理は当たっている可能性は高そうだね」
佐藤先生が微笑みながらそう言う。道本と鈴木も同じ考えか「そうですね」と頷いた。
あおいが先制点を決めたことで、うちのクラスが勢いに乗れるといいな。
うちのクラスがゴールを決めたので、相手チームからプレーが再開される。エンドラインを出た相手チームのゼッケン5番の生徒が、近くにいる味方のゼッケン4番の生徒に向けてスローインする。
スローインを受けた相手チームのゼッケン4番の生徒は、うちのクラスのゴールに向けてドリブルする。ただし、バスケ部の渡辺さんがドリブルの進路を阻む。
渡辺さんを突破するのは難しいと思ったのか、相手チームのゼッケン4番の生徒は味方にパスを出す。そこを、
「もらった!」
海老名さんがパスをブロックして、相手チームのゴールに向かってドリブルをし始める。渡辺さんが目の前に立ったから、味方にパスをすると予想していたのかもしれない。去年も海老名さんは相手の攻撃を止めるプレーをしていたな。
スリーポイントライン付近までドリブルすると、海老名さんの前に相手チームの生徒達が待ち構える体勢に。このまま突破するのは難しそうか。
「理沙ちゃんっ」
愛実が海老名さんの名前を呼ぶ。自分のマークが緩くなっているためだろう。
海老名さんは愛実のことをチラッと見ると、愛実に向かってパスを送った。
愛実はパスをしっかりと受け取り、
「旭ちゃんっ」
相手チームの生徒が来る前に、近くにいる渡辺さんに素早くボールをパス。そのパスは渡辺さんにしっかりと通った。愛実……パスがとても上手だな。去年の球技大会でも、愛実はパスを受けたり、渡したりするのが安定していた。
愛実からパスされた渡辺さんは、ゴールに向かって一直線にドリブルする。
ゴールの近くまで行くと、ジャンプをしてボールを持っている右腕を伸ばし……レイアップシュートを放った。
渡辺さんから放たれたボールは、ゴールのバックボードに当たり、ネットを通っていった。
――ピーッ!
4対0。
連続してシュートを決め、うちのクラスがリードを広げた!
「うちのクラスが連続で決めたな!」
「そうだな。凄いぜ、渡辺! さすがはバスケ部だ!」
「綺麗なレイアップシュートだったね。リラックスしている感じもしたし、さすがはバスケ部員だね。凄いよ、旭ちゃん!」
「渡辺さんナイス! 愛実や海老名さんも良かったよ!」
俺達がそう言うと、渡辺さんをはじめとしたうちのクラスのメンバーはみんな俺達に向けて軽く手を挙げた。
その後も試合が進んでいく。
あおい、渡辺さんが連続でシュートを決められたことで勢いに乗ったようで、うちのクラスは安定したプレーを続ける。
あおいと渡辺さんが攻撃の中心となり、ゴールを量産する。また、海老名さんがゴールを決めることも。
愛実はシュートをすることはなかったけど、味方からのパスをしっかりと受け取り、その場の状況に応じて的確にパスをしてうちのクラスのプレーを繋げる。また、愛実のパスがアシストになることも。
高橋さんはディフェンスの方で活躍し、背の高さを生かして相手のシュートをブロックし、そこからうちのクラスの攻撃に転じることも。
安定して点数を決めるので、うちのクラスの雰囲気はとてもいい。それに、ゴールを決められても、
「ドンマイです、次行きましょう!」
「点数取られてもOKOK! 取り返せばいいんだから!」
と、あおいやバスケ部員の渡辺さん中心に明るく声かけをするから。
最初に連続してゴールを決めたので、常にリードする展開が続き、
――ピーッ!
「そこまで!」
試合終了。
得点表を見ると……18対6。うちのクラスの勝利だ! コートにいるうちのクラスのメンバー達は嬉しそうな笑顔でハイタッチを交わしていた。
審判の女性教師は両チームの生徒達をセンターラインに並ばせる。
「ただいまの試合は、18対6で2年2組の勝利です!」
女性教師が試合結果を言うと、女子の試合のコートの見ていた生徒達から拍手が起こる。うちのクラスの生徒や、うちのクラスを応援していたと思われる生徒は喜んだり、「おめでとう!」などといった祝福の言葉を掛けたりしていた。
「2組、初戦突破おめでとう! みんな頑張ったな!」
「初戦突破おめでとう! みんなおつかれ!」
「やったな女バス! おめでとうだぜ!」
「女バスも勝ったね! 先生とっても嬉しいよ!」
俺、道本、鈴木、佐藤先生もコートにいる愛実達に向かって祝福の言葉を送った。あおいも愛実も海老名さんも「勝利したい」と言っていたので、実際に勝利を掴み取れてとても嬉しいよ。
愛実達はみんな嬉しそうな笑顔でこちらに手を振って、
『ありがとう!』
と、声を揃えてお礼を言った。その様子を見て、嬉しい気持ちがより膨らんだ。
両チームの生徒達はコートを後にした。
それから程なくして、ゼッケンを脱いだ愛実とあおいと海老名さんはギャラリーにやってきた。俺、道本、鈴木、佐藤先生は3人に「おめでとう」と言ってハイタッチを交わした。
「3人とも良かったよ。愛実はパスをしっかりしていたし、あおいと海老名さんはゴールを決めたから」
「麻丘の言う通りだな。みんな良かったぞ。いい試合だった」
「みんな良かったぜ! ずっとリードしてたもんな! 凄いぜ!」
「愛実ちゃんもあおいちゃんも理沙ちゃんも良かったよ。もちろん、旭ちゃんと奏音ちゃんもね。みんな良かった。最初にあおいちゃんと旭ちゃんが連続してシュートを決めたから、それで勢いづいたように感じたよ」
俺、道本、鈴木、佐藤先生は愛実、あおい、海老名さんに向けて称賛の言葉を言う。そのことに、愛実、あおい、海老名さんは「ありがとうございます」とお礼を言った。
「みなさんの応援のおかげです! 調津高校の球技大会でも勝利ができて嬉しいです!」
「私も高校の球技大会では初勝利だから嬉しいです。みんな、応援ありがとうございます」
「応援が力になりました。あたしも高校の球技大会では初めての勝利なので嬉しいです」
あおい、愛実、海老名さんはとても嬉しそうだ。調津高校の球技大会での初勝利だもんな。俺もさっき初勝利をしたから気持ちがよく分かる。
「何本かシュートを決められて良かったです。あと、奏音ちゃんがジャンプボールを触れたら、私が受け取ると決めていたので、しっかりと受け取ってゴールを決めるところまでできて良かったです」
「あおいのいきなりのシュートで勢いづいたわよね。あたしもシュートを1本決められて良かったです。相手の攻撃をブロックできたときもありましたし」
「私はシュートはしなかったですけど、パス回しをしっかりできました」
「愛実ちゃんのパスは安定していましたよね。愛実ちゃんに安心してパスできました」
「そうね、あおい。愛実のパスが結果としてアシストになったのが何回もあったものね」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。これも、みんなが応援してくれたり、リョウ君が勝利のおまじないをかけたりしてくれたおかげだよ」
愛実はそう言うと、俺のすぐ目の前まで近づいた。
「ありがとう、リョウ君」
ニッコリとした笑顔でお礼を言うと、愛実は俺にキスをしてきた。
ついさっきまで試合をしていたから、愛実の唇はこれまでにキスしたときよりも温もりが強くて。あと、ほんのりと汗の匂いも感じられるので結構ドキッとした。
少しして、愛実の方から唇を離した。すると、目の前には嬉しそうな笑顔で俺を見つめる愛実がいた。頬を中心に顔が赤くなっていて。凄く可愛い。
「愛実ちゃん嬉しそうですね。可愛いですし、微笑ましいです」
「そうね、あおい」
「可愛いよねぇ。愛実ちゃんと凉我君のキスシーンは何度見てもいいねぇ」
「麻丘もいい笑顔になってたぜ!」
「そうだな、鈴木」
あおい達は俺と愛実のことを見ながらそんなことを言ってきた。キスのことなので気恥ずかしさはあるけど、みんないい笑顔で言ってくれるので嫌な感じはしない。
愛実も俺と同じ気持ちかもしれない。頬を中心に顔がもっと赤くなっているけど、笑みを絶やしていなかったから。
その後、愛実から預かっていた荷物を返す。すると、愛実は試合をして喉が渇いていたのか、すぐに水筒で水分補給をした。ちなみに、中身は麦茶とのこと。美味しいのか、ゴクゴクと飲んだ後に愛実は爽やかな笑顔になっていた。それがとても可愛かった。
それからも、俺達は自分達の試合に出場し、空いている時間はうちのクラスのチームやクラスメイト達を応援していった。
愛実、あおい、海老名さんが出場する女子バスケットボ―ルは2回戦も突破した。ただ、準々決勝でバスケ部の部員が複数人いる2年1組に敗退して、ベスト8という結果になった。
俺、道本、鈴木が出場する男子ドッジボールは2回戦、準々決勝を突破した。ただし、準決勝で3年5組と対戦し、2人差で惜敗。3位決定戦へと回った。
そして、決勝の前に実施された3位決定戦で3年3組と対戦し――。
「そこまで! 3年3組は……残り2人。2年2組……残り5人。よって、3位決定戦は2年2組の勝利!」
3位決定戦で勝利を収めて、第3位になることができた! ちなみに、これがうちのクラスの最高成績になった。
「よっしゃ、3位だぜ!」
「やったな!」
「勝って終われたな!」
俺は鈴木と道本と言葉を交わし合い、2人や一緒に戦ってきたクラスメイト達とハイタッチをした。
「3位におめでとう、リョウ君、道本君、鈴木君、みんな!」
「3位おめでとうございます! みなさん凄いです!」
「みんな、3位おめでとう! やったわね!」
「3位おめでとう! 担任教師として本当に嬉しいよ!」
愛実、あおい、海老名さん、佐藤先生はそんな祝福の言葉を送ってくれた。また、クラスメイト達や他クラスの友人達も「おめでとう」などと言ってくれて。とても嬉しかった。
去年は初戦敗退だったけど、今年は3位になることができた。道本や鈴木達がいたおかげなのはもちろん、愛実やあおい、海老名さん、佐藤先生達の応援、そして恋人の愛実が試合前に毎回おまじないをかけてくれたおかげだろう。
明日公開の後編でこの特別編は完結する予定です。
最後までよろしくお願いします。




