エピローグ『起きた瞬間から』
9月19日、月曜日。
とても気持ち良く目を覚ますと、薄暗い中で見覚えのある天井が見える。もう朝なんだ。
昨日寝たときと同じように、ベッドの中が温かくて、愛実の温もりや甘い匂い、体の柔らかさを感じている。特に抱きしめられている右腕は。きっと、これらのおかげで気持ち良く起きられたんだろうな。
「リョウ君、おはよう」
すぐ側から愛実の声が聞こえてきたので、愛実の方に視線を向けると……すぐ目の前に、優しい笑顔で俺のことを見ている愛実がいて。俺と目が合うと愛実はニコッと笑いかけてくれて。とても幸せな状況なので夢かと思ったけど……舌を軽く噛むと痛みを感じた。現実なんだな。
「おはよう、愛実」
「うんっ。おはよう」
朝の挨拶を交わして、俺からおはようのキスをする。
右腕を中心に愛実から温もりや柔らかさを感じるけど、愛実の唇から感じられる温もりや柔らかさは特に気持ち良くて。
数秒ほどして俺から唇を離す。すると、目の前には柔らかい笑顔で俺を見つめる愛実がいて。
「前回、夏休みの終わり頃に泊まったときは俺が先に起きたけど、今回は愛実の方が先に起きたか」
「うんっ。15分くらい前に起きたよ。リョウ君が気持ち良さそうに寝ていたから、リョウ君の寝顔を眺めてたよ。寝顔が可愛くて、頬にキスしたの」
「そうだったんだ。全然気付かなかったな」
もしかしたら、愛実が頬にキスしてくれたことも、とても気持ち良く目を覚ますことができた理由の一つかもしれない。
「起きた瞬間から、リョウ君に触れていて、匂いや温もりを感じられて。リョウ君の寝顔をすぐ近くから見られて。凄く幸せな時間だったよ」
「そっか。俺も目を覚ましたときから愛実を感じられて、愛実の顔を見られて。愛実が先に起きていたからおはようのキスもできて。朝から凄く幸せだなって思うよ」
「リョウ君も同じ気持ちで嬉しい。起きた瞬間から恋人を感じられるのがお泊まりのいいところだね」
「そうだな」
「……恋人になったんだし、17歳の1年間ではリョウ君とお泊まりをいっぱいしたいな。うちでも、リョウ君の家でも」
「俺もだ」
愛実と俺は隣同士に住んでいて、いつでも会おうと思えば会える環境だ。ただ、お泊まりでは寝る瞬間まで一緒にいられて、起きた瞬間から一緒にいられる。それがとても魅力的だから。
あと、昨日のお家デートで、愛実は17歳の1年間に「キスをいっぱいしたい」「アニメを一緒に観たい」と言ってくれたな。もしかしたら、他にも17歳の1年間で俺としたいことがまだまだあるかもしれない。恋人として、愛実が望むことをできるだけ叶えさせたいなって思う。
「ありがとう、リョウ君」
愛実はニコッと笑ってお礼を言うと、「ちゅっ」とキスしてきた。唇が触れたのは一瞬だったけど、愛実の唇の柔らかさと温もりはしっかりと感じられた。
「ただ、いつかは……リョウ君と同棲したいな。毎日、同じベッドに寝て、今日みたいに早く起きられたらリョウ君の寝顔を見られる生活を送れるようになると嬉しいなって思ってる」
「そうだな。俺もいつかは愛実と同棲したいなって思っているよ」
「そう言ってくれて嬉しい」
「……あと、同棲っていう響きがいいなって思った」
「そうだね」
ふふっ、と愛実は声に出して楽しそうに笑った。
愛実との同棲生活か。いつになるだろうか。学生の間か。それとも、社会人になってからか。いつからにせよ、同棲することになったら、愛実に俺と一緒に生活して良かったって思ってもらえるように頑張らないとな。今のように、愛実が笑顔でいられるように。
愛実はゆっくりと上体を起こして、「う~んっ」と可愛い声を伸ばしながら体を伸ばす。薄暗い中でも愛実の体が綺麗なのが分かって。見惚れる。あと、裸の愛実を見ると、昨日の夜は肌を重ねたんだって実感できて幸せな気持ちになれる。
俺も愛実のように、上体を起こして体を伸ばす。それがとても気持ちがいい。また、体を伸ばす中で部屋の中にある時計を見て、今は午前6時半過ぎだと分かった。今日は月曜日だけど祝日。なので、かなり早い目覚めだ。
「リョウ君、体は大丈夫? 昨日も激しいときがあったから」
「大丈夫だよ。特に痛いところもないし。愛実も大丈夫か? 愛実も積極的に動いたり、激しかったりしたときがあったし」
「私も大丈夫だよ」
「良かった」
「リョウ君も大丈夫で良かったよ。……シャワーを浴びに行かない? 昨日もえっちしてそのまま寝たから」
「ああ、そうしよう」
その後、俺達は浴室に行き、シャワーを浴びた。その際、髪や体を洗って。朝のこの時間だと結構涼しいので、お湯の温かさがとても気持ち良く感じられたのであった。
真衣さんと宏明さんが作ってくれた朝食を食べ終わった後は、愛実の部屋で昨晩録画したアニメを観ることに決めた。
また、愛実の提案で、俺の両親が愛実に誕生日プレゼントであげたティーパックで淹れた紅茶を飲むことに。アップルティーやピーチティーなど色々な種類があるけど、アップルティーを選んだ。晴れているけど、今は涼しいのでホットにしてもらうことに。
「リョウ君、お待たせ」
愛実はマグカップを2つ乗せたトレーを持って部屋に戻ってくる。ホットなので、愛実が部屋に戻ってきた直後から、アップルティーのいい香りがしてきて。
愛実は俺の前と、俺の隣にあるクッションの前にマグカップを置いた。
「ありがとう、愛実。いい香りだなぁ……」
「そうだね」
愛実は笑顔でそう答えると、トレーを勉強机に置いて、俺の隣にあるクッションに腰を下ろす。
「リョウ君、さっそく飲んでみようか」
「そうだな。いただきます」
「いただきまーす」
マグカップを持って、何度か息を吹きかけた後にアップルティーを一口飲む。
紅茶の優しい味とともに、りんごの甘い香りが感じられて。あと、ホットだから、アップルティーが喉を通ると温かさが全身に優しく広がっていって。その感覚がとても心地いい。
「アップルティー美味しい!」
「美味しいな。りんごの甘い香りがして」
「そうだね。アップルティーが美味しいと、他の紅茶も楽しみになってくるよ。あとで、智子さんと竜也さんにお礼のメッセージを送るよ」
「喜ぶと思うぞ。あと、温かいものもいいなって思うよ」
「そうだね。今は半袖の服を着ていて涼しいと思えるくらいの気温だけど、温かいのがいいと思えるね」
「ああ。これからは段々と温かいものを飲むことが増えていきそうだ」
「そうだろうね」
愛実はいつもの可愛い笑顔でそう答えた。そして、もう一口飲むと……愛実は「美味しいっ」と呟く。その姿も可愛い。
また、愛実は俺の方を向くとニコニコとした笑顔になる。ただし、ちょっとだけ視線が下に向いている。きっと、俺も愛実もペアネックレスを付けているからだろう。
「リョウ君、そのペアネックレスよく似合ってるよ」
「ありがとう。愛実もよく似合ってるぞ」
「ありがとう! このネックレスはいいなって思うし、リョウ君と一緒に付けているから幸せな気持ちになるよ」
「そうか。ペアネックレスをプレゼントして本当に良かったよ。気に入ってくれてありがとう」
お礼を言い、愛実の頭を優しく撫でる。それが気持ちいいのか、愛実の笑顔が柔らかいものになって。ネックレスが似合っているのもあり、愛実がとっても可愛くて。
「いえいえ。素敵なものをプレゼントしてくれてありがとう」
愛実はそう言うと、俺にキスしてきた。
ホットのアップルティーを飲んだ直後だから、いつもよりも愛実の唇は結構温かくて。アップルティーの甘い香りもして。特別感のあるキスに思えた。
数秒ほどして、愛実の方から唇を離す。俺と目が合うと、愛実は至近距離からニコッと笑いかけてくれて。そのことにドキッとした。
「じゃあ、アニメを観ようか」
「ああ、観よう」
それから、愛実と俺は昨晩放送されたアニメを観始める。
2人とも好きなアニメだし、これまでに何話も放送されているアニメなので、愛実と喋りながら見ていく。それがとても楽しくて。
これからも愛実と一緒に楽しい時間をたくさん過ごしていきたい。愛実の笑顔を見ながらそう思うのであった。
特別編4 おわり
これにて、この特別編は終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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