第2話『愛実の誕生日』
9月17日、土曜日。
午後11時50分。
今日は午前10時から午後6時までバイトがあったし、帰ってきてからは昨日の深夜に録画したアニメを観たり、漫画を読んだりしていた。なので、あっという間にこの時間になった。
愛実の17歳の誕生日まであと10分か。
俺が17歳の誕生日を迎える直前は、16歳の1年間を振り返っていた。愛実はどんなことを思って過ごしているのだろうか。そう思いながらクッションから立ち上がり、愛実の部屋の方にあるすりガラスの窓を見ると、愛実の部屋が明るくなっているのが分かった。これなら、誕生日を迎えてすぐにお祝いのメッセージを送っても大丈夫かな。
クッションに座って、スマホをいじりながら過ごす。画面の端に表示されている時刻を逐一確認しながら。
11時57分になり、俺はLIMEを開く。
俺が誕生日を迎えたとき、愛実達はグループトークに送ってくれたから、今回もグループトークにするか。
トーク一覧を見ると、夏休み中に海水浴に行った俺、愛実、あおい、道本、海老名さん、鈴木、須藤さん、佐藤先生がメンバーのグループトークがあった。お祝いのメッセージを送るなら、ここのトークがいいだろう。
海水浴メンバーのグループトーク画面を開き、
『愛実、17歳の誕生日おめでとう!』
というメッセージを作り、午前0時になるのを待つ。愛実の恋人だし、できれば一番乗りで愛実に送りたいのだ。
スマホの時刻を注視していると、
『00:00』
と表示された。その瞬間に、俺はメッセージの送信ボタンを押した。
9月18日、日曜日。
愛実の17歳の誕生日になった。
最初に俺からの祝福メッセージがトーク画面に表示された。送信時刻も『0:00』と表示され、フライング送信とならずに一安心。最初にメッセージを送ることができたかな。まあ、個別トークや他のグループトークに誰かが先にメッセージを送っている可能性も否めないが。
――ブルルッ。ブルルッ。
と、スマホが震えて、俺が送信したグループのトークの画面に、愛実への祝福メッセージが続々と送信されていく。また、俺の送ったメッセージの既読人数のカウントがどんどん上がっていく。
『愛実ちゃん、17歳の誕生日おめでとうございます!』
『愛実、17歳のお誕生日おめでとう! 17歳の1年間も素敵な1年になりますように』
『愛実さん、17歳のお誕生日おめでとう! 誕生日パーティーで、花火大会以来に会えるのを楽しみにしているわ』
『香川、誕生日おめでとう!』
『誕生日おめでとうだぜ! 香川!』
『愛実ちゃん、17歳の誕生日おめでとう。プレゼントを贈るよ』
文字だけど、愛実へのお祝いメッセージを見ると嬉しい気持ちになる。愛実の嬉しそうな笑顔が頭に思い浮かぶ。
また、俺の送信したお祝いのメッセージには『既読7』と表示される。このグループのメンバーは8人なので、愛実も見ていると分かる。きっと、愛実はあおい達からのメッセージも見ていることだろう。
『みなさん、お祝いのメッセージをありがとうございます! とてもいい17歳の幕開けになりそうです』
と、愛実からお礼のメッセージが送信された。また、
『道本君、鈴木君。インスタントコーヒーを飲みながら、スイートポテトをいただきました。とても美味しくて幸せな気持ちになったよ。ありがとう』
『樹理先生、私の好きな漫画のスタンプを送ってくれてありがとうございます! どのイラストもいいですね』
という誕生日プレゼントのお礼のメッセージと、佐藤先生が送ってくれたスタンプなのか、『ありがとう』という文字付きの女性キャラクターのスタンプが送信された。愛実……3人からもらった誕生日プレゼントを気に入っているんだな。メッセージを見ると嬉しい気持ちになるな。
あと、佐藤先生はやはりLIMEで使えるスタンプをプレゼントしたのか。教師だし、連絡先を交換している生徒への誕生日プレゼントはスタンプにしようと決めているのだろうか。
『美味いよな。香川に気に入ってもらえて良かった』
『良かったぜ!』
『気に入ってくれて嬉しいよ。その漫画、男女共に魅力的なキャラが多いよね』
誕生日プレゼントを喜んでもらえたら嬉しいよな。
明日、俺が誕生日パーティーで渡す予定の誕生日プレゼントでも、愛実が喜んでくれたら嬉しいな。
「そろそろ、愛実を誘うか」
俺の誕生日のときと同じく、愛実の誕生日でも、誕生日になった直後に部屋の窓を開けて愛実に直接「おめでとう」って言うのが恒例だから。
俺は愛実との個別トークを開き、
『愛実。部屋の窓を開けてくれないか? 直接おめでとうって言いたいんだ』
というメッセージを送った。
愛実はすぐに気付いただろう。俺が送信したメッセージにすぐに『既読』とマークが付き、
『うん、分かった!』
と返信をくれた。
スマホをローテーブルに置いて、俺は愛実の家の方にある東側の窓を開ける。
9月も後半になったのもあり、この時間帯になると涼しく感じられる。日中は晴れている日を中心にまだ暑さを感じるけど、これからの季節は日中でも涼しくて過ごしやすい気候になっていくのだろう。
――ガラガラッ。
「リョウ君、こんばんは」
俺が窓を開けてから少しして、愛実の部屋の扉が開き、愛実が姿を現した。桃色の半袖の寝間着姿がとても可愛い。俺と目が合うと、愛実はニッコリと笑って手を振ってきて。その姿もまた可愛いと思いつつ、俺も手を振った。
「こんばんは、愛実。そして、17歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう、リョウ君。さっきもおめでとうってメッセージしてくれてありがとう」
依然として、ニッコリとした笑顔で愛実はお礼を言った。
「みんなからおめでとうってメッセージをもらって、こうして窓を開けてリョウ君におめでとうって言われると、誕生日を迎えられたんだって実感できるよ」
「毎年恒例のことだもんな」
「うんっ。毎年嬉しいけど、今年は今まで以上に嬉しいよ。きっと……リョウ君と恋人として付き合い始めたからだろうね」
そう言うと、愛実はちょっと照れくさそうに笑う。今の言動がとても可愛くてキュンとなる。そして、嬉しい気持ちにもなる。
「愛実がそう言ってくれて嬉しいよ。俺もこうして直接おめでとうって言えることが今まで以上に嬉しいぞ」
「……その言葉を聞いて、より嬉しい気持ちになりました。ありがとう、リョウ君」
えへへっ、と愛実は声に出して笑った。17歳になっても、俺の恋人は本当に可愛いな。自然と頬が緩んでいく。
「もう当日になっているけど、誕生日が楽しみだよ。午前中はリョウ君の家でお家デートして、午後からはパーティーの準備をして、夜にはパーティーをしてリョウ君がお泊まりに来てくれるから」
「盛りだくさんだな。今までで最高な誕生日だって思える一日にしたいな」
「きっとなるよ。リョウ君と付き合ってから初めての誕生日だし、あおいちゃんもいるから」
愛実はいつもの柔らかい笑顔でそう言ってくれる。俺と付き合い始めたからなのはもちろんのこと、あおいがいることも理由に挙げてくれるのが嬉しい。
「そっか」
「うんっ。……じゃあ、そろそろ寝ようかな」
「俺も寝るよ。おやすみ、愛実」
「おやすみ、リョウ君」
愛実と手を振り合い、俺は窓を閉めた。その瞬間に急に眠気が襲ってきて。今日は日中ずっとバイトをしたからかな。
その後、歯を磨いたり、お手洗いを済ませたりして、俺はベッドに入った。
愛実に言ったように、今日が今まで一番の誕生日だと思ってもらえるような一日にしたい。そう思ってから程なくして、俺は眠りに落ちた。




