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第21話『お花見①-2人が作ったもの-』

 愛実の作ったものが詰められた重箱と、あおいの作った玉子焼きとハンバーグが入ったタッパー、海老名さんが買ってきたお菓子をシートの中心に置き、俺達5人はそれらを囲むようにして座る。ちなみに、座っている位置は俺から時計回りに愛実、海老名さん、道本、あおいだ。

 あおい発案で、まずは乾杯することに。なので、道本が買ってきてくれた飲み物の中から、各々の好きなものを俺が持参した使い捨てのプラスチックコップに注ぐ。ちなみに、俺はブラックコーヒーだ。


「みなさん、飲み物を準備できましたね。では、私が発案しましたので、私が乾杯の音頭を取りますね」 


 そう言うと、あおいはすっと立ち上がる。


「晴天の中、こうしてお花見を開催できて嬉しいです。あと、私事ですが、幼馴染の涼我君と再会して隣に住めること。愛実ちゃん、理沙ちゃん、道本君と出会えたことがとても嬉しいです」


 あおいは可愛い笑顔でそう言ってくれる。もしかしたら、嬉しい気持ちを伝えたくて乾杯しようと発案したのかもしれない。

 あおいの言葉もあり、愛実、海老名さん、道本はみんな柔らかい笑顔になっている。俺も頬が緩んでいるから、きっと3人のような表情になっているんだろうな。


「それでは、お花見を楽しみましょう! 乾杯!」

『かんぱーい!』


 俺達は互いに持っているプラスチックコップを軽く当てる。

 俺はコップ半分ほどブラックコーヒーを一気飲みする。ほどよく冷たく、苦味がしっかりとしていて美味しいな。あと、ここに来てから何も口にしていなかったので、喉が潤わされた。


「コーヒー美味しい。さてと、まずは何から食べようかな……」


 シートの中心に置かれている食べ物を見ていく。

 重箱は3段重ねになっており、上から1段目は筑前煮、2段目は太巻きにいなり寿司、3段目は唐揚げ、アスパラの肉巻き、タコさんウインナーなどのおかずが入っている。どれも美味しそうだ。これを全部作ったとは。料理好きであり、キッチン部所属の愛実の本気が窺える。

 重箱の横にはあおいが作った玉子焼きとハンバーグが、それぞれ別のタッパーに入っている。あおいは何とか作れるものだと自己申告していたけど、結構美味しそうに見える。所々に焦げ目があるけど、個人的にはそこに愛嬌が感じられていいなと思う。

 タッパーの横には海老名さんが買ってきてくれたお菓子が置かれている。ポテチ、マシュマロ、クッキーなどの王道のもの。


「おっ、唐揚げ美味いな!」

「太巻きも美味しいわ! さすがは愛実ね!」

「ふふっ、ありがとう」


 何を食べようか迷っていると、道本と海老名さんのそんな感想が聞こえる。2人はもちろんのこと、愛実も笑顔だ。

 どれも美味しそうだけど、まずはおかず系……あおいの作ったものから食べようかな。玉子焼きもハンバーグも大好物だし、あおいがどれだけ美味しく作ったのか気になる。

 俺は割り箸で、タッパーから玉子焼きを一切れ掴み取る。


「わ、私の作った玉子焼きから食べてくれるのですか?」

「ああ。玉子焼きは大好物だし。あおいが作った料理を食べるのは10年ぶりだからな」

「そうですか。まあ、昔はお母さんのお手伝いでしたけどね。ど、どうぞ召し上がれ」


 あおいはそう言うと俺のことをじっと見つめる。笑みもなく、緊張した面持ちで。道本と海老名さんと挨拶したときよりも緊張していそうだ。


「いただきます」


 俺はあおい特製の玉子焼きを口の中に入れる。

 口の中に入った瞬間、優しい甘味が感じられる。ふんわりとした食感で、噛んでいく度に甘味が広がっていって。焦げた部分があるので特有の香ばしさを感じるけど、甘味がしっかりとしているので美味しさに影響はない。


「うん、甘くて美味しい。ふんわりしているし。上手にできてるよ」


 素直にそんな感想を言うと、あおいはとても嬉しそうな笑顔になり、ほっと胸を撫で下ろす。


「良かったです。甘い玉子焼きが好きなのはもちろんですが、愛実ちゃんがおかずやお寿司をいっぱい作るので、甘いものもいいかなと思いまして」

「なるほどな」


 その気持ちもあって、ここまで美味しい玉子焼きが作れたのかもしれない。


「私もあおいちゃんの玉子焼き食べるね」

「あたし、玉子焼きは甘い方が好きなの」

「俺もいただくよ」


 愛実達もタッパーから玉子焼きを一切れずつ取って、口の中に入れる。その様子をあおいと一緒に見守ることに。きっと、みんなも美味しいって思うんじゃないだろうか。


「うんっ! 甘くて美味しい玉子焼きだよ、あおいちゃん!」

「美味しいわ! 甘さもちょうどいいわね」

「美味しい甘い系の玉子焼きだな」

「ありがとうございますっ!」


 愛実達もみんな高評価したのもあり、あおいはニッコリとした笑顔でお礼を言った。


「良かったな、あおい」

「はいっ! ……涼我君、ハンバーグもいかがですか?」

「もちろん食べるさ。ハンバーグも大好物だから。玉子焼きが美味しかったから、結構期待しちゃうな」

「美味しいと思ってもらえたら嬉しいです。では、私が食べさせてあげますね」

「……わ、分かった」


 愛実だけでなく、道本や海老名さんもいるからちょっと恥ずかしいけど。

 あおいは箸でタッパーからハンバーグを一つ掴み取る。ハンバーグはデミグラスソースが塗られているのか。美味しそうだ。


「はい、涼我君。あ~ん」

「あ、あーん」


 愛実達から注目される中、俺はあおいにハンバーグを食べさせてもらう。

 冷めているけど、ジューシーさを感じられるハンバーグだ。デミグラスソースとの相性がとてもいい。


「……ハンバーグも美味いな。上手になったんだな、あおい」

「何とか作れるのはハンバーグと玉子焼きだけですけどね。ありがとうございます」


 あおいは嬉しそうに言う。食べさせてもらった直後だし、至近距離で可愛い笑顔を向けられると、さすがにドキッとする。


「桐山も麻丘の幼馴染なんだなぁって実感した」

「そうね、道本君。愛実も麻丘君に一口食べさせたり、一口交換させたりするものね。昼休みのお弁当のときとか、お出かけ中の食事のときとか」

「あるある。香川だけじゃなくて桐山にもされるなんて。羨ましがる奴が多そうだ」

「ふふっ、言えてる」


 道本と海老名さんは落ち着いた笑顔でそんなコメントを言う。変なことを言われたり、からかわれたりしなくて良かったよ。これまで、2人の前で愛実に食べさせてもらったり、一口交換したりすることは何度もある。それが良かったのかもしれない。

 愛実達3人もあおい特製のハンバーグを食べる。3人の口にも合ったようで、みんな美味しいと絶賛。そのことにあおいは嬉しそうにしていた。

 さてと、愛実の作ったものも食べようかな。

 玉子焼き、ハンバーグとおかずを食べたから、まずはご飯系を食べるか。そう考え、俺は重箱からいなり寿司を取る。


「あっ、いなり寿司を取ったね。今日はお花見だから、中身はスペシャルな感じにしたよ」

「そうなのか。楽しみだ」

「私も気になりますね。愛実ちゃんの家に行ったときには、いなり寿司は既に完成していましたから」

「そうだったんだ。……じゃあ、いただきます」

「いただきますっ」


 俺とあおいはいなり寿司を半分ほど食べる。


「おっ、これは」

「ちらし寿司ですね!」


 そう、お揚げの中にちらし寿司が入っていたのだ。ちらし寿司の酸っぱさとお揚げの甘辛さがよく合っている。あと、レンコンや人参の歯ごたえが良くて。


「お花見だからちらし寿司がいいかなと思って。食べやすさも考えて、いなり寿司の形にしてみたの。普通のいなり寿司とは違うから特別な感じにもできるし」

「なるほどなぁ。確かにこれはスペシャルだ。凄く美味しいし、さすがは愛実」

「そうですね! 愛実ちゃんは本当に料理が上手ですね!」

「ふふっ、ありがとう」


 愛実は嬉しそうに言った。

 愛実の料理の腕前は凄いと再認識しつつ、俺は残り半分のいなり寿司を食べる。……うん、とても美味しい。


「ふふっ、リョウ君……頬にごはん粒がついているよ。可愛い」

「えっ、まじか」

「取ってあげるね」


 愛実は優しい笑顔でそう言うと、俺の頬に左手を伸ばす。

 唇の左側で何かが取れる感覚を微かに感じた直後、愛実は「ほら」と米粒を見せてきた。


「ありがとう」


 本当についていたんだな。

 優しい笑顔のまま、愛実は俺の頬についていた米粒を食べた。美味しいのか、ニッコリと笑って「うんっ」と可愛い声を漏らす。


「ラブコメ漫画やアニメでこういうシーンを見たことありますね。それを平然とやれるなんて。さすがは愛実ちゃんです!」


 そう言うと、あおいはワクワクとした様子で俺と愛実のことを見ている。


「10年近く一緒にいるから、こういうことは何度もあったよ。ただ、こうしてあおいちゃんに指摘されると……ちょっと照れくさいかな」


 と、愛実ははにかむ。

 こういうことは何度もあるから俺も何とも思わなかったけど、あおいに指摘されて気恥ずかしさが。コップに残っていたブラックコーヒーを一気に飲み干すと、コーヒーの冷たさが心地良く感じられた。


「ねえ、あおい。10年前に調津にいた頃の話を聞きたいわ」

「俺も興味あるな。あと、今まで住んでいたのは福岡と京都だっけ。そのときの話とかも」

「いいですよ!」


 それからは、10年前にあおいが調津にいた頃や福岡や京都に住んでいた頃のこと、俺と愛実が中学で道本と海老名さんと出会ってからのこと、お互いに好きなアニメや漫画の話などに花を咲かせながら、俺達はお花見を楽しんでいくのであった。

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