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第3話『お持ち帰りしたい。』

 席替えが終わった後はすぐに終礼となり、放課後となった。

 今日の放課後は、午後1時から午後5時まで、サリーズというチェーンの喫茶店でバイトのシフトが入っている。なので、愛実とあおいとはお店の前で別れることに。

 愛実とあおいは部活やバイトなどの用事が特にないため、一緒にお昼を食べたり、駅周辺のお店で買い物をしたりするらしい。また、夕方頃にサリーズに来てくれるとのこと。なので、それを糧に今日のバイトを頑張ろう。

 従業員用の出入口からお店に入り、休憩室でまかないのサンドウィッチとアイスコーヒーをいただき、お店のカウンターに出て今日のバイトを始めていく。

 お昼過ぎの時間帯だけど、カウンターに出た直後からほぼ休みなしで接客する。

 また、お客様の中には調津高校はもちろんのこと、母校の中学や近隣の学校の制服姿のお客様も結構いて。うちの高校のように、2学期がスタートし、お昼頃に終わった学校が多いのだろうか。昨日までの夏休み中も、部活帰りなのか制服姿や練習着姿のお客様はいた。ただ、昨日までよりもかなり多くて。こういうところからも、2学期がスタートしたのだと実感する。

 何回か休憩を挟みつつ、カウンターでの接客を中心に仕事をしていく。

 そして、午後3時半頃。


「リョウ君、お疲れ様」

「お疲れ様です、涼我君!」


 愛実とあおいが来店してくれた。2人の可愛らしい笑顔と労いの言葉のおかげで、これまでのバイトの疲れが取れていく。


「2人ともありがとう。そして、いらっしゃいませ。2人は一緒にお昼を食べたり、買い物をしたりしたんだよな」

「うん。あおいちゃんがバイトしているドニーズでお昼ご飯を食べて。その後に、調津ナルコの中を廻ったり、レモンブックスに行ったりしたよ」

「愛実ちゃんと一緒に服や雑貨を見たり、アニメイクやレモンブックスで目当てのラノベと同人誌を何冊も買えたりして楽しかったですっ!」

「楽しかったよねっ。私も漫画とラノベを買ったんだ」

「おぉ、そうか。楽しめたなら良かった」


 それを2人が笑顔で話してくれることが嬉しい。

 あと、愛実とあおいはアニメイクとレモンブックスに行ったんだ。1学期は放課後に行くことが多かったからな。店内で楽しそうにしている2人の姿が容易に思い浮かぶ。それもあり、自然と頬が緩んでいった。


「そろそろ注文しようか、あおいちゃん」

「そうですね。愛実ちゃんからどうぞ」

「分かった」

「……いらっしゃいませ。店内でのご利用ですか?」


 2人が注文するとのことなので、俺も気持ちを店員モードに切り替える。

 まずは愛実が注文するため、愛実は一歩前に出てくる。


「はい。店内で」

「店内ですね。かしこまりました。ご注文をお伺いします」

「アイスカフェラテのSサイズを一つお願いします」

「アイスカフェラテのSサイズをお一つですね。他にご注文はありますか?」

「え、えっと……」


 小さめの声でそう言うと、愛実の頬がほんのりと赤くなり、それまで俺に定まっていた視線がちらつき始める。どうしたんだ?


「ほら、愛実ちゃん。言ってみましょう」


 あおいが横から愛実にそう言う。何を企んでいるのか、あおいは面白そうな笑顔になっている。


「だ、大丈夫かな? 言っちゃって……」

「恋人なんですから大丈夫ですよっ」


 弾んだ声でそう言うあおい。いったい、愛実は何を言おうとしているのか。

 よし、と愛実は小さな声を漏らして、何やら気合いを入れた様子に。愛実は散漫としていた視線を再び俺の方に向けて、


「リョウ君を……お持ち帰りしたいです」


 俺とあおいくらいしか聞こえないような小声でそう言った。照れくさそうに言う姿や言った後にどんどん顔が赤くなっていくのが可愛らしい。

 俺をお持ち帰りしたい……か。だから、愛実はなかなかすぐには言えなかったのだろう。

 俺を持ち帰りたいと言われるとは思わなかったので結構ドキッとする。体が段々と熱くなってきた。

 あと、あおいはニコッと笑って、愛実に向かってサムズアップ。この様子からして、あおい発案でお持ち帰り注文することになったのだろう。


「いいですね、愛実ちゃん! 可愛かったですよ!」

「あ、ありがとう、あおいちゃん。……今日のバイトは5時までだって聞いていたから、バイトが終わったら一緒に帰りたくて」

「そういうことか」

「そのことを先ほど聞いたので、私が『お持ち帰りしたいと言ってみてはどうでしょうか』と提案したんです。愛実ちゃんは彼女ですし。まあ、私も告白直後に冗談で言ったことはありますが……」

「なるほどな」


 やっぱり、あおいが愛実に提案したのか。

 あおいの言う通り、あおいに告白された直後に冗談で「お持ち帰りしたいです」と注文されたことがある。だから、あおいらしいなって思えて。


「それで……どうかな、リョウ君。注文を受けてもらえますか?」


 上目遣いでそう問いかけてくる愛実。凄く可愛いな。


「もちろんいいよ。5時まで待ってもらえるなら」

「うんっ! ありがとう!」


 愛実はニコッと笑う。恋人からお持ち帰り注文されて嬉しいな。今までで受けた宇宙門の中で一番嬉しい。愛実と一緒に帰れることになったから、残りのバイトを頑張れそうだ。


「注文は以上でよろしいですか?」

「はいっ」

「400円になります」


 その後、愛実から400円ちょうど受け取り、俺は彼女が注文したSサイズのアイスカフェラテを用意した。


「お待たせしました。アイスカフェラテのSサイズになります。もう一つは……午後5時過ぎに従業員用の出入口の近くでお渡しします」

「うんっ、ありがとう」


 俺は愛実にアイスカフェラテを手渡す。


「リョウ君、バイト頑張ってね」

「ああ、ありがとう」

「あおいちゃん、テーブル席を確保しておくね」

「分かりました。ありがとうございます」


 愛実はカウンターから離れてテーブル席の方へと向かう。

 テーブル席の方を見ると……いくつか空いているな。愛実はカウンターに一番近い2人用のテーブル席を陣取った。


「ふふっ、愛実ちゃんがお持ち帰りしたいと注文するところを見られて満足です。私の読んだことのある漫画でもそういうシーンがあって」

「そうなんだ」


 あおいは漫画やラノベにあるシーンを再現したがる一面があるからな。あおいらしい。


「ご注文をお伺いします」

「タピオカミルクティーのSサイズを1つお願いします! 以上で!」


 あおいは元気良くそう注文する。あおいはタピオカドリンクが大好きだから、彼女らしい注文だ。あとは、うちのタピオカドリンクは期間限定だからなのもあるかもしれない。


「タピオカミルクティーSサイズをお一つですね。400円になります」


 その後、あおいから500円玉を受け取り、100円のお釣りを渡した。

 あおいが注文したSサイズのタピオカミルクティーを用意して、あおいに渡す。


「お待たせしました。タピオカミルクティーのSサイズになります」

「ありがとうございます! 涼我君、残りのバイトも頑張ってくださいね!」

「ああ、ありがとう。愛実と一緒にごゆっくり」

「はいっ」


 明るい笑顔で元気良く返事をすると、あおいは愛実の待っているテーブル席へと向かっていった。

 その後すぐ、2人は自分の注文したドリンクを飲む。口に合ったようで、2人ともとても可愛い笑顔になっている。店員としてとても嬉しく思う。

 それからは、たまに愛実とあおいのことを見ながら、残りのバイトをしていく。

 愛実もあおいも自分のドリンクを飲みながら楽しそうに喋っている。

 2人とも俺が好きで、告白して。2人は俺を巡った恋のライバルになって。愛実は俺の恋人になって、あおいはフラれて。それでも、2人は一緒に楽しい時間を過ごしている。それがとても嬉しかった。




 午後5時過ぎ。

 シフト通りにバイトを終えることができた。愛実からお持ち帰り注文されているので良かった。愛実とあおいがいたからあっという間に感じられたな。

 バイトの制服から学校の制服に着替える前に、愛実にバイトが終わったことを伝える。すると、愛実からすぐに返信が来て、従業員用の出入口の近くで待っているとのこと。

 普段よりも素早い動きで学校の制服へと着替える。

 休憩室にいるスタッフに挨拶して、俺は従業員用の出入口からお店の外に出る。そこには制服姿の愛実が。

 俺と目が合うと、愛実は笑顔で手を振りながら、


「リョウ君、バイトお疲れ様」


 と、労いの言葉を掛けてくれた。そのおかげで今日のバイトの疲れが取れていくよ。


「ありがとう、愛実」

「ふふっ。バイトを頑張ったリョウ君に……」


 愛実は俺の目の前まで近づいて、俺にキスしてきた。唇から感じる愛実の唇の柔らかい感触が心地良くて。カフェラテを飲んでいたのもあり、愛実の口からはコーヒーの匂いがほのかに香ってきて。

 数秒ほどして、愛実の方から唇を離す。キスをしたのもあって、愛実の笑顔がほんのりと赤らんでいて。物凄く可愛い。


「私からのバイト代です」

「……ありがとう、愛実。最高のバイト代だよ」


 愛実の頭を優しく撫でると、愛実は持ち前の柔らかな笑顔になる。

 俺の帰りを待ってくれて、バイト代としてキスしてくれて。何て可愛い彼女なんだ。俺は幸せ者だ。


「あおいちゃんは先に帰っていったよ」

「そっか」


 付き合い始めた俺達に対する気遣いもあってのことだろう。愛実に「お持ち帰りしたいと注文してみてはどうか」と提案したときから、帰りは俺達を2人きりにするつもりだったのかもしれない。


「じゃあ、注文通り……リョウ君をお持ち帰りね。一緒に帰ろう、リョウ君」

「そうだな」


 俺は愛実と手を繋いで帰路に就く。

 まだ晴れているけど、午後5時過ぎなのもあってだいぶ過ごしやすい気候になってきた。夏休み中は夕方でも蒸し暑い日はあったから、季節の進みを実感する。


「夏に比べると過ごしやすくなってきたよね」

「そうだな。これからはこの時間帯になると涼しくなってくるんだろうな。……今日はバイトがあったから、愛実と一緒に帰れるとは思わなかった。だから嬉しいよ」

「そう言ってくれて嬉しいな。待ってて良かった」

「あおいと一緒に来てくれて、お店でゆっくりしていてくれて嬉しかったよ。ありがとな」

「いえいえ」


 愛実とあおいがいたから、バイトが終わるまであっという間に感じられた。恋人や幼馴染のパワーって凄いなと思った。


「明日の放課後はバイトないから、愛実と一緒に過ごしたいな」

「うん、そうしよう! 私も明日の放課後は特に予定ないし。放課後デートしよう」

「決まりだな」

「うんっ」


 愛実はニコッと笑いながら頷いてくれる。恋人とデートの予定があるっていうのはいいな。明日から1日フルで授業が始まるけど頑張れそうな気がする。

 それからはあおいと一緒に買い物した話や、アニメイクやレモンブックスで買った漫画やラノベの話をしながら自宅に向かって歩くのであった。

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