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10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ  作者: 桜庭かなめ
第1章

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第11話『亜麻色の髪の淑女』

 あおいと愛実の姿が自然と視界に入る中、俺はバイトを続けていく。

 お客さんがカウンターにいないときにあおいと愛実の方を見ると……2人は楽しく喋っているな。2人の笑顔を直接見られると気持ちが安らぐ。

 また、美人なあおいと可愛らしい愛実が談笑しているからか、2人に視線を向けたり、チラッと見ていたりするお客様がそれなりにいる。男性はもちろんのこと、女性も結構な割合で見ていて。

 ただ、当の本人である2人は特に気にしている様子はない。お喋りが楽しいのか。それとも、俺がカウンターにいることで安心しているのか。まあ、何かあったら俺がすぐに駆けつけよう。

 そして、あおいと愛実に癒されながら接客して1時間ほど。


「やあやあやあ。お疲れ様、涼我君」


 この聞き覚えのある声。もしかして。

 お店の入口の方を見ると……調津高校に勤める女性教師・佐藤樹理(さとうじゅり)先生の姿が。セミロングの亜麻色の髪が特徴的で、メガネの似合う美人な女性だ。年齢は確か……29歳だったかな。去年「今日から20代最後の一年が始まるよ」と言っていたことがあったから。パンツスタイルの服装だから、先生の背の高さとスタイルの良さがよく分かる。

 佐藤先生は俺と愛実の高1の頃の担任の先生だ。先生からは化学基礎と生物基礎を教わった。分かりやすく教えてくれるし、生徒の面倒見もいいので人気がある。男女問わず生徒や教職員から告白されたことがあるという。

 佐藤先生と目が合うと、先生は微笑みながら俺に小さく手を振る。その状態で俺の担当するカウンターに一直線。


「いらっしゃいませ、佐藤先生」

「お疲れ様。君がシフトに入っているときに来られるとは。いい気分だよ」

「ありがとうございます」


 俺がお礼を言うと、佐藤先生は穏やかな笑顔を見せる。

 佐藤先生はサリーズの常連客で、休日に来店されることが多い。今のように、俺がバイトしているタイミングで来店すると、必ずと言っていいほどに俺の担当するカウンターにやってくる。ちなみに、先生はコーヒー系のドリンクを頼むことが多い。


「平日のこの時間に来るとは。今は春休みですし、早めにお仕事が終わったんですか?」

「いいや、違うよ。仕事が一段落したから、長めの休憩に入ったんだ。それで、ここまで足を運んだというわけさ。大好きなサリーズのコーヒーを買おうと思ってね。これも長期休暇期間中だからできることだね」

「そうですか。ここまでお仕事お疲れ様です」

「ありがとう。君のその言葉で疲れがちょっと取れたよ」

「俺も先生が来てくれて疲れが少し取れました」

「そっか」


 嬉しいね、と佐藤先生は上品な笑みを浮かべる。

 このお店から調津高校までは徒歩5分ほどの距離。長めの休憩をもらえたら足を運ぶか。あと、佐藤先生にとっては缶コーヒーやインスタントコーヒーよりも、サリーズのコーヒーを飲む方が仕事の疲れが取れやすいのかもしれない。


「今は春休みだから、学生らしき若いお客さんが多いね……おや。おやおやおや」


 そう言って、佐藤先生の視線がある方向に固定させる。その視線の先にいるのは……テーブル席に座っている愛実とあおいだ。


「愛実ちゃんが来ているんだね」

「ええ。1時間ほど前から」

「あと、あの黒髪の子は……」

「愛実の向かい側に座っている黒髪の女の子は桐山あおいといって、俺の幼馴染です。一昨日、俺の隣の家に引っ越してきまして。この4月から、2年生として調津高校に通い始めます。昨日、学校へ挨拶しに行きましたから、その際に彼女を見られましたか?」

「しっかり見たさ。何せ、その挨拶の対応をしたのが私だったからね」

「そうだったんですか」

「ああ。茶色いセーラー服が似合う綺麗な子だと思ったよ。書類に書かれていた住所を見たとき、君や愛実ちゃんが住む地域の辺りだと思っていたけど、まさか君の隣の家だとは。しかも幼馴染。両手に花じゃないか。いや、両隣に花と言った方がいいかな」


 ははっ、と声に出して朗らかに笑う佐藤先生。

 あおいも愛実もとても魅力的な女の子だ。そんな2人と幼馴染で、しかも隣に住んでいるんだから……先生が「両手に花」とか「両隣に花」と言うのも分かる。


「それにしても、愛実ちゃんと桐山さん……いいねぇ。2人には素敵な雰囲気が纏っている。可愛い系の愛実ちゃんと美人系の桐山さんが一緒にいることで、いい化学反応を起こしているねぇ。実にいい。尊い。素晴らしい。ずっと見ていたい……」


 佐藤先生は恍惚とした様子であおいと愛実のことを見つめている。

 実は佐藤先生……無類のガールズラブとボーイズラブ好きなのだ。漫画やアニメ、ラノベ、二次創作を含めた同人誌をたくさん所持している。また、三次元においては、好みの容姿の男子同士や女子同士が仲良くしている光景を見ると凄く幸せになれるらしい。


「あっ、樹理先生」


 どうやら、愛実とあおいも気付いたようだ。2人は佐藤先生に軽く頭を下げると、テーブル席からこちらにやってくる。


「こんにちは、樹理先生。お仕事の帰りですか?」

「ううん、長めの休憩を取ってここに来たんだよ、愛実ちゃん」

「そうなんですね。お仕事お疲れ様です」

「ありがとう。桐山さんも昨日ぶりだね。涼我君から話を聞いたよ。彼とは幼馴染で彼の隣の家に引っ越してきたんだってね」

「はい、そうです! 愛実ちゃんとは一昨日が初対面ですが、さっそく仲良くなりました! ところで、佐藤先生は涼我君と愛実ちゃんとはどのような関係で?」

「2人が1年の頃の担任だよ。あとは理科科目を担当していて、前年度は彼らに化学基礎と生物基礎を教えたんだ」

「そうなんですね! 昨日も挨拶しに行ったときにも思いましたが、とてもお綺麗ですね。背も高くて……」

「ありがとう。君のような綺麗な子に褒められると凄く嬉しいよ」


 大人の落ち着いた笑顔でそう言う佐藤先生。そんな先生はとても美しい。こういうことを笑顔でさらりと言えるから、男性だけじゃなくて女性からも告白されるのかも。今もあおいの頬がほんのり赤くなっているし。


「あと、2人とはオタク友達な繋がりもある。特に愛実ちゃんとはね」

「BL中心に本の貸し借りをしたり、アニメの感想を語ったりしますもんね。あと、同人イベントで、先生の欲しい同人誌をリョウ君と私で代理購入したこともありましたよね」

「その節は2人に大変お世話になりました」


 佐藤先生は愛実と俺に向かって深めに頭を下げる。

 これまでに何度か、同人イベントで先生の代理購入をしたことがある。時にはかなりの量を頼まれるけど、凄く嬉しそうにお礼を言ってくれるので断ったことはない。


「私もアニメや漫画やラノベが大好きですよ! BLも好きです。京都にいた頃は同人ショップはもちろん、京都や大阪で開催された即売会に同人誌を買いに行ったこともあります」

「おぉ、なかなかの行動力だね。桐山さん……あおいちゃんともそちら繋がりで仲良くなれそうだ」

「そうなれたら嬉しいです」


 あおいは爽やかな笑顔で言う。

 あおいも二次創作を含めて同人誌を結構持っているからな。もしかしたら、愛実や俺よりも佐藤先生とはオタク友達として仲良くなるかもしれない。


「2年生になったら、佐藤先生が担任のクラスになりたいです」

「そうだね、あおいちゃん」

「1年の頃は楽しかったからなぁ」

「嬉しい言葉だね。担任になったら、そのときはよろしく」


 そう言うと佐藤先生の口角が少し上がった。

 2年連続で佐藤先生が担任になる確率は低い。ただ、2年では化学を必ず履修する。だから、2年生になっても佐藤先生と関わる可能性は高いだろう。

 その後、あおいと佐藤先生が連絡先を交換し、あおいと愛実は自分達のいるテーブル席へと戻っていった。


「すまないね。カウンターの前で長々と話してしまって」

「いえいえ、気にしないでください。今はお客様の数も落ち着いていますから」

「それなら良かった。アイスコーヒーのSサイズを一つ。持ち帰りで。ガムシロップとミルクはいらないよ」

「かしこまりました。アイスコーヒーのSサイズをお一つですね。250円になります」

「LIMEPayで払います」


 そう言い、佐藤先生はバーコードを表示させたスマホを見せてくる。俺がバーコードリーダーでコードを読み取り、支払いが完了した。先生のようにキャッシュレス決済で支払いをするお客様も多い。

 佐藤先生が注文したアイスコーヒーのSサイズを用意し、


「お待たせしました。アイスコーヒーのSサイズになります」

「ありがとう」


 ストローと一緒に佐藤先生に渡した。大好きなコーヒーを手にしたからか、先生は「ふふっ」と可愛らしい笑い声を漏らす。


「今日のコーヒーも美味しそうだね。涼我君に接客してもらえたし、愛実ちゃんとあおいちゃんと話せたからいい休憩になったよ」

「それは良かったです。この後もお仕事頑張ってください」

「ありがとう。このコーヒーを飲みながら頑張るよ。君も残りのバイト頑張ってね」

「ありがとうございます」

「じゃあ、またね」

「はい。ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」 


 店員として佐藤先生に挨拶する。

 佐藤先生は微笑みながら俺に小さく手を振り、お店の出入口に向かって歩き始める。先生の後ろ姿はとても綺麗で、できる社会人のオーラが存分に出ていて。あおいと愛実にも手を振って、先生はお店を後にした。

 バイトが終わるまで1時間を切った。残りのバイトも頑張るぞ。

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