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10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ  作者: 桜庭かなめ
第4章

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第15話『体育祭⑤-借り物競走-』

 鈴木の出場した綱引きで全勝したこともあり、緑チームがついに1位に躍り出る。

 団体戦での勝利で勢いづいたのか、綱引き以降は1位を守ることができている。この調子の良さがラストまで続いていくといいな。


『ここで招集連絡です。借り物競走に出場する生徒のみなさんは、本部テントの横にある招集場所に来てください』


 おっ、ついに借り物競走の招集がかかったか。これが俺にとって初めて出場する種目だし、あおいや愛実達の活躍を見てきたから気合いが入る。

 あおいや愛実達から視線を浴びながら、俺はその場でゆっくりと立ち上がる。


「じゃあ、招集場所に行ってくるよ」

「頑張ってください! あっ、私……水色の水筒やタオルを持ってきていますよ。あとは塩飴も。パッケージは白です!」

「頑張ってね、リョウ君。私は桃色の水筒とタオル。あとは去年と同じお題を引くかもしれないから、猫柄のハンカチも持ってきたよ」

「あたしはオレンジの水筒に白いタオルね」

「俺の持ってる水筒は黒くて、タオルハンカチは青だな」

「オレのハンカチはゲン担ぎでチームカラーと一緒で緑色だぜ!」

「私が持っているのはスマホとハンカチくらいだねぇ。あと、身長は170cmあるし、亜麻色の髪だからね。そのときは私を連れて行くといいさ」


 それぞれが自分の持っている物やその色について教えてくれる。全て覚えていられる自信がないけど、物系のお題を引いたら真っ先にここへ来よう。


「ありがとうございます。物系のお題や、当てはまりそうな人のお題を引いたらすぐにここへ来ますね」


 俺がそう言うと、あおいや愛実達は俺に向かって笑顔で頷いてくれた。特にあおいはやる気いっぱいに見えて。物でも人でも俺に協力したいのだろう。去年は愛実のものを借りて1位を取ったから。


「じゃあ、行ってきます」


 俺は屋外用の運動シューズを履き、借り物競走に出るクラスメイト達と一緒に招集場所へ向かう。どんなお題を引くかなどと駄弁りながら。

 これまで友人を中心に応援をいっぱいしてきたけど、ようやく俺も体育祭に参加している実感が湧いてきた。1位になって、少しでも緑チームに貢献できれば何よりだ。

 招集場所に行くと、既に多くの生徒が集まっている。


「借り物競走も女子からのスタートです。名前を呼びますので、呼ばれた人はこちらに並んでください」


 実行委員の腕章を付けた男子生徒が、生徒の名前を呼んでいく。借り物競走も女子からのスタートになるのか。あと、このレースも各チーム1人ずつのレースか。

 女子の名前が全て呼ばれ、次いで男子。


「2年2組の麻丘涼我さん」

「はい」


 俺の名前が呼ばれ、委員会の生徒に従って俺は参加者の列に並ぶ。前から数えていくと……男子の中では5レース目に走るのか。

 一緒に競走する生徒達を見ると……いかにも運動系な屈強そうな生徒、文化系の細身の生徒、あくびをして眠そうな生徒か。まあ、どんなお題を引くのかが鍵だから、生徒達を見ただけで勝ちそう負けそうといった予想はできないな。

 トラックの方を見ると……前の種目が終わったのか、トラック上に長いテーブルが設置されている。そのテーブルの上には、白い箱が4つ置かれていて。去年と同じなら、あの箱の中にお題の書かれた紙が入っているのだろう。


『これから借り物競走を行います。参加するみなさんは、長いテーブルに置かれた箱からお題の紙を1枚取ってもらいます。本部テントの前にいるこちらの女子生徒のところに、お題に該当するものを持ってきたり、人を連れてきたりしてください。彼女がOKを出した順番が順位となります。会場にいるみなさんもご協力お願いします』


 本部テントの近くに、腕章を付けた女子生徒が立っている。女子生徒は両手で大きく手を振っている。

 ルールや流れは去年と同じか。とりあえずは安心だ。

 それから程なくして、借り物競走がスタートする。まずは女子から。

 エンタメ系の競技であることや、物でも人でも会場にいる人達に協力してもらうこと。判定員の女子生徒のところに行ったら、彼女がお題を読み上げてOKかダメかを言うので結構盛り上がる。特に人を連れてくるお題だと。

 中には『楽器』とか、『身長190cm以上の人』とか、会場にあるのかどうか微妙なお題もあるけど。そんなお題を引いてしまわないかどうか不安を抱きつつも、見ていて面白いのであっという間に時間が過ぎていく。

 女子のレースが終わり、男子のレースに入っていく。そのことで、俺の番がもうそろそろだと思えてきて。ちょっと緊張してきたな。

 去年は『猫柄のもの』という物系のお題だった。ただ、当てはまる人を連れてくるお題もそれなりにあるようだし、どんなお題を引くことになるやら。


「次にレースするみなさん、スタートラインの手前に立ってください」


 色々と考えていたら、あっという間に俺のレースの番になった。係の生徒の指示通り、俺はスタートラインの手前に立つ。


「涼我君! 頑張ってくださーい!」

「頑張って、リョウ君!」


 うちのクラスのレジャーシートから、あおいや愛実達が応援してくれる声が聞こえてくる。そちらの方を向くと、みんながこちらに向かって手を振ってきて。俺は彼らに大きく手を振った。

 よし、去年も1位を取ったし、今年も1位を取れるように頑張るぞ。


「位置について」


 スターターのピストルを持っている男性教師がそう言い、俺達はスタートラインに立つ。障害物競走なのでスタンディングスタートの姿勢に。さあ、いよいよ今年初の競技が始まるぞ!

 ――パァン!

 スターターピストルが鳴り響き、俺は長テーブルのところへ走っていく。

 最初に到着し、目の前にある白い箱に右手を突っ込む。女子の後にやっているけど、箱の中にはまだまだお題の紙が入っているんだな。

 箱から二つ折りになっている白い紙を取り出す。さっそく、紙を開いていると――。


『あなたの大切な人』


 ……おぉ、そういうお題もあるのか。創作の中でしか、そういうお題はないと思っていた。このお題を書いた人、きっと楽しんでいるんだろうなぁ。

 ただ、このお題……俺にはピッタリだ。お題を見た瞬間、2人の顔が頭に思い浮かんだからな。

 お題の紙を体操着のポケットに入れ、俺はうちのクラスのレジャーシートに向かって全速力で走っていく。去年の借り物競走でもレジャーシートに向かって走ったけど、こんなに速く走らなかったな。

 こちらに向かってくる俺の姿を見てか、あおいや愛実達はワクワクとした様子で俺を見ている。


「今年も来たね、リョウ君」

「私達の持っているものや、私達に該当する人がお題になったんですか!」

「ああ。あおいに愛実、俺と一緒に来てくれ」

「人物系のお題が出たんだね。分かったよ」

「分かりました、一緒に行きましょう!」

「ああ。お題を見たら、2人のことが思い浮かんだからな」

「はいっ、愛実とあおいのシューズ」


 海老名さんがあおいと愛実のシューズを持ってきて、グラウンド側に置いてくれる。さすがは陸上部のマネージャー。状況を見て、素早く物の準備をしてくれる。そんな海老名さんにあおいと愛実だけでなく、俺も「ありがとう」と言った。

 あおいと愛実がシューズを履けたのを確認し、左手であおい、右手で愛実の手を掴んで、本部テント前にいる判定員の女子生徒に向かって走り始める。その瞬間、会場が盛り上がり始めて。

 周りを見ると……他の3人はお題の人や物を探している最中のようだ。これなら1位を取れそうかな。


「涼我君……どんなお題を引いたのでしょうね」

「楽しみだね、あおいちゃん」


 あおいと愛実は楽しげな様子でそう言う。


「……あと少しで分かるよ」


 ただ、全校生徒の前で発表される。照れくさい想いをさせたらごめんな。

 屈強そうな男子生徒が何やら物を持って走り始めていたが、俺達は難なく判定員の女子生徒のところへ最初に辿り着けた。


『はい、最初の人が到着しました! 2人の女子生徒が連れてきましたが、お題は何でしょうか!』


 俺はポケットからお題が書かれた紙を取り出し、それを判定員の女子生徒に渡す。

 お題を見た判定員の女子生徒は「おぉ……」と呟き、凄く面白そうな笑顔で俺達のことを見てくる。まあ、俺の大切な人を2人連れてきたからな。……もしかして、このお題を書いたのはあなたですか?


『お題を発表します! 書かれているのは『あなたの大切な人』です!』


 判定員の女子生徒がとても元気よくそう言うため、会場が『おおおっ!』とさらに盛り上がる。借り物競走が始まってから一番の盛り上がりかもしれない。


「ほえっ、大切な人……」

「そのお題で連れてきてくれたのですか。ドキドキしますね……」


 あおいも愛実も頬を少し赤らめ、俺をチラチラと見ている。2人とも、繋いだ手から伝わってくる温もりが強くなってきていて。照れくさくなっているようだ。ごめん。


『この男子生徒は2人連れてきていますね。ちょっとお話を聞いてみましょうか。あなたにとって、こちらの女子生徒2人は?』


 そう言って、判定員の女子生徒は持っているマイクを俺に向けてくる。


『2人は10年ほどの付き合いがある幼馴染で。このお題を引いたときに、2人の顔をすぐに思い浮かびました。それほどに2人は俺にとって大切な人です』


 あおいと愛実を連れてきた理由を正直に話す。それが響いたのか、「ふーっ!」という男子達の野太い声や、「きゃあっ!」といった女子達の黄色い叫び声がたくさん聞こえてくる。

 判定員の女子生徒はニコニコとしながら俺達を見ている。


『そうなんですかぁ。そういう理由で2人連れてきたんですね。こんなイケメンに大切に想われていて羨ましいです。お題はOKですが、せっかくですから連れてきてもらったお二人にも一言もらいましょうか。まずは茶髪のあなたから』


 判定員の女子生徒はマイクを愛実の方に向ける。後ろに人を待たせているし、OKならそれでいいじゃないかと思うけど、もっと会場を盛り上げたいのだろう。


『10年間一緒にいますから、大切だと想ってここに連れてきてくれて嬉しいです。ありがとう、リョウ君』


 頬を中心に顔が赤いけど、愛実は持ち前の可愛らしい笑みを浮かべてそう話してくれる。俺の方を見てニコッと笑って。そんな愛実の反応もあり、会場はさらに盛り上がる。

 判定員の女子生徒はあおいにマイクを向ける。

 あおいはちょっと俯いていて。それもあってか、さっきまでの楽しげな笑顔が消えているように見えた。


「あおい、どうした?」

「……い、いえ、何でもありません」


 顔を上げて俺に微笑みながらそう言う。そんなあおいの顔は愛実ほどじゃないけど赤らんでいて。あおいは自分に差し出してくれているマイクに顔を向ける。


『私は引っ越しがあって彼とは10年間離れていて。そんな私のことを大切だと想ってくれること……凄く嬉しいです』


 あおいはそう言うと、俺の方を見て口角を上げた。

 全校生徒の前であおいと愛実が大切だと言って、2人の想いを聞いたから照れくささもある。だけど、2人とも俺の想いに嬉しいと言ってくれたことがとても嬉しくて。同時にほっとする思いもあって。


『幼馴染同士の絆。何だかエモいわぁ。2人ともありがとうございました!』

『ということで、このレースでは緑チームの生徒が1位となりました!』


 判定員の女子生徒と、放送委員の実況もあって、会場から多くの拍手が送られた。

 1位の旗へどうぞ、と判定員の女子生徒に言われたので、俺はあおいと愛実と一緒にレース後の生徒達が集まるところへ向かう。その際にうちのクラスのレジャーシートを見ると、道本や鈴木や海老名さんはもちろん、クラスメイトの多くが俺達に手を振っていた。佐藤先生は拍手していて。俺はあおいと愛実と一緒に彼らに手を振った。

 俺達は1位の生徒達の列に並ぶ。


「凄いお題を引いたね、リョウ君」

「ああ。でも、俺にとってはいいお題だったよ。あおい、前の学校ではこういうお題はあった?」

「人を連れてくるお題はありましたけど、『大切な人』はありませんでしたね。運動系の部活に所属する生徒とか、理系科目の先生とかそういう感じでした」

「そうだったんだ」


 まあ、そういうお題だったら該当する人も多くて連れてきやすいよな。


「2人とも、一緒に来てくれてありがとな」

「いえいえ。リョウ君が大切だと想ってくれて嬉しいよ」

「……ええ、本当に」


 愛実はニコニコ顔で、あおいは微笑んで俺のことを見つめながらそう言ってくれて。そんな2人の頭を優しく撫でると、2人は可愛らしい声で笑ってくれた。

 それからも、盛り上がった雰囲気の中で借り物競走は進んでいった。

 やがて、男子も借り物競走が終わり、俺はあおいと愛実と一緒にうちのクラスのレジャーシートに戻っていく。さっきのレースもあってか、緑チームだけでなく他のチームからも視線が集まった。

 ただいま、とレジャーシートに戻ると、道本、鈴木、海老名さん、佐藤先生が「1位おめでとう」と言って俺達にハイタッチしてきた。


「麻丘、凄いお題を引いたな」

「幼馴染だからっていう理由でも、あたし……ドキッとしちゃったわ。3人で一緒にいる場面をスマホで撮ったわ」

「理沙ちゃん、その写真送ってくれる?」

「私にもお願いしますっ!」

「ええ。麻丘君にも送るわ」

「ああ。ありがとう」


 こういうお題を引くことはなかなかないだろうし、いい思い出になるだろうから。あと、海老名さん以外にも俺達3人の写真を撮った生徒がいそうだなぁ。


「いやぁ、エモかったねぇ。あの判定員の女子生徒の言葉に深く頷いたよ」

「2人とも連れて行くのがかっこよかったぜ! 2人連れて行ってもOKだって言ってくれて良かったな!」

「ああ。もし、1人だけにしろとか言われていたら……辞退していたかもな。緑チームのみんなには悪いけど。あおいも愛実もとても大切だから、どっちがより大切なのかってすぐには決められないし」

「ははっ、そうか! 麻丘らしいぜ!」


 ポンポン、と鈴木は明るい笑顔で俺の肩を優しく叩いてくれる。

 全校生徒の前で大切な幼馴染だと言ったからだろうか。笑顔でいるあおいと愛実が今まで以上に可愛らしく見えた。

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