想い、伝えます
次の日の朝。
流星群を見に行く当日。
あの後のことは良く覚えていない。
結局、お願い事は教えたら叶わなくなっちゃうと言われ、教えてもらえなかったのは覚えているが。
何やってんの俺!好きな人の話、上の空とか!
アホなの死ぬの!?
いや、アホ過ぎて死ぬのは勘弁だ。そんな世界でも滅多に見ない死に方したら、テレビに出てしまう。
アホ過ぎて悶死とか、死んだ後にもう何回か死んでしまう位恥ずかしい。
絶対嫌だ。
等と、馬鹿なことを考えながら歩いていると、もう職場に付いてしまった。
今日という今日は、定時で上がらせてもらう。
絶対に。絶対にだ!
◇
おい、何なの?
一向に終わり見えないんだけど。
よく、ドラマとかでここぞというときに邪魔が入るとか、良く有る話だとは思っていたが...。
こんな時にそんなのはいいんだよ。
要らないんだよ!
あー!もう!
いつもの三倍増しで上司がうざったい!
やめろ!これ以上お邪魔ぷよ増やすなよ!
もう、ばよえーんしか聞こえてこないんだよこっちは!
お陰で悪態も三倍増しの俺は、いつにも増して動いていた。
其れにしても片付かない。
仕方ない。こうなったら。
昼休みにさっと食事を済ませた俺は、親友へメッセージを飛ばす。
「悪い。待ち合わせには間に合いそうにない。でも、追い付くから現地で会おう。」
そう送った矢先に返信が返って来た。そこには、ダイジョブか?という言葉と、現地の場所が記されていた。
その場所はよく知っている所で、確かに星を見るなら良い場所だ。
何も空を隠すものがない場所。精々木々が生えているぐらいの絶好の場所だ。
俺は、任せろ!と返すと、直ぐ様仕事の続きに取り掛かった。
◇
現在時刻は夕方6時。
もう少しだ。このペースだと、現地で会うことは可能だ。
やればできるじゃないか。流石、俺!偉いぞ、俺!グッショブ!
しかし、定時は過ぎてしまった。ここからは早く終わらせられたもの勝ち。頑張って早く終わらせる。そして、あの人の〈願い〉を。一緒に。星降る丘の元で。今回ばかりは、絶対に。
会いたいんだ。
あの人に。
◇
よし!おわった!
最後の打ち込みでエンターキーを高らかに押した。良いんだよ誰も居ないから恥ずかしがんな俺!
腕時計を確認する。今の時刻は8時ちょっと過ぎ。ダイジョブ、まだ予定のギリギリ範疇内だ。パソコンの電源を落とし、上着を羽織るのももどかしかった俺は、鞄をひっ掴むとそのまま出ていった。
会社を出る。見上げた夜空にはまだ星は流れていない。大丈夫。まだ間に合う。
いつもと変わらない街並み。
いつもと変わらない喧騒。
の筈なのに。
何故か今日は、眩くきらきらと輝いているかの様に、俺の瞳に映った。
急ごう。
そう思うと、自身の歩くスピードは速くなった。
自然と、駆ける。
クソ。走ってるからだろ、息が上がってるからだろ。ドキドキするのは。
そうこうしている内に、駅まで辿り着いた。もう、大変だよ。息上がったりだわ。日頃の運動不足を悔やむ。
改札を潜り、いつもと違う電車に乗る。目指すは隣町のさらに奥。
駅にして、六駅目か。
時間にして、おおよそ20分弱。
今のうちに、あいつに連絡しておこう。
取り出したスマホに、文字を打っていく。
「今電車乗った。あともう少しで着く。」
ふぅ。少しは落ち着いてきたか。
ん?いや、まだ若干ドキドキが...。
そんなことを考えていると、メッセージのお知らせが鳴った。
開いてみる。
んおぃ!
「仕事お疲れ様ぁ!皆集まって、もう現地到着だよ!気を付けて来てね!」
あの人からのメッセージであった。こいつは危ない。なんなの?ひょっとして...。
あいつに送ったはずなんだけど。
見返してみて思った。
すみません必死こいてて確認してませんでしたッ!
あ゛ーもう!送る相手間違ってんじゃん馬鹿何やってんの恥ずかしい死にたいムズムズする恥ずかしい死にたい!
悶絶してる所に更に追い討ちが重なる。またもメッセージが。
開いてみると。
「お前、送る相手間違っただろ?急ぎすぎぃー笑 皆にやにやしてるぞ(ハート)」
やめろぉぉおッ!!あああぁぁッ!!
...行きたくねぇ。畜生。
多分、俺からのメッセージ受けて、あの人が皆に言って。悪気はないんだろうけどさ。バレバレじゃんよ!昨日やり取りしてたんだろうなって!ああもう恥ずかしい死にたい可愛い許す!
どうせ向こうでも真っ赤になってんでしょ!
(次は~...次は~..,)
ん?もうそろそろか。アナウンスを聞き、ふと顔をあげ周りを見渡す。よく見ると、電車内はいつもと違う風に見えた。あのおとっつぁん風の人にも、あそこのJKにも、色々ドラマがあるんだろうな。俺でさえ、こんなにあるんだから。
そんなことを考えていたら、遂に到着した。殺風景な駅。いつのまにやら地下から出ていた電車から降りると、冷たい外気が頬を刺す。
こんなに寒かったか?いや、それより早く行かないと。足早に階段を上がろうと、上を向く。そこへ。
「あああっ!」
え?あ、やばい。
ゴッ
ドサッ!
上を見上げたとき、階段を踏み外したお婆さんが倒れて落ちてきたのだ。
危ないと思って、兎に角身体で受け止めたが...。
想像以上に痛ぇ。
「おかあさん、ダイジョブですか?」
起き上がると、お婆さんの手を取り、起こしてあげる。
「あぁ、本当にごめんなさい。あなたこそ、怪我はなかった?大丈夫??」
怪我というか。
なんか色々なところが痛いです。
「ええ、ダイジョブですよ。良かった、大事無いなら。」
そういうと、俺は先を急ぐのでと、階段を駆け上がり、お婆さんを後にする。
しかし痛い。これ、肋骨いってんじゃないの?本当に。
足も捻っていたいし。おまけに、何か顎に当たって軽くクリティカルしてるんですけど。
足下ふらつく気がする。
若干満身創痍な感じがあるが、改札を抜け腕時計をみる。9時ちょっと。まだイケる。大丈夫!
そこで、メッセージを送るため、スマホを取り出す。
...おい!
え!?画面真っ黒なんですけど!
クモの巣状どころではない。
文字通りのバキバキ状態。
俺の心はドキドキ状態。
有る意味で。
どうするの!?
連絡とれないじゃん!
回りを見回すと、公衆電話が駅の入り口に置いてあった。
よし!ナイス!これで連絡...
出来ねぇよ!
あいつの番号、忘れたよ!えーと、確か。
ここ押して、確かこっち?
こう?
プルルルルッ
プルルルルッ
ガチャッ
「はい、出張サービス○○の館です。ご指名はございますか?」
...ガチャン。
どこ掛けたの俺!
なにその怪しいお店みたいな名前!違うよ!御呼びじゃないのよ君は!
じゃぁ、この番号か?
...
ガチャッ
「もしもし?」
あれ?この声?もしかして。
「はい、マコト。」
「え!?あれ?え?!なんで公衆電話?」
やっぱりそうだ。なんで覚えてた俺。
「いや、スマホが大変で。」
「なにそれぇ。」
安心感と動揺から、意味のわからないことを口走ってしまった。でも良いか、なんか笑ってくれてるみたいだし。
「いまどこに?」
「うーん。それがね、皆とはぐれちゃって。」
「え?はぐれたって、なんで?」
「なんでって、いつの間にかいなくなってたというか...なんというか...。」
ほんと、要らんことしたな。
兎に角、行かないと。
「今そっちいくから、場所教えて。」
「うん。えと、結構開けたところで、近くに電灯があって...確か、案内板の広場ってところの筈だよ。芝生の上にいます。」
なんで敬語?
「わかった。兎に角向かうから!待ってて!」
そう言って電話を切ると、入り口を探した。程無くして見つけた俺は、近くの案内板に駆け寄り、広場を探す。
ん?
広場、三つ有るんですが。
いやいや、この中のどれかでしょ。
よく見ろ、俺。
「あ...。」
開けた場所、それに、芝生...。
案内板を見ていた俺はピンと来た。
次の瞬間には走り出していた。
三つ有るうち、1つは子供広場。遊具があるだろうし、第一子供用の場所だ。そこまで開けては居ない筈。
もう1つは、噴水広場。ここは水場の筈だから、芝生なんぞにしない筈。
そして最後は、多目的広場。案内板でも、木が生えている絵があったし、緑色の場所だった。何より、開けていた。
必死に多目的広場へ向かう。
クッソ。お腹とか足とか痛すぎ。
もうボロボロだよ。今日は踏んだり蹴ったり落ちてきたりだな。
頼む、まだ待ってくれ。流れ星。
そして...。
息も絶え絶えに辿り着いた多目的広場。
人は疎ら、というか、殆どみえない。辛うじて等間隔に設けられている明かりと、月の明かりで解るくらい。でも、少しでも奥にいくと、暗くなる。
俺は必死で探した。
辺りを見回す。
その中で。
居た。
多分、あの人だ。
明かりから少し外れたとこに、一人佇んでいた。
思わず、声を。
掛けた。
「ユウ!」
すると、振り向いた。
振り向いてくれた。
空を見上げていた顔を、此方に向けてくれた。
「ヒロ君...ヒロ君だ。」
やっと、会えた。
嬉しさの余り駆け寄る。もう、足が痛いのとか、お腹痛いのとか、どうでも良い。此のときのためだったんだから。
近付いた彼女の顔には、一筋の涙が流れていた。
慌てて、隠す様に再び空を仰ぐユウ。
「もう、遅いよ?」
「ごめん。待たせたな。」
「ホントに、遅いんだから...」
ちょうどその時。
空にも、一筋の光が走った。
「あ、見て!流れ...星...」
俺も、言葉を失った。
そこには、一筋どころではない沢山の流れ星が落ちていた。1つ、また1つと、夜空を彩りながら、無数に流れていく。
正に、いつもと全く違う非現実。
気付けば、そこには二人しかいなく、この満天の星空も、今は二人だけのものとなっていた。
と、隣で慌てて両手を握るユウ。
瞳を閉じて、懸命に願っているのだろう。
俺も、瞳を閉じて願う。
どうか...。どうか。
「「どうか」」
「ユウが」 「ヒロ君が」
「「幸せになれます様に」」
...ん?
え?なんて?
いやそれより、声に出てしもうた。
不思議そうにこちらを見つめるユウ。
「ヒロ君...今なんて?」
おずおずと、聞かれたことに答える。
「いや、ユウが..,幸せになれます様にって...。てか、ユウだって。」
そう聞き返すと、少し頬を染めながら、ユウも話し出した。
「私はね、ずっと、この願い事を祈ってたんだよ。」
「いや、いやいや、だってユウは彼氏が居たんでしょ?その人と結ばれる様にって願いじゃ...」
そこまで言って、ハッとなる。
本人から聞いたわけではないことをいってしまった。
しかし、その言葉に対する反応は違ったもので。
「えとね。違うの。それは...嘘、なんです...。」
え。まって。どういう...。
「噂だけが一人歩きする事って、有るでしょ?ご飯も、一緒に食べに行ったこと無いような人なのに、なんか噂になっちゃって...」
え、ちょっと。え??
「だから、そもそも付き合っても居ないの...」
この時、一瞬で世界は遥か彼方まで開けた様に感じた。
「だから、私の願いは、前と変わらず、ヒロ君が...。」
そう感じたら。
居ても立ってもいられなかった。
「幸せになってくっ...え?」
思わず、抱きしめた。
驚きの声をあげたユウは、しかし抵抗するようなことはせず、寧ろ、そっと手を背中に廻してくれた。自然と、自分の頬に何かが伝った。
「ごめん、突然。そのまま聞いて、ください。」
「うん。」
「俺は、ユウのことが好きです。ずっと、ずっと好きです。これからも、ずっと好きです。ユウと、もっと色んな事を一緒にしたい。良かったら...付き合ってくれませんか?」
一瞬、フラれるのではと思った。
答えまで、長かったもので。
でも、それは彼女も泣いていたからで。
一時間とも、二時間ともとれるような、でも、ほんの少しの時間を経て。
星降る丘の上で。
「勿論!...えへへ。」
二人は、抱きしめ合った。
お互いに鼓動を、重ね合わせて。
それを聞いて。
感じて。
これが、幸せだと思う。
これが幸せなら、お互いの願いは。
すると、ユウが此方をみて、満面の笑みで言ってくれた。
「願い事、やっと叶ったよ。ありがとう、ヒロ君。大好きだよ!」
~終わり~
いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけたなら嬉しい限りです。好評なら、アフターストーリー書こうと思います。それでは、またどこかで。