もう、恋なんてしない。するもんか。
ムツキです。読み切りの2話完結なのですが、どうしても書きたくて、浮気しました。笑
初の恋愛モノと言うことで、ちゃんと伝えられているか心配なのですか、最後まで読んでいただければ幸いです。それでは、お楽しみください。
いつもと変わらない仕事場。
いつもと変わらない仲間。
いつもと変わらないルーチンに。
いつもと変わらない、日常。
でも、今だけは違ったんだ。
目の前には、満点の星空が輝いていた。
その刹那の輝きは、まるで人の一生のように思えた。
いつもと違う、非日常が。
ここにはあった。
◇
その日はやけに忙しく、多忙を極めていた。
いつもより多い仕事量に、正直うんざりしていた。
入社して、もうそこそこ経つ俺は、社会という荒波に揉まれ、良い具合に擦れていた。
必然、精神的にストレスも溜まる。
大体そんなときは、仲間内で飲みに行って、騒いで。
気晴らしをして、荒んだ心のオアシスにして。
でも、なんか晴れなくて。
むしろ腫れぼったくなって。
主に胃とか。
瞼も。
心もかな。
飲んですっきりって訳には、どうやらいかないようだ。
性分なんだろう。
そんな毎日を過ごしていた。
そんな今日、突然通知を知らせる着信が鳴った。
忙しいときになんだよと、半ば面倒臭がる様にアプリを開くと、良く集まる仲間内からのメッセージだった。
「元気か?仕事忙しい?」
馬鹿。毎度言ってんだろうが。
今日も残業コースだわ。
内心でそう悪態をつきつつ。
「残業コースだよ。どうした?」
そう返すと、すぐに返信が来た。
「明後日の夜、星見に行こうぜ!」
はい?
お前の頭の中なんかに興味ないわ。
意味が解らず、思わず悪態と突っ込みが一緒に出てしまった。
とりあえず、聞き返してしまう。
「意味がわからん。」
「いいから!前からお前が気になってた人も呼んでるからさ!」
あいつ、なんて事してくれてんの!?
意味もなく焦る。
とりあえず、日時と待ち合わせ場所を聞いたけども。
明後日か...。
正直、気乗りはしなかった。
気になってた人。
多分、あのこだよな。
名前通りに、優しいこ。
背は大きくもなく小さくもなくて、長目の茶髪で。人が話すと、そのくりっとした目で、ちゃんと相手を見て聞いてくれる。
前に聞いたときは、彼氏がいるって聞いて。
玉砕する前から、玉砕してて。
見てくれも、良いわけじゃぁ無い俺は、あー、もう此のままかもなぁと、やさぐれて、そのままだったんだ。
それまでは、普通に話して、ご飯も食べたりしてた。
今となっては、それ以来連絡もしてない。彼氏がいるのに、邪魔だろと思って。
なんなんだよ。
今更。
どんな顔して会えば良いんだよ、馬鹿。阿呆。オタンコナス。
仕事のせいか、今日は悪態ばかりだな。さっさと片付けて、帰って推しの動画でもみよう。
今は癒されたい。
この時は、どうでも良くて、正直全然考えてなかった。
次の日の朝がくるまでは。
◇
ピピピピピピ...
電子音の目覚ましでいつも通り起床した俺は、昨日帰りに買っておいたおにぎりを口に咥えつつ、スマホをいじっていた。
すると、ある人から通知が来ていたことに驚く。
「え?なんで?」
昨日考えてしまっていた、例のあのこ。
名前の通り優しいこ。
その人から、メッセージが届いていたのだ。
「久し振り...だね。聞いたよ。誘われたんでしょ?私もなんどけど、来るよね?」
気まずさ純粋に100%。
どう答えよう。
「行くよ。仕事終わりだけど、多分間に合うから。」
通知が来たのは、昨日の夜中。流石に朝の忙しいときに直ぐは返ってこないだろう。
そう思い、おにぎりの続きを食べ始める。すると、直ぐにメッセージを受信したお知らせが。
え?早くない?ピッチャー返しだよ??その早さ!
危うくおにぎりを落としかけ、しかし体勢を立て直した俺は、新着メッセージを見る。
「良かったぁ。明日、楽しみだね!」
あれだ。最近周りで流行ってんだな。頭お花畑ではなく、頭お星様だらけというやつが。
どうやら俺も流行り病にかかりそうだ。
良かったで、楽しみだねと来たもんだ。普通の男子なら堕ちてるとこだ。危ない危ない。
と言いつつ、そうだね。俺も楽しみにしてるよ。と返してしまう辺り、もう重症なのかもしれない。
既に悪態もどこにいこうか迷っているところだ。
それから、いつも通りに電車に揺られ、いつもの時間に出社した俺は、変わらず仕事に追われ、どうでも良い事で上司にどやされ、ならおたく様が代わりにやればよろしいのではないですか?と心の中で悪態をつき、あっという間にお昼になった。
朝、コンビニで買ったサンドイッチとコーヒーを片手に、スマホを弄くると、やはりメッセージが届いていた。
昨日のやつからだが。
何メッセージごときに一喜一憂してんの、俺。
「明日の事だけどさ。お前の好きだったこ、別れたんだって。それもあって、明日誘ったんだよ。なんか、元気付けたいなぁってさ。」
何?イイ人なの?お前。そんなんじゃなかっただろうがよ!
もう癖になっている悪態を着きつつ、返信する。
「良いことだと思うぞ。なんなら慰めてやれよ。」
どうやら、向こうも休み時間のようで、返信はすぐに帰ってきた。
「何言ってんだよ!お前がやらずに誰がやるんだよ!おバカチン!あー、当日ワタクシ共は途中ですすすっと居なくなる予定なんで。悪しからず!」
おい、ふざけんな!何セッティングしてんだよ!バカチン!
少しイラついた俺は、既読スルーを決めて、暫しサンドイッチに舌鼓を打つことにした。
しかし、程なくして、着信を告げるメロディが流れる。
「はい、マコト。」
「お前、マコトじゃねぇだろ!古いんだよ!なんで既読スルーな訳!?」
いつもの調子の良い声で騒ぎ立てる親友に、悪態をつく。
「あ?今俺はベストプレイスにて憩いの時間を満喫中なの。解る?」
「はいはい、んで、続きなんだけどさ。」
どうでも良いのね、俺の憩いの時間は。
「話した通りなんだわ。お前、仲凄く良かったしさ。だから、今だと思うんだよ。押しまくってみようぜ?な?」
微かに苛立ちを覚えた俺は、正直に話すことにした。
「あのさ、今更俺に何しろってんだよ。もう過ぎたことだろ。あの時で俺の想いは終わってんだよ。」
そう、もう終わってんだよ。そんな気持ちは。
言葉にはならなかった気持ちが、燻って、しかし出せずにいた。
こんなの、どうしようもないだろ。
しかし、俺の考えを聞いていた筈のこいつは、それでもと食い下がる。
「良いのかよ。それで。お前は満足なのかよ。満足じゃないから、そんな気持ちになってんじゃないのかよ。」
馬鹿。痛てぇよ。その言葉が。
心に刺さりまくってんだよ。さっきから。
「とりあえず、明日来いよ。皆待ってるからな。」
そういうと、唯一無二の親友からの電話は切れた。
もう話し相手の居ないスマホを眺めて、呟いてしまう。
「なんで、今更なんだよ。」
そこから、どうしたわけか仕事が捗らず、予定より大幅に残業してしまった俺は、へとへとになりながら退社した。もう11時を過ぎている。家につく頃には推しの配信始まってんじゃねぇかと、苛立ちを隠せなかった。一掃、今日は諦めるかと思っていた矢先、メッセージのお知らせが鳴る。
気になってスマホを弄ると、あの人からのメッセージだった。
「お疲れ様ぁ!あのさ、今ってダイジョブ?」
今は電車に乗ってるから、降りたタイミングで掛けても良いか、と 返信をする。
勿論!と返ってきた。
前の時のやり取りをつい思い出し、なんとも言えない気持ちに悶絶しかかる。
端から見たら気持ち悪いことこの上ないんだろうな。
そうこうしているうちに、電車は最寄り駅に到着。
改札を潜ると、直ぐ電話をかけた。
「あー、もしもし?」
「はい、マコトぉ」
ぷっ。
思わず吹き出してしまった。
正直、何を話せば良いのか解らず、なんと声を掛ければ良いのかすら戸惑っていた。が、そんなの杞憂だった。
いつの間にか、二人で電話越しに笑い合っていた。
「あはは、なにそれ。古。」
「だって、良く言ってたじゃん?私だって、古いと思ってるんだよ?」
内心ほっとした自分がいた。
良かった。変わってない。あの頃のままだ、と。
優しくて、ユーモアがあって。
こうして、とりとめの無い話をしている時間が堪らなく楽しくて。
ほっとする。
暫く話し込んでいると、話題は明日のことに。
「ねぇ、覚えてる?前にさ、話してくれたこと。」
忘れるわけがない。この流れでいうと、流れ星の話だ。気持ちを伝えようとしたときに話したことだ。
「流れ星の話?」
すると、彼女はうん、と小さく返し、こう続けた。
「あのね、私、願い事叶わなかったの。」
自然と、息を飲んでしまった。多分聞こえてたと思う。電話越しにゴクリとか、気持ち悪っ!
気を取り直して、続きを促した。
「願い事?」
「うん。別に、流れ星に願いをかけてたわけでもなかったんだけどね。そうなればいいなぁって。でも、かなわなかったんだぁ。だから、明日はね。」
一拍置いて、彼女は言った。
「ちゃんと、流れ星に願いを込めるの。叶えて!神様ぁーって!」
またも吹き出してしまった。
「ぷはっ。それ、神頼みになってるよ。」
えーっとか、ホントだー!とか、電話越しに聞こえた。
本当に、楽しい人だな。
「その願い、俺も一緒に込めるよ。明日。」
すると、嬉しそうに。
「うん!じゃぁ、一緒にお願いしよう?」
電話越しの声だが、彼女の笑顔が脳裏に浮かんだ。
そこで。
ああ、そうか。
気付いてしまった。
俺の気持ちに。
俺はまだ。
彼女が好きだったんだ、と。