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1 目的地変更

『この列車は春月行き特急、シモツキです。止まります駅は――』


 発車して5分も経たないときに流れたアナウンス。ここで一行は間違いに気付く。


「エピック行きじゃない!」

「切符を確認して! 間違っていたら……」


 オリヴィアとパスカルは言う。

 一行は持っていた切符を確認した。それらに書かれていたのは、ウィスパード発に春月着。乗り間違いではなく、最初から切符が間違っていたようだ。


「買ったのは私だ。私もエピック行きを頼んだし確認もしてもらった。なのになぜだ……!」


 取り乱すキルスティ。意見が合わず勝手に目的地を変えられることを見越して、エピック行きを強く希望していたキルスティが切符を買った。だというのに、行き先から間違っていたではないか。

 そんな中でパスカルはある可能性に行き着いた。


「私たち、すでに誰かから攻撃されているのかもしれない。マルクトでやられたようにね」


 と、パスカルは言った。


「攻撃……直接命を奪いに来る系統じゃないが、精神に干渉してくる感じか」


 キルスティは言った。


「そう。偽りの襲撃があったから、まさかと思ったの。まだ確定したわけじゃないけど、その可能性は大いにあると思う」


 と、パスカル。


「どこかで降りてエピック行きの切符を買い直すかい?」


 エミーリアが尋ねた。


「いや、そのままでいい。春月に向かわせたということは春月に私らをはめるための何かがあると見た。相手してやろうじゃないか、私らをはめようとする連中を」


 機嫌が悪いのか、キルスティはえらく殺意を剥き出しにしている。剥き出しの殺意とその口調はパスカルを不安にさせた。が、キルスティに便乗する者もいた。


「ああ、俺も確かめたいことがある。春月、人をはめる、と聞いて思い当たるやつがいるんだ。そいつがカナリス・ルートだとはわからないがもしそうなら俺もそいつを殺したい。いや、そうじゃなくても殺したい」


 便乗したのは晃真。彼もまたキルスティのように感情を見せていた。さらに晃真は続けた。


「そいつの名前は八幡昴。俺の兄だ。恨まれる職業につけたと昴本人から聞いたことがあって、あの建物で名前と写真を見つけてもしやと思っている」


「じゃ、ターゲット変更しちゃうか!」


 と、キルスティ。するとパスカルが口を挟む。


「春月に行くなら友人の協力を得られるかもしれない」


 パスカルは鞄のポケットから携帯端末を取り出し、時間を見てから電話をかけた。


『パスカルからか。オリヴィアに何かあったのか?』


「少しはね。とはいえ、まだかかりそう。じゃなくて、本題は協力を仰ぎたいってこと。春月に私たちのター……敵がいてね。春月についての情報提供と、八幡昴についての調査をお願いしたいの」


 と、パスカル。


『あんたの頼みなら断れないな。八幡昴か……ああ、調べておくよ。春月は平和そうでもきな臭い土地だ。いいか? 見えるものだけを信じるな』


「わかってる。ちょうど私たちも見えないものにはめられたかもしれない。春月で会いましょ」


『そうだな。会えるのを楽しみにしている』


 軽く会話と情報交換をして電話が切れる。


「さて、協力は得られた。今はクヨクヨ考えるときじゃない。何か美味しいものでも食べてゆっくりしましょ」


 パスカルは言った。


「でも車内販売はこの前ひどい目にあったから」


 と、オリヴィア。彼女の言葉にキルスティ、晃真、エミーリアが「うんうん」と頷く。


「炸裂弾の暴発を装うから平気だよ。実害がなければ見逃してもらえるし、レムリア鉄道はイデアでのイタズラ対策に炸裂弾の持ち込みは許可されているから」


 パスカルは言った。

 これなら安心だ、と一行は車内販売で思い思いのものを購入する。そのときには車内の一角で白い光が炸裂した。




 木造建築の家の中。和装の男――八幡昴はモニターを前に、にやりと笑った。


「へへへ……うまくいったぜ。やっぱりはめるなら俺とエレインだな」


『ああ、よくやった。この調子でレムリア一周旅行に興じる連中を叩き潰してやれ』


「わかってるよ、会長。俺は今までカナリス・ルートに手を出した連中を……えーと、何人だ? リュカ、覚えてるか?」


 と、昴。すると、モニターに映った、列車の中にいる女――の姿をした青年は。


『この前66人目だったよね? 昴ってば、すぐ忘れるんだから』


 青年リュカは言った。絹のような髪は空調の風でわずかになびいている。その髪の上には白のキャスケット。一目見れば誰もが絶世の美女だと思うだろう。


「あー、そうだった。ま、とにかく俺は計画通りいってるな。誰だろうが切り捨ててやる」


 昴は答えた。


『フフ、相変わらずだ。ボクも一回そっちに寄るから盗聴の恐れがあることはそこで話すよ。もう2人もやられたんだ』


 と、リュカは言った。あまりにも慎重な判断だがリュカの言うことには説得力がある。彼もエレインと同じくカナリス・ルートの頭脳を担っている。それに加えてこの状況。欠員を埋める新入りがいるとはいえ、短期間であのモーゼスがやられ、麗華とは連絡が取れないのだ。


『頼んだわ、昴にリュカ。麗華のことも聞き出して』


 そう言ったのはエレイン。彼女も何かしら考えているようだった。



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