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20 偽装と茶番

 正面玄関でパスカルは敵を無力化する。これまで善人であろうとしていた彼女が、単独で何人もなぎ倒す。そうしているうちに大将が現れた。眼鏡をかけた女、ロムだ。


「久しぶりね、パスカル。善人ぶるのは楽しかったかしら?」


 ロムのその口調は心の底からパスカルを馬鹿にしているようだった。


「ならば私からも言うよ。悪人ぶるのは楽しかった? 人を洗脳して、嘘もついて」


 パスカルは言った。本当は今すぐ斧でその頭を叩き割ってやりたい。パスカルはそんな思いを抑え込んでロムと対峙する。


「何が空くかは私が決めるわ。この空間の主導権はこの私が握っているようにね」


 ロムがそう言った瞬間、重力の方向が変わる。下から右へ。ロビーに置かれていた備品や倒れた者たちが重力の方向へと叩きつけられ。ロムはそれらを踏み台にして移動する。移動しながらサバイバルナイフを抜いた。


「……本当に人の心がないのね」


 パスカルは呟いた。そんな彼女も重力の変化には対応している。備品だけを伝って移動し、ロムに攻撃を繰り出す。


「ふん、無駄よ! 保護だけしていたあんたとはもう書くが違うの!」


 斧の一撃をロムがサバイバルナイフで受け止めて振り払う。そのタイミングでロムはさらに上へ。ここでロムは炸裂弾を放つ。光が広がり、展開していたイデアがかき消された。


「え……」


 パスカルは声を漏らす。


 ――こんな使い方をするの!? 自分のイデアまで消えるのに!?


 困惑して隙ができる。


「だから格が違うって言っているの」


 その隙をついてロムが斬り込んだ。パスカルは攻撃を防ぎ、あることに気づく。軽いのだ。何もかもが。


「……ロムじゃないでしょう。あの頃と違う、格が違うとは言っても何か根本的なところで違う」


 パスカルは言った。


「そもそもロムの能力がここまで低い精度だとは思えない。貴女、誰なの」


「……っ! そういえばエレインは……」


 ロムは焦り、能力を発動させた。


「後で話そうと思ってたけど、貴女はロムじゃない。私の前で彼女の姿を取らないで」


 ロムではないとわかってからパスカルは冷酷な刃を突き付けた。




 ここはマルクト支部の裏門。アポロを抑えつけたエミーリアの前にある人物が現れる。


「まだそんな茶番に興じているのかな?」


 風になびく蒼色の髪。それだけでエミーリアは現れた人物が誰なのかを悟る。アナベルだ。


「茶番だって? 私らは襲撃されたから対処するまでだ。違うかい?」


 と、エミーリア。


「いや、正しいよ。対応は正しいけど、偽装された相手とやり合うのが茶番って話だね」


 アナベルはそう言ってアポロの姿をした人物に近づき。


「手ごたえの欠片もなさそうだ。ランク付けするにも値しない。本物の君ならいずれ私も殺そうと思うんだけど……」


 アナベルがそう言うと、その人物の首が胴体から取れた。


「なるほどね。どうりで不器用な相手だと思ったよ。で、この件に関してだけど、どこまで偽装されている?」


 エミーリアは尋ねた。するとアナベルは少し考える様子を見せる。


「ここは確実なんだけど、他はなんともね。私以外には千春が気づいているんじゃないかな。恐らく彼、今は臓器売買をしている連中を潰しに行っているはずだよ」


 アナベルは答えた。


「あの千春がねえ。疑ってかかる癖があるからその延長かもしれないが。それで、私は行った方がいいかい?」


「その必要はないよ。千春はマルクト支部の主力。力のジダンと言うなら千春は技の千春ってところだ」


 このときのアナベルは何か企んでいるようにも新たな獲物を見つけたようにも見えた。そんな彼女に対し、エミーリアはとやかく言おうとはしなかった。どうせアナベルは嘘ではぐらかす。接点はさほど多くなかったが、その点はわかりやすい。


「まあ、真に手を出すべきは……」


 と言いかけてアナベルは言葉を区切り。何かを思い出したかのようにその場を後にした。




 場所はマルクト区の東部に移る。臓器売買勢力の本拠地周りは死屍累々だった。その中央には千春が立っている。千春は鍔のない刀についた血をハンカチで拭う。それだけで千春がこの惨状の原因だと言っているようなものだった。


「手ごたえもないな。全く、誰が魔境だと言ったのやら」


 千春はそう吐き捨てて本拠に侵入する。2階までよじ登り、窓から中に入り込む。人の気配がないことを確認し、目標とする人物の居場所へと向かう。遭遇戦を覚悟していたが、以外にも内部にはまともに人がおらず。


 ――俺がいたときにはそう思わなかったが……やつらはこの程度の組織だったのか。


 拍子抜けだった。かつて強引に所属させられ、恐れていた組織がこの程度だったとは。だが、千春はまだ嵌められている可能性を捨てきれずにいた。

 建物内を、記憶を頼りに進み、ボスがいるであろう場所を回っていたら――目標の人物を発見した。壊れた壁、抜けた床――1階からすれば抜けた天井のある部屋だ。その部屋にいる丸いサングラスをかけた男こそが目的の人物。臓器売買組織のボスだ。


 ――明枝昇。10年前はよくも俺をだまして搾取してくれたな。そうやって今度はマルクト支部をはめる気か。許すもんか。


 千春は昇を見つめてイデアを展開する。昇はイデア使いの気配にこそ気づいていたが――


 ――やつは俺の能力を知らない。奇跡を描く力で、その首を落としてやる。


 千春は穴から飛び降りて昇に斬りかかる。


「誰かと思えばお前か! 千春――」


 千春の描く剣筋はそれなりの手練れである昇の防御もすり抜ける。刀身は昇の首をとらえ、刈り取った。


「だまそうとしたお前が悪い。お前の根本的な死因は俺をだましたことだよ」


 その言葉は昇には届かなかった。



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