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18 疑惑の襲撃①

 ここはマルクト支部。引き渡し――もとい戦いに出ていないメンバーはここに残ることになっている。誰もが臓器売買組織や麗華たちを信用しなかったからだ。


「そういえば、千春は? 引き渡しに行くとは言ってなかったはずだけど」


 そう言ったのはヴェロニカ。


「別行動だとさ。ま、安心しろ。あいつは簡単に俺らを裏切るようなヤツじゃねえ」


 と、ジダンは言った。ヴェロニカは分かっていてもその不安はぬぐえない。


「……たまに千春の考えは分かりにくいことはあるけど」


 と言ったヴェロニカ。彼女はこの瞬間、何人もの気配――イデア使い特有の気配を感じた。


「来た。ジェットたちがいない時を狙って……」


 と、ヴェロニカ。


「やっぱりねえ。恐らくランスをこっちに返す気もないんだろう」


 そう言ったのはエミーリア。敵襲という状況でも彼女は冷静さを失わない。だからこそ不信感を抱く者もいた。ヴェロニカもそうだった。


「どうしてそんなに冷静でいられるの……! 敵がこっちに近づいている状況で! まさかあんたが敵を呼んだってこと? まあ、よそ者だからね……」


 ヴェロニカは言った。すると。


「言ってやるなよ。俺はエミーリアの仲間の晃真を信頼しているし、何より晃真はエミーリアのことを信用できると言っていたぞ」


 エミーリアに向けられた不信感をかき消したのはジダンだった。当のヴェロニカは不本意そうではあったが――


「……わかったよ。今は味方。それでいいんだね?」


 ヴェロニカは言った。


 そして、マルクト支部の敷地外。特有の気配の正体は、マルクト支部を不意するように陣取っていた。眼鏡の女ロムを筆頭に、何人もの使い手がマルクト支部を攻め落とそうとしていた。


「準備ができていないとは言わせない。せっかく麗華が引き受けてくれたのよ。必ずここを潰しなさい」


 と、ロムは言った。どうやら彼女がここで指揮を執っているようだ。


「最初の仕事がこれか。いいけどさ」


 キャスケットを被った女――ダフネが言った。


「さっさと終わらせるよ。早く取引のことを色々知りたいから」


 ロムたちは思い思いの場所からマルクト支部に突入した。大半は正面あるいは裏門から、壁を破壊できる者は壁を破壊して。乗り越えられる者は乗り越えて。だが、一部の者はある人物の前に引きずり出された。


「上出来だ。この調子で引き寄せて少しずつ撃破していくとしよう!」


 引きずり出した人物はジダン。混乱する戦闘員たちを素手で制圧してゆく。その様子に恐怖する者もいたが――わかり切ったような顔をした者が1人。


「貴男でしたか。私を直接マルクト支部へ招いた者は」


 優し気な中年男性ハリソン。服装や持ち物、その物腰から本業は何かしらの宗教の指導者のようでもあった。


「釣れた。今はお前を引きはがそう」


 ジダンは能力を発動した。紫色の印を踏んでいたジダンとハリソンがこの場から消える。2人が移動した先は地下室――それもかつてギャングが拷問に使っていた空間だ。

 2人以外に誰もいない空間で先に動いたのはジダン。マルクト支部を取り囲んだイデアの展開を解除してハリソンとの距離を一瞬で詰めた。すると。


「光あれ――光より審判の刃は生まれん」


 ハリソンがそう言うと、虚空に光のかたまりが現れ。ジダンが視界の端でとらえたときにそれは、ジダンの方に向かってきていた。


 ――おそらくあれに触れてはいけない。イデア使いの定石だ。


 所見の能力に触れてはいけない。ジダンは光の刃を回避。その瞬間に地面にイデアを仕込む。イデアが仕込まれた場所にはペンキで塗られたような印が刻まれた。


「おや、髪のみ言葉を拒否なさりますか」


 ハリソンがそう言うと逆さ十字の光が2人を取り囲む。その時からジダンは妙なものを感じていた。この男の能力の本質は何だ?

 ジダンの表情を読みとったのか、ハリソンは口を開く。


「無駄ですよ。髪の前にはすべて無意味です」


 ハリソンがそう言った瞬間。展開されたすべての逆さ十字から光が放たれる。普通なら避けられない。そんな中でもジダンは冷静だった。光が自身に命中するタイミングを見計らい、能力を発動する。すると、ジダンとハリソンが入れ替わり、光がハリソンに命中した。


「なっ……なぜ神は私を……いや……この異端者は」


 光の中、ハリソンは起きたことに気が付いた。


「異端結構! 神にすがるばかりでは進める未来にも進めん! だから俺は神を信じない!」


 ジダンはそう言う間にも仕込みを続ける。部屋の床には色とりどりのイデアが展開され、まるで花のようだった。


「天罰が下りますよ。いえ、天罰はこの私が神のご意志に従って下しますか。神の御心のままに」


 ハリソンの手から書物が消えた。かと思えば彼の両手に現れる十字の――逆さ十字の光。光を剣のように握り、ジダンに肉薄する。


「これこそが天罰。天なる神よ、この異端を……吸血鬼を清くしたまえ」


 避けられない。受け止めることもできない。が、ジダンはわずかな間で知恵をしぼる。そして導き出した答え。

 ジダンの拳がハリソンの顎を粉砕した。



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