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17 慈悲のない死神

 時は10分ほどさかのぼる。その時にオリヴィアが入った、鍵のかかった部屋にいたのは彼女ではなく麗華。


「さて、引き渡しは済んだか? 今頃ダンピールは心臓を抜かれて冷たくなた頃ね」


 麗華は声色を一切変えることなく言った。


「フフ……お前がここにいるせいね。もしそのダンピールがオリヴィアだたらどうする?」


「言うな。それに、俺の愛すべき仲間は客人を、ましてや俺の妹を差し出したのか……! あいつらはなぜ俺のために……! 俺には価値なんてないのに!」


 ランスは苦し紛れに言った。


「さあね? ま、私はこれから臓器摘出の様子を見てくるね。終わてたらお前は解放、自由の身ね」


 麗華はそう言って部屋を出ると外から鍵をかけた。そして、4階から2階へ。

 2階の手術室前。そこから見た限り、手術室のドアは開いている。


「な……何があたね。血の海じゃないか……」


 麗華が見たものは血の海と化した手術室。その奥には麗華自ら手配した闇医者の亡骸――もはや人の形さえとどめない塊が転がっていた。それだけではない。入口付近にも生前の姿さえもわからない亡骸が。

 ダンピールからの臓器摘出は失敗した。とはいえ、肝心のことがまだわからない。


「どこ行たね、あのダンピールは……」


 ターゲットはどこへ消えたのか。2人が殺されてからそう時間は経っていないようだが――


 かつん、かつんと足音が響く。キルスティはその音で緊張感を取り戻した。闇医者とグラシエラを倒し、脱力するもどうにか身を隠すことはできた。今になってその判断が正しかったと悟る。実際にドアの向こう側から足音がするのだ。


 ――果たして私はまだ戦えるか? あの女以上の相手なら、かなり厳しいだろうが。


 時折視界が歪む。グラシエラの能力こそ解けたが薬――グレゴリウムの効果は未だに続く。そんなことはお構いなしに足音は近付く。


 ――考えられるのは4つ。①相手はグラシエラより弱い、②(キルスティ)はグレゴリウムの力で強くなっていてヤツが強かろうが戦える、③味方――オリヴィアか晃真かジェットあたりの助けがある、④どれでもない、(キルスティ)はヤツになすすべもなく殺される。さて、どれだ。


 ピリピリとした感覚。キルスティはこれに覚えがあった。シンラクロスで戦ったモーゼスも同じくピリピリとした気配を放っていた。迫る相手は彼と同じく間違いなく強敵だ。違う点を挙げるとすれば、そこに余裕を残していながら明確な殺意と敵意がそこにあるということ。


 ドアノブが廻る。ヤツが来た。キルスティは身構え、両手に鋏を持った。


「お前だ。殺す、この麗華がこの手で殺すッ!」


 入ってきたヤツは麗華と言った。見た目こそ大して大柄でもない女だが、そこには妙な圧があった。

 彼女は殺しに慣れている。何より、強い。キルスティは立ち上がり、声を張り上げた。


「上等だ! てめえも医者や見張りと同じ地獄に送ってやる! 私と刺し違えても、だ!」


 それは自信か鼓舞か、はたまた虚勢か、キルスティ自身にも全くわからなかった。が、麗華にそんなことは関係ない。表情ひとつ変えずにキルスティの方へ突っ込んでくる。


 ――動きを見れば一発でわかる! 攻撃も大振りすぎる。おそらく拳一発で粉砕する気だろうが。


 隙は多い。キルスティが狙ったのは右側の首筋。攻撃を受け流し、首筋に鋏を入れるところまでは良かった。だが――鋏は妙な力にはじかれる。エネルギーを完全に吸収されたという方が正しいか。その直後、今度は蹴りに入る麗華。身を翻し、重く鋭い蹴りをキルスティの脇腹に命中させた。

 この一撃でキルスティの骨は何本も折れ、壁と床に叩きつけられて痛みに悶える。


 ――グレゴリウムの鎮静効果まで上回ってきやがる……いや、わからないだけで内臓の一つや二つは……


 死神・麗華は無慈悲にも迫る。現実は残酷だ。


「もう立てないか。脆いね。せかくこの姿のお披露目だたというのに。おい、ドナー。麗華は美しいか? 麗華は、可愛いか?」


挿絵(By みてみん)


 麗華は言った。

 彼女は今、白黒のゴシックロリィタに身を包んでいる。間違いなく通常時と印象は違うだろう。そんな彼女を目の前にしてキルスティは何も答えない。否、答えられない。


「沈黙はノーと取る。やはりお前は殺すね」


 麗華は言った。

 これが死の宣告だとキルスティが思ったときだ。横やりが入ったのは。


「ドナーが誰だって? 俺がドナーだ」


 その声はジェット。どうやらまだ状況が変わったらしい。麗華は声の方を向くと床からの攻撃を受ける。


「なんだ……!?」


 動揺はした。


「そうだ、俺はここだぜ。お望みのドナーだ」


「……麗華が求めてたのは半吸血鬼(ダンピール)ね。だがお前は違う。吸血鬼と人間の間に生きて、ましてや五体満足な男が生まれるはずがないね」


 麗華はジェットの姿を見るなり吐き捨てた。


「ああああ、うるせえな! 少しは黙れっつってんだろ! キルスティに触るな!」


 そう言うと、ジェットは床、天井、壁からの攻撃を繰り出す。そのうちの何発かは麗華にヒット。それでも麗華はすぐに攻撃のパターンを掴む。4方向からの攻撃は、今となっては簡単に避けられる。


「へへ……キルスティ……床壊してでも逃げろよ」


 キルスティがジェットの声を聞いたのはそれが最後だった。

 ジェットは一瞬にして消えたと思えば麗華に立ちふさがるような――彼女がキルスティの元へ行けないように移動した。


「おらよ! もうキルスティに手出しはできねえよ!」


 からの一撃。麗華は完全に受け止めたが、確実に後ろに下がっている。ダメージが入らなくとも確実に引きつけている。これでいい、とジェットがさらなる攻撃に移ろうと跳びあがったときだ。


「うらああああああ! 殺す、お前を殺す!」


 叫ぶ麗華。彼女はジェットに一瞬で詰め寄り、左脚を掴むとそのまま床に叩きつけた。


 ――まだだ……ここから麗華の背後に!


 叩きつけられたところから、麗華の背後の天井へ。ここから麗華の後頭部を狙ったが――


「あああアアアアッ!」


 麗華が吼え、身を翻してからの右ストレート。姿勢から大した威力ではないと考えたジェットが甘かった。その拳には、彼女の体格やそのときの姿勢からは考えられない破壊力が込められていたのだ。

 胴体の骨が砕かれ、体に風穴が空いた。その時点でジェットは事切れていた。


「……殺した。麗華が、確実に。次は……」


 ふと、麗華は妙な圧を感じた。この建物全体、特に4階から。この気配は邪悪だ。


「次は……影使いね」



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