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16 覚悟ができた者たち

「そんなんじゃ俺には勝てねーよ」


 晃真には確かにそう聞こえていたが、気にしてなどいなかった。相殺できずとも、アントニオのいる方に回り込むことができればいい。熱の塊をぶつけてできた隙にアントニオの方へ突っ込む。


「ちっ……させるか――」


 晃真の意図に気づいたクルス。回り込もうとするが間に合わない。晃真は身を翻し、熱の塊を放った。


「避けろ、クルス! 突っ込むな!」


 声を荒げるアントニオ。当のクルスは刀を持っていない左手で熱の塊に触れる。熱の塊はクルスの手で吸収された。その様子に晃真だけでなくアントニオも目を丸くする。


「おいおい……聞いてねえぞ。そういう事もできるなんてよ」


 アントニオは言葉を漏らす。


「忘れたんだろう。ま、君は安心して戦え」


 クルスに言われ、アントニオはにやりと笑う。これで勝った、とでも思ったのだろう。確かに晃真は一瞬、敗北を悟った。が――対イデア炸裂弾の存在を思い出す。晃真は炸裂弾を手に取り、投げる。


「ならばイデア抜きでのステゴロだ!」


 炸裂弾が弾け、辺りが強烈な光に包まれた。光が当たった範囲に展開されていたイデアはことごとく消されていった。残ったのは戦っていた3人と、それぞれが持っていた武器だけ。晃真は閃光にまぎれてクルスの懐へ。


「おい! イデアが出せねえぞ!」


 晃真の耳に入るアントニオの声。彼は今、晃真の背後にいる。一方のクルスは――


「まずは1人」


 タイルの上にビチャビチャと血が滴る。薄れゆく光の中でアントニオが見たものは、胸に風穴を開けられたクルスだった。そうなるまでは一瞬だった。

 アントニオはぎりりと歯を軋らせ。


「てめえ、やりやがったな! 殺す!」


 目が眩んだ中で逆上するアントニオ。まだ光がわずかながらも残る中。アントニオはイデアを展開しようと試みた。当然ながら、そんなことは無駄だ。展開してもイデアはたちどころにかき消されるだけだった。


「やってみろ、やれるものならな」


 効果が切れるまでのわずかな間、晃真はアントニオに詰め寄り。


 ――ここで決める。


 拳を叩き込む。同時にアントニオがはっきりと星型のイデアを展開した。今度はかき消されることもなく、形状を保っている。どうやら遅かったらしい。


「へへ……勝ったのはこの俺だ」


 アントニオがそう言うと、星型のイデアが光る。直後、晃真は右腕に激しい痛みを覚えた。

 このとき、晃真は右腕が消されたことに気づく。が、その痛みが晃真の目を覚まさせた。片腕で素手喧嘩(ステゴロ)に持ち込むのは得策ではない。晃真はイデアを右腕があった部分に展開。切断面から先の部分をイデアで形作る。


 ――やはり、熱い。だが俺はまだ戦える。ちょうど星の動きも読めてきた。何より、覚悟もできた。やってやる。


 切断面に痛みが走る。それでも晃真は止まらない。輝く星を瞬時に見切り、その間を潜り抜けた。


「クソ! 近づけば消えるはずだろ!?」


 杏と新生は叫び、星は光る。だが、その程度で晃真に攻撃は通らなかった。アントニオの攻撃はそれだけ単調になっていたし、晃真はそれ以上に速かった。そして、晃真はアントニオの懐へ――


「悪いな、こんな最期にしてしまって」


 そう言うと同時に灼熱の腕でアントニオの顔面を掴む。すると熱がアントニオを焼き潰す。晃真の手に捕まれてからほどなくして、アントニオは事切れた。


「だがお前は俺たちに手を出した。降りかかる火の粉は払う。お前たちは俺にとっての火の粉だった。それだけだ」


 晃真はアントニオから手を離した。アントニオの亡骸は糸の切れた人形のように地面に落ちた。


 決着がついたあと、晃真は右腕の切断面を見た。ある程度は熱とイデアで止血されているようだが、些細な事で傷口は開きそうだった。晃真は服を破いて傷口を覆うように巻いた。




 時を同じくして、建物の4階。クラウディオを破ったオリヴィアはそこに立ち入っていた。

 居場所を探るべく、建物内――特に4階にイデアを展開した。ランスはいないか――


「この階にいる。やっぱり、最上階じゃないのね」


 オリヴィアは言った。影はランスの居場所をオリヴィアの脳内に伝える。この先に鍵のかかった部屋がある。影で掴んだ情報によると、この部屋の中にランスがいる、オリヴィアは足を急がせた。


 やがて、鍵のかかったドアの前にたどり着く。オリヴィアは最適解が分かっていたかのように、影をドアのカギ穴に差し込み。がちゃり。鍵は開いた。オリヴィアはすぐさまドアを開けた。


「ランス!」


 オリヴィアが見たものは椅子に鎖で縛られて目隠しまでされたランスだった。見たところ、縛られているだけではないらしい。体のいたるところから血が滲んでいる。痣だってあった。恐らくこの建物にいる誰かに暴行されたのだろう。


「その声はオリヴィアか。お前が引き渡されることになったのか?」


 ランスは言った。


「違うよ。私はこの組織をぶっ潰しに来た」


 と、オリヴィア。彼女はランスに近寄るとまず目隠しの黒い布を外す。そこにはランスの綺麗な瞳があった。ランスはオリヴィアに対し、何を思ったのか表情を変える。


「今からでも遅くない。撤退するんだ。麗華は……彼女の背後にいる何かは強すぎる。彼女を倒したとして、背後の連中は黙っているはずがない……!」


 ランスは言った。


「退かない。わたしもパスカルも、サーリーも千春も納得した上でのことだから。あの千春だって納得したんだよ?」


 と、オリヴィア。ランスの言う背後だってオリヴィアには容易に想像がつく。


 ――カナリス・ルート。キルスティや晃真の敵。もし2人やエミーリアがこの場にいれば、多分わたしと同じことを言う。多分だけど、敵はその背後からたどれるはず……


 オリヴィアは鎖を切断し。


「行こう、ランス。引き渡しなんてなかったんだよ」


 彼女はランスを連れ出した。



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